目次
犯罪に手を染めるのはなぜか――元受刑者が語る「過ちの入り口」
- ✅ 番組では、罪を犯した理由は単純な「悪意」だけではなく、見栄、お金、身近な環境、所属するコミュニティの空気が重なっていたことが語られていました。
- ✅ 当事者の語りからは、「それが当たり前」に見えてしまう感覚が、判断を少しずつ鈍らせていく構造も見えてきます。
- ✅ つまり、犯罪を防ぐには本人の責任だけで終わらせず、どんな環境が人を追い込み、引き寄せるのかまで見る必要があります。
このテーマでは、なぜ人は罪に手を染めてしまうのかという出発点が扱われていました。番組に出演したのは、薬物事件、特殊詐欺、窃盗、危険運転致死傷など、それぞれ異なる過去を持つ当事者たちです。テーマは重いものですが、語られていた内容は単純な善悪の話ではありませんでした。かんたんに言うと、「悪いことだと分かっていたのに、なぜ踏み越えてしまったのか」という問いに対して、お金の問題、周囲の価値観、承認欲求、依存、そして育ってきた環境が複雑に絡んでいたのです。
番組の重要なポイントは、犯罪を正当化するのではなく、過ちの入り口を可視化しようとしていた点にあります。再犯を防ぐためにも、最初の一歩がどこで生まれたのかを見つめる必要がある。そんな問題意識が、全体を通して共有されていました。
私は、最初から大きな罪を意識していたわけではありませんでした。けれども、振り返ると、少しずつ感覚がずれていったのだと思います。周りにいる人たちの考え方や、その場で当たり前とされる空気に合わせるうちに、自分の判断もその中に引っ張られていきました。今なら明らかにおかしいと思えることでも、その時はおかしいと感じにくくなっていたのです。
罪を犯した理由を一つだけで説明するのは難しいです。お金が欲しかったこともありますし、見栄を張りたかった気持ちもあります。自分の居場所を守りたかったこともあります。そうしたものが重なって、気づけば引き返しにくい場所まで進んでいました。つまり、一瞬で何かが壊れたというより、少しずつ感覚が麻痺していったのだと思います。
「普通」が入れ替わるコミュニティの怖さ
番組内では、犯罪に近い世界に長くいると、その中の常識が自分にとっての常識になってしまう、という指摘がありました。ここが大きな論点です。つまり、一般社会では明らかに逸脱している行為でも、狭いコミュニティの中では「みんなやっている」「これくらい普通だ」という感覚に変わってしまうのです。
特殊詐欺に関わった当事者の話からは、最初は罪悪感があっても、続けるうちに慣れてしまうという危うさがにじんでいました。言葉が上手いことや、人と話す力があること自体は本来なら別の場面で生かせる能力です。ところが、その力が閉じた集団の中で「稼ぐための技術」として評価されると、本人の中でも使い道の基準がずれていきます。能力の問題ではなく、能力がどこで承認されるかが重要だということです。
私は、その世界の中で評価されることに慣れてしまっていました。うまく話せることや、人を動かせることが、良い方向ではなく、その場の利益のために使われていました。最初は後ろめたさがあっても、周りから認められると感覚は少しずつ変わっていきます。止まる理由より、続ける理由のほうが目に入るようになるのです。
今思えば、本来の社会の基準から離れていたのだと思います。けれども、その場にいる間は、その基準の外側が見えにくくなります。だからこそ、もっと早い段階で外の価値観に触れる機会や、自分を引き戻してくれる人との接点が必要だったのだと感じています。
― 舩井氏
見栄、プライド、お金が判断を鈍らせる
もう一つ印象的だったのは、見栄やプライドがお金の問題と結びつき、犯罪への入り口になっていたことです。元レディース総長として語った出演者は、後輩を連れて動くこと、目立つ存在でいること、周囲に弱く見られないことに強い意識があったと振り返っていました。ここで見えてくるのは、犯罪が単なる生活苦だけで起きるわけではないという現実です。
もちろん、経済的な困窮は大きな要因です。ただ、番組では「稼ぎたい」だけでなく、「周囲にどう見られるか」「その集団の中でどう立つか」が大きく作用していました。つまり、必要なお金というより、立場を保つためのお金が人を動かすこともあるのです。身近に違法なものがあり、しかも手を出しやすい環境があると、その一線は想像以上に低くなります。
私は、見栄やプライドにかなり縛られていたと思います。周りにどう見られるかを気にして、強く見せたい、下に見られたくないという思いが大きくなっていました。そうなると、お金は生活のためだけではなく、自分の立場を保つための道具になってしまいます。
しかも、その頃は薬物や危ない人間関係が身近にありました。遠い世界の話ではなく、手を伸ばせば届くところにあったのです。今振り返ると、それがどれだけ危険だったかよく分かります。でも当時は、それを異常だと思わないくらい、環境に飲まれていたのだと思います。
― 廣瀬氏
「かっこよさ」の勘違いが進路をゆがめる
危険運転致死傷で服役した出演者の語りでは、「自分がかっこいいと思っていたものが間違っていたのかもしれない」という振り返りがありました。これはとても象徴的な言葉です。犯罪や反社会的な振る舞いに近い文化の中では、無茶をすること、強さを見せること、怖がられないことが、魅力や価値のように見えてしまう場合があります。
ここで大事なのは、そうした価値観が本人の中だけで自然発生するわけではないという点です。育ってきた環境、出会ってきた大人、身を置いたコミュニティ、憧れた文化。その積み重ねのなかで「何がかっこいいか」が決まっていきます。つまり、過ちの入り口は、行為の直前ではなく、その前の価値観の形成段階から始まっているということです。
私は、当時の自分なりに、こういう生き方がかっこいいと思っていました。強く見えることや、はみ出していることに価値があるように感じていたのです。でも今思うと、その感覚自体が間違っていたのだと思います。そこを間違えると、その先の選択も少しずつずれていきます。
もちろん、すべてを環境のせいにするつもりはありません。最終的に選んだのは自分です。ただ、子どもの頃からどんな価値観に囲まれていたかは、とても大きかったと思います。もし別の出会いがあって、別のかっこよさを知っていたら、違う道もあったのかもしれないと感じています。
― 竹内氏
依存と「楽に稼げる」という感覚
番組では、ギャンブルや違法ビジネスに共通する「楽に手に入る感覚」も重要な背景として語られていました。汗水を流して働いても収入は限られる。一方で、違法な手段では短期間で大きなお金が入る。この落差が、一度うまみを知った人の判断を強く揺らします。
これは単なる怠け心として片づけられる話ではありません。人は一度、強い刺激や即効性のある報酬に慣れると、地道な努力の価値を感じにくくなることがあります。依存とは、特定の行動や刺激から離れにくくなる状態のことです。つまり、問題は意思の弱さだけではなく、脳や感覚が「すぐ得られる快」に引っ張られる構造にもあります。
私は、普通に働いて得るお金の重さと、簡単に入ってくるお金の軽さを比べてしまっていました。本当は軽いはずがないのに、その時はそう見えてしまっていたのです。一度その感覚を覚えると、地道に働く意味を見失いやすくなります。
しかも、依存が入ると、自分で自分を止めるのが難しくなります。お金だけではなく、刺激そのものを求めてしまうこともあります。だから、ただ反省するだけでは足りないのだと思います。何に引っ張られていたのかを理解しないと、同じ場所に戻りやすくなると感じています。
― 前科門氏
過ちの背景を直視することが再犯防止の出発点になる
このテーマ全体から見えてきたのは、犯罪の背景には、個人の資質だけでは説明しきれない要素がいくつもあるということです。見栄、貧困、依存、閉じたコミュニティ、誤った価値観、身近すぎる誘惑。どれか一つだけではなく、複数が重なることで、境界線は曖昧になります。
もちろん、だからといって責任が軽くなるわけではありません。ただ、ここを正確に見ないまま「本人が悪い」で終わらせると、同じ入り口を社会の別の場所で繰り返すことになります。つまり、再犯防止を考えるなら、処罰のあとだけではなく、そもそも人がどこでつまずくのかを知る必要があります。次のテーマでは、その延長線上にある「どうすれば再犯を減らせるのか」という問題に進んでいきます。
再犯率をどう下げるのか――立ち直りに必要な内面の変化とは
- ✅ 番組では、再犯を防ぐうえで大切なのは、仕事や支援の有無だけでなく、「もう戻りたくない」と本人が実感できる内面の変化だと語られていました。
- ✅ 夢中になれること、欲望との距離の取り方、依存と向き合い続ける姿勢が、立ち直りを支える大きな軸として浮かび上がっていました。
- ✅ ただし、気持ちだけで再犯を防ぐのは難しく、社会との接点や継続的な支えがなければ、元の生活に引き戻されやすい現実も見えてきます。
このテーマでは、再犯率の高さを前提にしながら、どうすれば同じ過ちを繰り返さずに済むのかが話し合われていました。番組内では、再犯者率が高止まりしている現状にも触れられ、処罰しただけでは問題は終わらないことが共有されていました。ここがポイントです。社会の側が「罰を受けたのだから終わり」と考えても、本人の中で過去の価値観や依存、誘惑との関係が整理されていなければ、再び同じ場所に戻ってしまう可能性があるのです。
また、出演者の語りから見えてきたのは、立ち直りのきっかけは一つではないということでした。表現活動に救われた人もいれば、自分の経験を伝える活動を生きがいにしている人もいます。一方で、依存の問題は「反省したから終わり」とはならず、今もなお距離を取り続ける努力が必要だと語られていました。つまり、再犯防止とは、気合いや根性の話ではなく、日々の選び直しを支える仕組みの話でもあります。
私は、再犯をしないためには、ただ「もうしません」と思うだけでは足りないと感じています。その時だけ反省しても、時間が経つと人の気持ちは揺れますし、環境が変われば弱さも出てきます。だからこそ、自分が何に引っ張られやすいのかを知っておく必要があると思います。
立ち直るというのは、過去を消すことではありません。過去を持ったままでも、今日をどう過ごすかを選び続けることだと思います。すぐに完璧にはなれませんし、気持ちが揺れる日もあります。それでも、戻らない理由を自分の中に持てるかどうかが大事なのだと感じています。
夢中になれるものが「戻らない理由」になる
番組の中で繰り返し出てきたのが、「夢中になれること」の大切さでした。これは単なる趣味の話ではありません。かんたんに言うと、自分の時間や気持ちをまっすぐ向けられるものがあると、人は過去の刺激や危うい人間関係から少しずつ距離を取りやすくなります。
アーティスト活動を続ける出演者は、刑務所の中で絵を描き続けた経験を語り、表現することそのものが日々を支える力になっていたことをにじませていました。また、特殊詐欺の経験を持つ出演者は、今は自身の体験を若い世代に伝える活動に力を注いでいると語っていました。闇バイトや特殊詐欺の危険性を伝えることが、自分自身にとっても「もう戻らない」という意志の確認になっている。そうした実感がにじむ内容でした。
つまり、再犯を防ぐためには、失ったものを数えるだけでなく、これから向かう先を持てるかどうかが重要です。何かに打ち込める状態は、心の空白を埋める役割も果たします。逆に言えば、その空白が大きいままだと、過去の刺激や手軽なお金、危険なつながりが入り込みやすくなるのです。
私は、出所してから犯罪をしようと思わなくなった理由の一つは、今の自分が夢中になれることを持てているからだと思っています。自分の経験を伝える活動をしていると、過去の失敗が無駄ではなかったと思える瞬間がありますし、それが今を生きる力にもなっています。
誰かに危険を伝えることは、同時に自分に言い聞かせることでもあります。あの世界に戻ってはいけない、その先にある後悔を知っているからこそ、今の活動を続けたいと思えます。何かに本気で向き合えることが、再犯を遠ざける力になるのだと感じています。
― 舩井氏
「欲しいもの」との距離をどう取り直すか
再犯の話題では、欲望との向き合い方も大きな論点でした。番組では、服やお金、周囲からの見られ方など、「もっと欲しい」という感覚がどこまでも膨らんでいく怖さが語られていました。これは一見、ぜいたくな願望のようにも見えますが、実際には承認欲求や劣等感ともつながっています。
刑務所生活の中では、持ち物も自由も極端に限られます。その環境で暮らすうちに、「本当に必要なものは多くない」と感じる人もいます。実際、出演者の一人は、やるべきことや打ち込めるものがあれば、それだけで日々はかなり満たされるのではないかと語っていました。この視点はとても重要です。つまり、再犯防止とは収入や監視だけの問題ではなく、「何を満足と感じるか」を立て直すことでもあるのです。
もちろん、現実には簡単ではありません。出所後に社会へ戻れば、欲しい物も増えますし、人と比べる場面も増えます。それでも、何でも手に入れようとする生き方から少し距離を取れるかどうかが、危ない道に戻らないための分かれ目になることが見えてきます。
私は、中にいる間に、物が少ない生活をずっとしていました。最初は不自由に感じても、その中で過ごしていると、なくても生きていけるものが意外と多いことに気づきます。出所したらあれもこれも欲しいと思う気持ちはもちろんありますが、それに振り回されすぎると、また同じところに戻ると思っています。
結局、人によく見られたいとか、もっと持ちたいとか、そういう気持ちは誰にでもあると思います。でも、そこに飲まれすぎないことが大事です。自分にとって本当に必要なものは何かを考え直せるようにならないと、再犯は止まりにくいのだと感じています。
― 堀切氏
依存の問題は「反省」だけでは終わらない
番組の中でも特に重かったのが、ギャンブル依存と再犯の関係です。依存とは、やめたいと思っても行動を止めにくくなる状態のことです。ここでは、本人の意思だけに責任を押しつけても解決しにくい現実が語られていました。
窃盗に至った背景について語った出演者は、ギャンブルの問題を断ち切れなければ、結局は同じことの繰り返しになると率直に話していました。印象的なのは、依存が「もう完全に終わった」とは言い切らなかったことです。これは非常に大切な視点です。立ち直りを、美談のように一度の決意で完結させていなかったからです。
つまり、再犯防止には、本人が弱さを認められることも必要です。強がって「もう大丈夫」と言い切るのではなく、まだ危うさがある、自分は引き戻される可能性があると理解しておく。その前提があるからこそ、ルールを作ったり、近づかない工夫をしたり、周囲に助けを求めたりできるようになります。ここが、反省と回復の違いだと言えそうです。
私は、ギャンブルの問題が完全になくなったとは思っていません。今は気持ちが落ち着いていても、環境が変わったり、行ける状況ができたりしたら、また揺れる可能性はあると思っています。だからこそ、自分は大丈夫だと言い切らないようにしています。
反省することは大事です。でも、それだけで依存が消えるわけではありません。自分が何に弱いのかを知って、近づかない工夫をして、必要なら周りの力も借りる。その積み重ねがないと、また同じところに戻りやすいと感じています。
― 前科門氏
支援があっても、最後は自分の中で「いらない」と思えるか
再犯防止の議論では、周囲の支援の重要性と同時に、本人の内側で起きる変化の必要性も語られていました。どれだけ周囲が助けても、本人の中に「もうこの生き方はいらない」という感覚が育たなければ、また過去のパターンに戻ってしまう。そんな厳しい現実が、出演者たちの言葉から伝わってきます。
ただし、これは自己責任論に戻ることとは違います。むしろ重要なのは、その変化が起こりやすい環境をどうつくるかです。夢中になれることがある、働く場所がある、話を聞いてくれる人がいる、自分を必要としてくれる場がある。そうした条件がそろって初めて、「もう戻らなくていい」と感じやすくなります。
つまり、再犯率を下げるには、本人の覚悟と社会の受け皿を切り離して考えないことが大切です。どちらか片方だけでは続きません。そしてこの話は、そのまま次のテーマで扱う「社会復帰の壁」にもつながっていきます。変わりたいと思っても、戻る場所がなければ立ち直りは続けにくい。その現実が、次の章の中心になります。
社会復帰の壁はなぜ高いのか――元受刑者を受け入れる仕組みを考える
- ✅ 番組では、更生したい気持ちがあっても、仕事、偏見、ネット上の批判などが重なり、社会復帰のハードルが非常に高いことが語られていました。
- ✅ 特に大きいのは、「反省していても受け入れ先がない」という現実で、これが再犯防止の難しさにもつながっています。
- ✅ つまり、再犯率を下げるには本人の努力だけでなく、失敗した人にもう一度立ち上がる場をどう用意するかが重要になります。
このテーマでは、罪を犯したあとに社会へ戻ることの難しさが、かなり率直に語られていました。番組全体を通して見えてきたのは、反省と更生の意思があっても、それだけでは社会復帰は成り立たないという現実です。かんたんに言うと、出所してからの人生には「もう一度やり直したい」という本人の思いだけでは越えにくい壁がいくつもあるのです。
その壁には、仕事の見つけにくさ、前科への偏見、ネット上の誹謗中傷、そして「一度でも罪を犯した人はずっと許されないのではないか」という空気が含まれます。ここが大きなポイントです。再犯防止は、本人の反省だけを見ていても十分ではありません。戻る場所がないまま放り出されれば、過去の人間関係や慣れた生活に引き戻されやすくなるからです。番組は、まさにこの受け皿の問題を正面から扱っていました。
私は、出所したあとが本当の意味で苦しい時間になることがあると感じています。中にいる間は、ある意味では生活の枠組みが決まっています。でも外に出ると、自分で全部を選ばなければいけません。そのときに、働ける場所がない、信用してもらえない、過去を話した瞬間に距離を置かれる、そういうことが続くと、前に進む気持ちが削られていきます。
もちろん、罪を犯した責任は消えません。それでも、責任を引き受けながら生き直そうとする人に、何も場が用意されていないのは厳しすぎるとも感じます。戻る場所がない人ほど、また同じ世界に引っ張られやすくなるからです。再犯を減らしたいなら、反省の先にある暮らしまで考えないといけないと思います。
「雇ってくれる会社がない」という現実
番組の中で特に重く響いたのは、前科を正直に伝えたうえで雇ってくれる会社がほとんどなかった、という話でした。これは社会復帰の壁を非常に象徴しています。一般的に見れば、企業が採用に慎重になるのは理解しやすい面もあります。取引先との関係、社内の不安、万が一のトラブル。そうした事情があるからです。
ただ、その論理だけで進めると、過去を隠さずに生きようとする人ほど働く場所を失いやすくなります。つまり、正直であろうとすることが不利になるのです。これはかなり深刻です。更生とは、過去を隠すことではなく、過去と向き合ったうえで新しい生活を築くことのはずです。それなのに、その入り口で弾かれてしまえば、再出発の道は極端に細くなってしまいます。
元受刑者を受け入れる会社を運営する出演者の存在は、だからこそ重要でした。受け入れる側にも大変さはあるものの、同じ経験を持つからこそ事情を理解できるという視点が示されていました。ここで見えてくるのは、社会復帰支援とはきれいごとではなく、かなり具体的な雇用の問題だということです。
私は、出所してから一番つらかったのは、働こうとしても入口で止められることだったと思います。最近まで刑務所にいましたと正直に伝えたら、それだけで難しくなることが何度もありました。責任を取って生き直そうとしているのに、その最初の一歩を踏ませてもらえない感覚はかなり苦しいです。
だからこそ、過去を隠さなくても働ける場所の意味は大きいです。隠し続ける働き方は、いつ知られるかと怯えながら生きることにもなります。受け入れてくれる場があるだけで、生活はもちろん、気持ちの落ち着き方も大きく変わるのだと思います。
― 廣瀬氏
「反省していない」と見なされる息苦しさ
社会復帰の壁は、就労だけではありません。番組では、少し表に出ただけで「反省していない」と言われてしまう空気も語られていました。音楽活動や発信活動をする出演者に対して、笑っているだけで批判が向く、何かを始めるだけで否定される。こうした反応は、当事者にとってかなり大きな重荷になります。
もちろん、被害者感情への配慮は欠かせませんし、罪を軽く扱ってよいわけでもありません。ただ、何をしても「一生黙っていろ」と言われるような状態になれば、社会復帰は現実的に成り立ちにくくなります。ここで大切なのは、反省と沈黙を同じものとして扱わないことです。反省している人が、働くことも、表現することも、社会と関わることも許されないのであれば、立ち直りの道そのものが細ってしまいます。
番組は、この空気の問題をかなり丁寧に拾っていました。つまり、制度だけでなく、世の中のまなざしそのものが社会復帰を左右しているのです。再犯防止を本気で考えるなら、厳しさだけを積み上げることが本当に有効なのかは、改めて考える必要がありそうです。
私は、外に出てからのほうが、人の目を強く感じることがありました。何か活動をすると、すぐに反省していないように見られることがあります。でも、自分としては過去を消したいわけではなくて、過去を背負ったまま生きる方法を探しているだけです。
ずっと下を向いていれば反省していると見なされて、前に進もうとすると叩かれるのだとしたら、どう生きればいいのか分からなくなります。もちろん厳しい声がなくなるとは思っていません。それでも、やり直そうとする人まで全部閉め出す空気は、再犯を防ぐうえでも良くないと感じています。
― 舩井氏
夢があっても、社会に戻ると遠くなる
もう一つ印象的だったのは、多くの受刑者には「出たらやりたいこと」があるのに、実際に出所するとその夢が急に遠くなる、という語りでした。これはとてもリアルです。刑務所の中では、出所後の希望が支えになることがあります。ところが、外に出た瞬間に現実の壁が立ちはだかる。住まい、仕事、人間関係、生活費。その一つひとつが、夢より先に片づけなければならない問題として押し寄せます。
しかも、一度つまずいた経歴があることで、普通のスタートラインに立つこと自体が難しくなります。つまり、本人のやる気が足りないというより、助走をつける場所がないのです。番組では、出所後の社会は居心地が悪いという感覚も共有されていました。この「居心地の悪さ」は、単なる気分の問題ではなく、歓迎されていないという実感から生まれるものだと言えます。
だからこそ、やりたいことを持っているだけでは足りず、それを現実につなげる橋渡しが必要になります。就労支援、住まい、相談先、日常の居場所。こうしたものが整って初めて、夢は遠い理想ではなく、続けられる目標になります。
私は、出たらこれをやりたい、あれをやりたいと思っている人は本当に多いと感じています。小さいことでも、ちゃんと持っている人はたくさんいます。でも、外に出ると急に現実が重くなって、思い切って動き出すことが難しくなるのです。
やりたいことがないというより、やりたいことまでたどり着く前に疲れてしまうのだと思います。社会の中で居心地の悪さを感じると、どうせ無理だと思いやすくなります。だから、気持ちだけを責めるのではなく、その先に進める環境を作ることが大事だと感じています。
― 竹内氏
受け入れる場があること自体が再犯防止になる
番組の終盤で見えてきたのは、セカンドチャンスは甘やかしではなく、再犯防止の現実策だという視点です。ここはとても重要です。元受刑者を受け入れる会社や、過去を隠さずに働ける場所があることで、生活の安定だけでなく、自分はここにいていいのだという感覚も生まれます。この感覚は、思っている以上に大きいはずです。
逆に言えば、社会から完全に排除された人は、元の人間関係や危うい稼ぎ方に戻りやすくなります。そこに慣れていた人ほど、その世界は手っ取り早く、入り方も分かっているからです。つまり、受け入れ先を増やすことは、単に優しさの問題ではなく、治安の問題でもあります。
このテーマ全体を通して、番組は「厳しく罰すること」と「再び罪を犯させないこと」は、必ずしも同じではないと問いかけていました。社会復帰の壁が高すぎれば、反省した人も立ち直りきれません。だからこそ必要なのは、責任をあいまいにすることではなく、責任を負ったあとに生き直せる仕組みをつくることです。ここまで見てくると、この番組の核心は、犯罪をどう裁くかだけではなく、過ちのあとに社会が何を用意できるのかにあったと言えそうです。
出典
本記事は、YouTube番組「罪を犯した人たち】なぜ過ちを?再犯率どう下げる?社会復帰の壁は?|アベプラ」(EMA Prime #アベプラ【公式】公開)の内容をもとに要約しています。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
再犯は、個人の意思だけで説明できるのでしょうか。政府白書の統計や公的資料、国際機関の報告、査読研究を突き合わせ、再犯防止の条件と限界を整理します。[1,2,3,5,6,7]
再犯をめぐる議論は、「反省が足りない」といった内面の評価に寄りがちです。一方で、公的資料を見ていくと、就労・住居・治療・人間関係など、複数の条件が同時に論点になります。再犯は単一要因で捉えにくく、本人の行動変容を支える仕組みと、生活の土台を支える受け皿が組み合わさる場面が多いと考えられます。[1,7]
ただし、統計の「指標」を取り違えると、結論がずれやすい点には注意が必要です。たとえば「出所後の再入率」と「検挙人員に占める再犯者率」では分母が異なり、同じ罪名でも見え方が変わってきます。本稿では、数値を示す際に指標の種類を明示し、比較可能な範囲にとどめます。[1,2]
問題設定/問いの明確化
本稿の問いは二つです。第一に、再犯を「本人の決意」だけでどこまで抑えられるのか。第二に、社会側が用意できる条件(住居、雇用、治療、相談先、つながり)が再犯防止にどう関わるのか、です。再犯防止推進白書の概要でも、生活基盤の不安定さや支援の必要性が繰り返し扱われています。[1]
この問いには、「治安の確保」と「やり直しの可能性」をどう両立させるかという価値判断も含まれます。投獄の拡大が社会に与える影響を検討した報告書では、犯罪減少への寄与が限定的である可能性や、望ましくない社会的帰結も論点として示されています。単一の政策で解決を期待しにくい領域だ、という前提を置けます。[6]
定義と前提の整理
「再犯」には、測り方がいくつもあります。白書等でよく使われるのは、出所受刑者が一定期間内に刑事施設へ再び入る割合(再入率)や、検挙人員に占める再犯者の割合(再犯者率)などです。分母と観測期間が違うため、罪名ごとの高低を断定的に並べると、誤解が生じやすくなります。[1,2]
また、依存症のように再発が起こり得る領域では、本人の意思を尊重しつつも、再発リスクを前提にした支援設計が重要になります。WHOは依存を慢性的で再発し得る状態として説明しており、短期の「気持ちの切り替え」だけで完結しにくいことを示唆しています。[3]
エビデンスの検証
主な罪名別「2年以内再入率」は、罪名間で単純な優劣をつけにくい
白書概要には、主な罪名別の「2年以内再入率」が示されています。たとえば令和4年(2022年)時点の値として、窃盗が19.4%、傷害・暴行が11.5%、覚醒剤取締法違反が10.6%、性犯罪が6.2%とされています。ここだけを見る限り、少なくともこの指標とこの年次では、覚醒剤取締法違反が他の罪名より一貫して高いとは言いにくい構図です。[1]
この点は、再犯の議論で「何を比較しているか」をはっきりさせる必要性を示しています。2年という短い観測期間であること、対象が「出所受刑者」に限定されること、出所形態の違いなど、指標の前提条件をそろえなければ、罪名の性質を単純に序列化しにくいと考えられます。[1]
一方で「検挙人員に占める再犯者率」では、覚醒剤事犯が高水準とされる資料がある
厚生労働省の資料では、覚醒剤事犯の検挙人員に占める再犯者の割合(再犯者率)について、令和4年度の検挙人員6,289人のうち再犯者数4,258人で、再犯者率67.7%と示されています。さらに、過去10年間おおむね6割超の高水準が続いている、という整理も付されています。これは「出所後の再入率」とは分母が異なる指標で、同じ“再犯”でも見える景色が変わる代表例です。[2]
そのため、「薬物関連は再犯が高い」と一般化する場合には、どの指標(再入率か、検挙ベースの再犯者率か)を根拠にしているのかを明確にすることが推奨されます。本稿では、薬物領域については「検挙人員ベースの再犯者率が高水準とされる資料がある」と指標を限定して述べ、罪名間の単純比較は避けます。[1,2]
介入の効果は「内容」だけでなく「実装の条件」で変わり得る
再犯防止プログラムについては、認知行動的アプローチ(CBT)を含む介入が、再犯を減らす方向に関連するというメタ分析があります。ただし、効果は一様ではありません。対象のリスク水準や、プログラムの設計・実施の質、運用の継続性といった条件によって変動し得ると整理されています。つまり「やるか/やらないか」だけではなく、「どう設計し、どう運用するか」が論点になります。[5]
「入口の狭さ」は、本人の意欲とは別に生活基盤の確立を難しくし得る
社会復帰の障壁として、雇用の入口にある不利は重要な論点です。犯罪歴が採用過程で不利に働くことを示す監査実験(audit study)は、本人の意欲とは別に「機会」が狭まる現実を示します。その結果、住居確保や治療継続の前提となる収入の安定が難しくなる可能性があります。[4]
ただし、この研究は米国の単一都市(ミルウォーキー)を対象としたもので、国や制度、雇用慣行が異なる地域にそのまま当てはまるとは限りません。そこで本稿では、同研究を「仕組みの可能性(犯罪歴が採用判断のシグナルとして働き得る)」を示す参考として位置づけ、国内の状況の断定には用いません。[4]
反証・限界・異説
第一に、「就労さえあれば解決する」という単純化には注意が必要です。離脱(desistance)研究の整理では、安定した仕事や良好な関係が離脱と結びつき得る一方で、就労プログラムの効果が限定的であったり、持続性に課題が残ったりする可能性も示されています。就労の有無だけではなく、就労の質や継続性、支援の組み合わせが問われます。[8]
第二に、「厳罰化すれば再犯が減る」という見方も、政策の安定性という観点から検討が必要です。投獄拡大の影響を扱う報告書では、犯罪減少への寄与が限定的である可能性や、家族・地域・雇用への副作用が論点として示されています。抑止効果の有無を一律に断定するのではなく、費用対効果や副作用も含めて評価する姿勢が求められます。[6]
第三に、統計の読み方そのものにも限界があります。再入率・再犯者率は観測対象や制度運用の影響を受け、罪名間の比較も観測期間によって順位が変わり得ます。したがって、単一の数値から一般論を引き出すよりも、複数指標を併置して「どの条件で再発しやすいか」を丁寧に確認する姿勢が重要だと考えられます。[1,2,5]
実務・政策・生活への含意
実務面での含意は、「内面の変化」と「外部条件」を二択にしないことです。国際的な議論でも、再犯防止は刑事司法だけで完結せず、住居、雇用、保健医療、地域支援など多部門が連携して関わる必要性が整理されています。ここで重視されるのは、支援の“種類”だけでなく、対象者の状況に合わせた調整と運用です。[7]
政策面では、①依存や精神保健に関する治療・相談への接続、②住居の確保、③雇用の橋渡し、④再犯防止プログラムの質管理、⑤孤立を減らす地域の居場所、を束ねる設計が現実的です。白書でも、就労・住居の確保等を通じた自立支援が柱として整理され、複合的条件を扱う必要性が示唆されています。[1,5,7]
生活者の視点では、倫理的な緊張も残ります。社会は安全のために排除を強めたくなる一方で、やり直しの入口が狭すぎると、生活基盤が整いにくくなるという逆方向の力が働き得ます。応報(罰)と功利(被害最小化)をどう両立させるかは簡単に結論が出にくく、制度設計と社会的合意の両方が必要とされます。[6,7]
まとめ:何が事実として残るか
公的統計から、再犯は一定割合で起こり得る現象であり、単一の要因で説明しにくいことが確認できます。罪名別の2年以内再入率では、少なくともある年次では窃盗が相対的に高い一方、覚醒剤取締法違反はそれより低い値として示されています。[1]
一方で、検挙人員に占める再犯者率という別指標では、覚醒剤事犯が6割超の高水準とされる資料があり、指標の違いが議論の結論を左右し得る点が重要になります。依存が関わる領域では、再発を前提にした支援設計が必要だという整理も示されています。[2,3]
また、介入は「実施の質」や「対象に合った設計」で成果が変わり得ます。そのため、住居・雇用・医療・地域支援を束ねて運用する仕組みが課題として残ります。価値判断を含む領域であるからこそ、道徳的評価と実務的効果を切り分け、検証可能な改善を積み重ねる余地があると考えられます。[5,6,7,8]
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させ、検証可能としています。
出典一覧
- 法務省(2024)『令和6年版 再犯防止推進白書(概要)』 法務省(PDF) 公式ページ
- 厚生労働省(2024)『再乱用防止対策事業(麻薬・覚醒剤等)』 厚生労働省(PDF) 公式ページ
- World Health Organization, Regional Office for the Eastern Mediterranean(2019)『Addiction』 WHO EMRO(PDF) 公式ページ
- Pager, D.(2003)“The Mark of a Criminal Record” American Journal of Sociology 108(5) 公式ページ
- Landenberger, N. A., & Lipsey, M. W.(2005)“The positive effects of cognitive–behavioral programs for offenders: A meta-analysis of factors associated with effective treatment” Journal of Experimental Criminology 1 公式ページ
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