目次
職親プロジェクトとは何か 元受刑者の雇用と再犯防止の関係
- ✅ 職親プロジェクトは、元受刑者に「仕事・住む場所・教育」を民間企業が提供し、再犯を防ぐことを目指す取り組みです。
- ✅ ポイントは、仮釈放後の不安定な時期に支えを切らさないことです。
- ✅ 無職の状態は再犯と強く結びついており、就労支援は社会の安全にもつながると番組では整理されていました。
このテーマでは、番組の出発点となる「職親プロジェクトとは何か」を整理します。日本財団公益事業部部長の福田英夫氏は、職親プロジェクトの考え方と必要性について、番組内でかみ砕いて説明していました。福田氏は、職親プロジェクトを、国ではなく民間の立場から更生意欲のある人を支え、働く場所、住む場所、立ち直るための教育を提供する仕組みだと紹介しています。言い換えるなら、出所後に孤立しやすい人を、企業と社会が一緒になって受け止めようとする試みです。
私は、刑期を終えたあとに仕事だけを用意すれば十分だとは考えていません。実際には、働く場所だけでなく、安心して過ごせる住まいも必要ですし、社会の中でやり直すための学び直しも欠かせません。何か一つが欠けるだけで、生活はすぐに不安定になります。だからこそ、仕事、住居、教育をまとめて支えることに意味があると思っています。
また、支援の対象は、ただ一律に広げればよいという話でもありません。罪を重ねないで社会に戻ろうとする意思がある人に対して、民間企業が力を貸す。その形だからこそ、制度では届きにくいところまで支えられるのだと感じています。
― 福田
仮釈放後の時間をどう支えるか
番組では、職親プロジェクトは「刑期満了の直前に外へ出て職業訓練をする仕組み」ではなく、仮釈放となった人を受け入れ、その後も継続して雇用や支援につなげていく取り組みだと説明されていました。要は、いちばん不安定になりやすい「社会に戻った直後」をどう支えるかが大きなポイントです。再出発の場面で仕事も住まいもなく、相談できる相手もいないとなれば、生活はあっという間に崩れてしまいます。番組で繰り返し語られていたのは、再犯の背景には意思の弱さだけでは片づけられない生活基盤の問題がある、という視点でした。
私は、仮釈放のあとがいちばん大事だと見ています。社会に戻った瞬間から、毎日の暮らしは一気に現実になります。どこで寝るのか、どこで働くのか、誰が見守るのか。その土台がないままでは、前に進みたくても進めません。だから、支援は出所の瞬間で終わらせず、その先まで続ける必要があると思っています。
なぜ「仕事」が再犯防止の入口になるのか
番組内で福田氏は、支える人がいなければ再び罪を犯して刑務所に戻り、新たな被害者を生むことになると述べていました。そのうえで、働くことが再犯防止の有効な手段であり、データにも表れていると説明しています。番組では、再入所時に無職だった人の割合が高く、無職者の再犯率は有職者の約3倍にのぼるという話も紹介されました。ここがポイントです。就労支援は、本人のためだけの福祉ではなく、被害者を増やさないための現実的な対策として位置づけられていました。
私は、仕事には収入以上の意味があると思っています。働く場所ができると、生活のリズムが生まれます。人との関わりができて、自分の役割も見えてきます。反対に、何もつながりがない状態では、不安も孤独も強くなります。だから、再犯防止を考えるときに、まず仕事を整えるという発想はとても自然だと考えています。
職の「親」が意味するもの
番組では、「職親」という言葉に込められた意味についても触れられていました。福田氏は、働くことだけではなく、親代わりのように支えようという意味を込めていると説明しています。もちろん、企業が本当に家族になるわけではありません。ただ、雇って終わりではなく、生活や学び直しまで少し踏み込んで見守る。その距離感こそが、この取り組みの特徴として描かれていました。制度の穴を埋めるのは、こうした雇用だけで終わらない関わりなのだと見えてきます。
職親プロジェクトは、元受刑者に「仕事を与える」だけの制度ではありません。仕事、住居、教育、そして見守りを組み合わせ、再犯の連鎖を断ち切ろうとする社会的な仕組みです。次のテーマでは、その理念が実際の受け入れ現場でどう機能しているのか、民間企業側の苦労や工夫に焦点を当てていきます。
元受刑者の雇用は難しいのか 民間企業の受け入れ現場で起きていること
- ✅ 元受刑者の雇用は、単なる採用活動ではなく、生活背景や特性まで含めて向き合う現場仕事です。
- ✅ 企業側は裏切りや偏見のリスクを抱えながらも、長く働ける環境を探り続けています。
- ✅ 番組では、定着しやすい職種や、家庭崩壊・境界知能といった見えにくい課題も重要な論点として語られていました。
職親プロジェクトの理念が分かってきても、読者が気になるのは「実際に雇う現場はどうなっているのか」という点かもしれません。このテーマでは、受け入れ企業の立場から語られた現実を整理します。番組では、建設会社や塗装会社を営む草刈氏が、これまで約35人を受け入れてきたと話していました。つまり、机上の理屈ではなく、長年の実務のなかで積み上がった視点が番組の土台になっています。
私は、受け入れを続けることは、きれいごとだけでは回らないと感じています。会社として雇う以上、現場の安全もありますし、他の社員との関係もあります。本人が働き続けられるかどうかも、実際には始まってみないと分からないことが多いです。それでも、やってみなければ見えない可能性があるのも事実です。
裏切られることがないわけではありません。ただ、その一方で、会社にとって本当に大切な存在になる人もいます。だから、簡単にやめるとも言い切れないのだと思います。
― 草刈
受け入れ企業は「普通の会社」であることが重要
番組で草刈氏が繰り返していたのは、職親のためだけに作られた特別な施設ではなく、もともと建設や塗装の仕事をしている普通の企業が、その一部として元受刑者を受け入れているという点でした。ここは重要です。特別扱いの場ではなく、一般の仕事の流れのなかに入るからこそ、社会復帰に近い経験になります。その一方で、企業側には生産性も責任もあるため、支援団体のようには動けません。この「普通の会社が支援も担う」という二重の役割が、職親プロジェクトの難しさでもあり、同時に強みでもあります。
私は、特別な場所だけで更生を進めても、社会に戻ったときにまた大きな段差ができてしまうと思っています。だからこそ、一般の会社のなかで働く経験が必要です。ただ、一般の会社だからこそ、甘やかせない場面もあります。仕事として成立させながら支える、そのバランスがいちばん難しいところです。
― 草刈
面接では見えない課題が、現場で表に出る
番組では、受け入れ後に見えてくる課題として、境界知能や発達特性、パニック障害のような問題が挙げられていました。境界知能とは、知的障害とは診断されにくい一方で、学習や仕事の理解に困難が出やすい状態を指す言葉です。草刈氏は、面接の時点では分からないことが多く、事故防止の観点からも、事前に必要な情報を共有してほしいと語っていました。つまり、雇用の問題は「やる気があるかどうか」だけでは終わりません。仕事の向き不向きや、医療や福祉につなぐ必要があるかどうかまで見なければ、現場では支えきれない場面が出てきます。
私は、本人に悪意があるわけではなくても、特性のために仕事が続かないことがあると感じています。理解の仕方や、パニックになりやすさや、人との距離感は、実際に働き始めてから見えてくることが少なくありません。だから、企業だけで抱え込むのではなく、医療や支援機関とつながる前提が必要だと思っています。
― 草刈
家庭崩壊や「かまってほしい」の背景
番組では、森氏が少年の受け入れについて、家庭環境を聞くと父親像や母親像を求めるケースが多く、もともと両親がいない、あるいは親からDVを受けていたような背景を持つ人も少なくないと話していました。この話から見えてくるのは、就労支援が単なる職業紹介ではないということです。会社の上司に対して、仕事の指示以上の関わりを求める人もいる。言い換えると、職場の人間関係が、欠けていた家族関係の代わりのようになってしまうことがあるわけです。だからこそ「職親」という言葉には、少し親身に関わる意味合いが込められているのだと、この章でも自然につながります。
私は、仕事の話だけをしていれば済む相手ばかりではないと感じています。何かを教える前に、まず話を聞いてほしいという空気を出す人もいます。厳しく言うだけでは届かない場面があり、逆に近づきすぎると企業として抱えきれなくなることもあります。その距離感を探るのが、現場では本当に難しいです。
― 森
定着しやすい仕事は何か
ひろゆき氏が「どの業種が定着率がいいのか」と尋ねた場面では、建設や飲食ではなく、介護が比較的定着しやすいという答えが出ていました。理由としては、人との関わりがある仕事のほうが合うケースがある、という文脈で語られています。一般には、対人業務は難しそうだと見られがちですが、実際には「人との接点があること」が定着の支えになる場合もあるようです。これは示唆のある話です。単純に体力仕事ならよい、単純作業なら続く、ということではなく、その人にとって役割を感じられるかどうかが大きいのだと読み取れます。
企業側も偏見とリスクを背負っている
番組では、受け入れ企業に対する社会の偏見も率直に語られていました。もし職親プロジェクトに関わっていることをオープンにしたとき、発注先や周囲から「あの会社にはそういう人が混じっているのではないか」と見られるリスクがあるという指摘です。また、草刈氏は建設現場で、元受刑者を雇っていることへの反発や、法律上の制約も含めた難しさがあると説明していました。要するに、雇用する側も負担やリスクを背負っています。善意だけで続けられない理由が、ここにははっきりあります。
このように、元受刑者の雇用現場では、仕事の適性、家庭背景、医療との連携、定着率、そして社会の偏見までが一度に押し寄せます。それでも受け入れを続ける企業があるのは、支援の先に社会全体の安全があると感じているからです。次のテーマでは、この取り組みに対して多くの人が抱く違和感も含めて、「なぜ加害者支援が必要なのか」という論点を整理していきます。
加害者支援は必要か 再犯防止と社会の偏見をどう考えるべきか
- ✅ 元受刑者への支援には反発もありますが、番組では「新たな被害者を増やさないための現実策」として再犯防止の必要性が語られていました。
- ✅ 草刈氏は被害者遺族の立場も持ちながら、それでも更生支援が必要だと話していました。
- ✅ 日本では加害者支援への偏見が強い一方で、再犯を減らすことは社会全体の安全とコストの両面で意味があるという整理が示されていました。
このテーマでは、番組のなかでも特に感情が動きやすい論点を扱います。元受刑者を支える取り組みには、「そこまで手厚くする必要があるのか」「ほかに困っている人がいるのではないか」という違和感がつきまといます。ひろゆき氏も、まさにその感覚を代弁する形で問いを投げていました。読者の多くも、おそらくここで一度立ち止まるはずです。だからこそ番組は、善悪の印象論ではなく、「被害者を増やさないために何が必要か」という視点へ話を進めていました。
私は、加害者を支えることに違和感が出るのは自然なことだと思っています。罪を犯した人にお金や手間をかけるより、先に助けるべき人がいると感じるのも当然です。ただ、その感情だけで仕組みを止めてしまうと、結局は再犯を防げず、新しい被害者を生むことにもつながります。そこを感情だけで終わらせず、社会全体の安全として考える必要があると思っています。
― 福田
「支援しすぎではないか」という違和感
番組では、ひろゆき氏が「犯罪を犯した人にそんなに手厚くする必要があるのか」と率直に問いかけ、そのうえで福田氏が、支える人がいなければ再び罪を犯し、新たな被害者を生むことになると答えていました。ここが大事です。番組のロジックは「かわいそうだから支える」ではありません。再犯防止は、結果として未来の被害者を減らすために必要だ、という現実的な整理です。言い換えるなら、加害者支援に見える取り組みでも、目的は社会の安全にあります。
私は、支援の見え方が誤解されやすいと感じています。外から見ると、罪を犯した人が得をしているように見えることがあります。でも実際に必要なのは、ごほうびではなく再出発の土台です。土台がなければ、また同じ場所に戻ってしまう可能性が高くなります。再犯を防ぐ仕組みは、甘やかしではなく、被害を繰り返さないための備えだと思っています。
被害者遺族の立場から見た更生支援
この回の重みを大きくしていたのは、草刈氏が被害者遺族でもあると明かしていた点です。草刈氏は、妹が海外で殺害された経験に触れたうえで、自分の気持ちは「被害者を作らないために加害者を作ったらあかん」というところにあると語っていました。この視点はかなり重いものです。支援を語る側が被害の痛みから遠い人ではなく、実際に被害を受けた家族でもあるからです。そのうえでなお、更生支援を否定しない。そこに、番組の説得力がありました。
私は、遺族の立場だからこそ、簡単にきれいごとは言えません。腹が立つ気持ちもありますし、納得できない思いが消えるわけでもありません。それでも、同じような被害を次に生まないことのほうが大事だと考えています。怒りを持ったままでも、再犯を減らす方向に進むべきだと思うのです。
― 草刈
税金の問題と「やったほうが得」という現実
番組では、感情論だけでなくコストの話も出ていました。草刈氏は、刑務所に入る人が再犯を繰り返せば大きな税金がかかり続けること、だからこそ更生させないと町の安心安全につながらないと説明していました。一方でひろゆき氏は、「お金で計算するとやった方が得だと分かっても、ほかに困っている人がいる中で受け入れられにくい空気がある」と述べており、日本社会の感情的なハードルにも触れていました。つまり、合理性は理解されても、共感は広がりにくい。このギャップが、日本で再犯防止が進みにくい理由のひとつとして浮かび上がっていました。
ノルウェーとの比較と日本社会の限界
番組後半では、ノルウェーの刑務所政策との比較も話題になっていました。草刈氏は、ノルウェーでは刑務所の中から社会復帰に向けた教育や職業訓練が進み、再犯率を大きく下げてきたと語っています。それに対してひろゆき氏は、日本は人口密度や土地の余裕の問題もあり、同じモデルをそのまま導入するのは難しいのではないかと述べていました。このやりとりから見えてくるのは、理想的な制度をそのまま真似すればよいわけではない、という現実です。だからこそ日本では、国の制度だけでなく、民間の職親プロジェクトのような補助線が必要になるのだと読めます。
私は、海外の成功例を知ることには意味があると思っています。ただ、日本には日本の事情があります。制度、空気感、土地の使い方、企業の受け止め方も違います。だから、理想を知ったうえで、日本で実際に動かせる仕組みを積み上げるしかありません。その意味で、民間企業が先に一歩を踏み出す取り組みには価値があると感じています。
偏見の壁をどう越えるか
もう一つ印象的だったのは、支援する側にも偏見が向かうという点です。番組では、職親プロジェクトに関わる企業が「そういう人が混じっている会社ではないか」と見られかねないことや、それでも続ける理由が問われていました。さらに草刈氏は、制度を知らない企業も多く、実際に接してみると印象が変わると語っています。ここがポイントです。偏見は、犯罪歴のある人だけに向くのではなく、支援しようとする企業にも向かう。そのため、この取り組みを広げるには、制度面だけでなく、社会の理解を少しずつ広げる作業が欠かせません。
このテーマで見えてくるのは、再犯防止が「加害者に優しい話」ではなく、「次の被害者を出さないための話」だということです。感情のうえでは納得しにくい場面があっても、現実に被害を減らすには、出所後の孤立を放置しないことが重要だと番組は伝えていました。3つのテーマを通じて見ると、職親プロジェクトは、民間が担う就労支援であると同時に、日本社会が再犯とどう向き合うかを問う仕組みでもあると整理できます。
出典
本記事は、YouTube番組「ひろゆきvs職親】民間が元受刑者を雇用…再犯率低下を目指す「職親プロジェクト」とは?【ReHacQ 高橋弘樹」(ReHacQ−リハック−【公式】/2026年3月16日公開)の内容をもとに要約しています。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
出所者等への支援は「加害者を優遇している」と受け取られやすい一方で、政策目的を「新たな被害を減らす」ことに置くと、論点は福祉の是非から公共安全の実務へと移っていきます。法務省の犯罪白書は、保護観察対象者の就労状況と再犯の関係を示し、無職の層で再犯率が高い傾向があることを報告しています[1]。ただし、就労を用意すれば自動的に再犯が減る、という単純な話でもありません。就労の可否は、住まい、健康、依存症、学力、対人関係など複数要因の影響を受けるため、支援を束ねる設計が重要になります。
問題設定/問いの明確化
本記事の問いは三つです。第一に、無職や住居不安定が再犯と結びつくという見立ては、どの程度データで裏づけられるのか。第二に、就労支援・住居支援は「再犯を減らす介入」としてどこまで効果が期待でき、どこに限界があるのか。第三に、民間企業が受け入れを担う場合、現場負担や安全配慮を前提として、どのような制度設計が現実的か、という点です。
ここでの前提は、再犯防止が「道徳的に正しいか」だけで決まるものではなく、「支援が切れやすい局面で何が起きるか」を検証可能な資料で押さえる必要がある、ということです。とくに出所直後は住居・収入・人間関係が同時に不安定化しやすく、支援の途切れがリスクになり得ると整理されています[2]。
定義と前提の整理
「再犯」には、再逮捕・再有罪・再収容など複数の指標があり、追跡期間(1年、3年、9年など)によって数値の姿も変わります。米国BJSの9年追跡では、釈放後の再逮捕が初期に多く、その後も長期にわたり積み上がる様子が示されています[11]。したがって、単一の数字だけで支援策の優劣を断定するのではなく、どの指標にどの程度影響があるのかを分けて見る必要があります。
また、就労支援は「就職の成立」だけでなく「職場定着」まで含めて考える必要があります。日本の政策整理でも、協力雇用主や関係機関の連携を含め、就労と住居を同時に扱う枠組みが示されています[13]。住居支援も同様で、「一時的に泊まれる」ことと「安定的に居住できる」こととでは、就労や通院、行政手続きへの接続可能性が異なります。
エビデンスの検証
就労(無職)と再犯の関連
犯罪白書は、保護観察対象者の就労状況別に再犯状況を示し、無職の層で再犯率が高い傾向があることを報告しています[1]。さらに、国内の関係省庁資料でも、再入所者の再犯時に無職が多いことや、就労の有無と再犯リスクが関連し得ることが整理されています[2]。ここからは、「無職の放置がリスク要因になり得る」という政策判断の土台が読み取れます。
ただし、ここで示されるのは主に相関です。就労は、健康状態、依存症、学力、対人スキル、家族関係などの影響を受けやすく、就労の有無だけで原因を決めつけることは避けるべきでしょう。そこで、比較対照のある介入研究(とくに無作為割付)も併読すると、「どの条件で何が改善しやすいか」がより具体化してきます。
就労介入(移行期雇用)の結果をどう読むか
米国MDRCの報告は、移行期雇用プログラムの評価として、対象者をプログラム利用群と対照群にランダムに割り当て、追跡期間中の行政記録等で成果を比較しています[6]。この点で、「無作為割付を用いた評価」と表現すること自体は妥当です。
一方で、効果の書き方には注意が必要です。MDRC報告では、3年追跡の全体平均として見ると、再犯関連指標のうち「逮捕」では統計的に明確な差が出ない一方、「収容(施設への収容)」では対照群より低い水準が示され、有罪についても減少傾向が報告されています[6]。また、影響が追跡初期に集中し得ることや、出所後まもない層で差が大きいことも示されています[6]。そのため「再犯を減らした」と一括りに言うより、「指標によって差があり、特定の条件下で改善が観察される」と整理するほうが正確です。
住居不安定と再犯の関連
住居については、保護観察対象者データを用いた研究で、住宅不安定が再犯リスク上昇と関連することが示されています[3]。また、住宅支援を扱うレビューでは、住居の確保は重要な土台である一方、単独の住宅提供だけで再犯を安定的に抑える根拠は必ずしも十分ではなく、他サービスと組み合わせた包括支援が多いことが整理されています[4,12]。
心理学的介入・支援の連続性
就労・住居だけでなく、心理学的介入のエビデンスも参照されます。刑務所内の心理学的介入を対象にした無作為化試験の系統的レビュー/メタ分析では、再犯アウトカムの改善が報告される一方、研究の質や出版バイアスなどに留意しつつ、介入の内容と継続性を吟味する必要が示されています[7]。ここからは、支援の焦点を就労や住居に限定せず、健康・心理・教育を含めた「連続性のある支援」に組み立てる発想が補強されます。
反証・限界・異説
第一の限界は、支援の効果が「平均すると小さく見える」ことがあり得る点です。英国司法省のエビデンス統合は、再犯を減らす介入を広く整理した上で、分野ごとに研究の厚みが異なり、同じ分野でも介入設計や実装状況で結果が変わり得ることを示しています[5]。つまり「就労支援だから効く/効かない」と固定化するよりも、どの仕組みがどの対象に合うのかを検証し続ける姿勢が重要になります。
第二の限界は、支援対象の多様性です。たとえば知的障害についての系統的レビューは、受刑者集団の中に一定割合が含まれ得ることを示しています[8]。この場合、業務理解や対人トラブルが「意欲」の問題として誤解されやすく、雇用側が単独で抱え込むと事故や離職につながり得ます。現場の安全配慮と本人支援を両立させるには、医療・福祉との接続や、職務設計(業務の分割、指示の明確化)といった工夫が前提になります。
第三の限界は、スティグマ対策が別の不公平を生み得る点です。犯罪歴に関する質問を採用初期に行わない政策(いわゆる“Ban the Box”)を検証したフィールド実験は、情報の欠落が統計的差別を誘発し得るという懸念を示しています[9]。差別を減らす意図の制度が、別の差別の形を強め得るというパラドックスがあり、制度設計では副作用の検証が欠かせません。
実務・政策・生活への含意
実務面では、企業や地域に「雇用」と「生活支援」の両方を過剰に背負わせない設計が重要です。住宅支援のレビューは、住居支援とケースマネジメント等を結びつけるモデルの蓄積を整理しており、個別化した支援(必要なサービスの束ね)を重視しています[12]。企業側は職務と安全の管理に集中し、生活・医療・福祉は外部の専門職と連携して支える、という役割分担が現実的になります。
政策面では、収容の拡大が自動的に犯罪減少へつながるとは限らないという指摘があります。全米アカデミーズ(NRC)の報告は、投獄への依存を強めても大幅な犯罪減少を達成した明確な証拠はないと述べています[10]。一方で、釈放後の再逮捕が長期に積み上がる統計も示されており[11]、出所後支援を設計せずに循環を断つのは難しい、という見方が成り立ちます。
生活者の視点では、再犯が起きなかった成果は見えにくく、支援は「割に合わない」と受け止められやすい側面があります。だからこそ、被害者支援や治安対策と対立させるのではなく、同じ「被害を減らす」枠組みの中で、何をどの指標で改善するのかを丁寧に示すことが欠かせません。あわせて、支援の条件や限界も含めて説明することが求められます[5,13]。
まとめ:何が事実として残るか
第一に、無職や住居不安定が再犯リスクと関連しやすいことは、国内外のデータから一定程度支持されています[1,2,3,4]。第二に、就労介入は無作為割付の評価で改善が観察される指標もある一方、効果は指標・時期・対象条件によって異なり、過度な一般化は避けるべきです[6]。第三に、就労・住居だけでなく、心理学的介入やケースマネジメントを含む支援の束ねが重要であり、企業や地域の負担を制度的に下支えする設計が現実性を高めます[7,12,13]。
以上を踏まえると、再犯防止は「雇う/雇わない」の二択ではなく、支援の連続性と役割分担をどう設計するかの問題です。被害者保護との両立を図りながら、効果検証の積み上げと制度の微調整が今後も必要とされます。
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させて検証可能としています。
出典一覧
- 法務省(2012)『平成24年版 犯罪白書 第7編 第2章 第1節(就労状況別の再犯)』 犯罪白書 公式ページ
- 厚生労働省(2018)『社会・援護局関係主管課長会議資料(再犯防止/就労・住居の確保等)』 厚生労働省(会議資料PDF) 公式ページ
- Jacobs, L. A. et al.(2020)“The Effect of Housing Circumstances on Recidivism: Evidence From a Sample of People on Probation in San Francisco” Crime & Delinquency(PMC掲載) 公式ページ
- Monash Sustainable Development Institute / BehaviourWorks Australia(2023)“The effectiveness of housing and housing assistance programs to prevent adult reoffending: a rapid review” Monash University(報告) 公式ページ
- UK Ministry of Justice(2025)『Reducing reoffending: a synthesis of evidence on effectiveness of interventions』 GOV.UK(エビデンス統合PDF) 公式ページ
- Redcross, C. et al.(2012)『More Than a Job: Final Results from the Evaluation of the Center for Employment Opportunities (CEO) Transitional Jobs Program(OPRE Report 2011-18)』 MDRC 公式ページ
- Beaudry, G. et al.(2021)“Effectiveness of psychological interventions in prison to reduce recidivism: a systematic review and meta-analysis of randomised controlled trials” The Lancet Psychiatry 公式ページ
- Fazel, S. et al.(2008)“The prevalence of intellectual disabilities among 12,000 prisoners: a systematic review” International Journal of Law and Psychiatry 公式ページ
- Agan, A. & Starr, S.(2018)“Ban the Box, Criminal Records, and Racial Discrimination: A Field Experiment” The Quarterly Journal of Economics 公式ページ
- National Research Council(2014)『The Growth of Incarceration in the United States: Exploring Causes and Consequences』 National Academies Press 公式ページ
- Alper, M. et al.(2018)『2018 Update on Prisoner Recidivism: A 9-year Follow-up Period (2005–2014)』 U.S. Bureau of Justice Statistics 公式ページ
- Willis, M.(2018)『Supported housing for prisoners returning to the community: A review of the literature(Research Report No.7)』 Australian Institute of Criminology 公式ページ
- 法務省(2024)『令和6年版 再犯防止推進白書』 再犯防止推進白書 公式ページ