目次
医師主導治験とは何か 池原久朝氏が背負った挑戦の始まり
- ✅ このテーマの核心は、企業が動きにくい領域を、現場の医師が医師主導治験で前に進めたところにあります。
- ✅ 池原氏は、英語論文との出会いをきっかけに、万全な準備が整っていない段階でも治験に踏み出していました。
- ✅ 企業治験に比べて医師主導治験は費用を抑えやすい一方で、現場の負担は非常に重く、制度上の支えの弱さも浮かび上がってきます。
このテーマでは、なぜ池原久朝氏が製薬会社主導ではなく、医師主導治験という重い役割を引き受けたのかを整理します。対談で語られているきっかけは、壮大な構想というより、日々の勉強会で読んだ英語論文でした。そこから「日本ではまだ進んでいないなら、自分たちでやるしかない」という流れが自然に生まれていきます。言ってしまえば、この章は新薬開発の華やかな話ではなく、現場の医師が制度のすき間を埋めようとした“出発点”を描くパートです。
私は最初から大きな使命感を言葉にできていたわけではありません。勉強会で論文を読み、上司から「日本でどうなっているのか調べてみろ」と言われて動き始めたのが出発点でした。調べると、企業として本格的に進んでいる話はなく、医師主導なら可能性があるという返答でした。
正直に言うと、その時点では医師主導治験がどれだけ大変かも十分には分かっていませんでした。それでも、今まで通っていない薬であり、身近なところにも縁を感じる領域だったので、とにかくやってみようと思ったのです。
英語論文との出会いが、治験の出発点になった
対談で印象的なのは、池原氏が最初から制度改革を掲げていたわけではない、という点です。ジャーナルクラブ、つまり英語論文を持ち寄って読む勉強会のなかで対象薬に触れ、上司の一言をきっかけに現実が動き始めていました。翌日には製薬会社へ連絡し、「医師主導治験なら進められる」と分かったことで、挑戦は一気に具体化していきます。読者目線で見ると、ここが大事です。医療の革新は巨大プロジェクトから始まるとは限らず、現場の違和感や小さな行動から立ち上がることがある、という流れがよく伝わってきます。
私は、最初から制度を変えようと考えていたというより、目の前の薬に可能性を感じていました。企業がやらないなら終わってしまう話でも、医師主導なら前に進めるかもしれない。そこに少しずつ現実味が出てきました。
言い換えると、研究者としての好奇心と、現場で必要と感じる感覚が重なったのだと思います。完璧な準備が整っていたから始めたのではなく、必要だから引き受けたという感覚に近いです。
企業治験より安くても、現場の負担は軽くない
池原氏は、企業治験にすると費用が大きく膨らみ、今回のケースでは10倍規模、総額ではかなり大きな金額になる可能性があると説明しています。一方で、医師主導治験では研究費の出し方や施設へのお金の流れも異なり、自由に使える潤沢な予算が付きにくい実態が語られていました。加えて、ファイル管理やデータ管理、監査対応といった事務負担も重く、堀江氏はこのペーパーワークの多さに注目し、AIで自動化できる余地が大きいと話しています。つまり、医師主導治験は「安くできる仕組み」ではあっても、「楽にできる仕組み」ではありません。ここに、日本の治験が一部の強い意志を持つ人に依存しやすい構造が見えてきます。
このテーマ全体を通して見えてくるのは、池原氏の挑戦が特別な情熱だけで進んだのではなく、企業が拾いにくい課題を現場が引き受けた結果だった、ということです。そして次のテーマでは、その挑戦がなぜ承認まで長い時間を要したのか、制度との格闘という側面からさらに掘り下げていきます。
承認まで7年かかった理由 PMDAとの交渉が映した制度の壁
- ✅ 承認まで長引いた最大の理由は、途中で差し戻されたからではなく、試験開始前の協議と設計調整に長い時間がかかった点にあります。
- ✅ 池原氏のケースでは、本来1本でも進みうる承認プロセスに対して、併用実態を踏まえた追加試験が求められました。
- ✅ このテーマでは、日本の医療制度が慎重さを重視する一方で、現場の挑戦を消耗させやすい構造も見えてきます。
このテーマでは、池原氏の挑戦がなぜ7年という長い時間を要したのかを整理します。対談では、2018年からPMDAに通い始め、何度も面談を重ねながら試験計画を詰めていった経緯が語られていました。しかも、時間がかかった中心は承認後の手戻りではなく、「この試験を実施してよい」と認められるまでの事前協議にありました。つまり、ここで見えてくるのは研究者の熱意だけでは越えにくい、制度運用そのものの重さです。
私は途中で何度も不承認になって振り出しに戻った、という感覚ではありませんでした。いちばん長かったのは、臨床試験を始めていいところまでたどり着く前の時間です。霞が関に何度も通って、協議をして、面談をして、プロトコール、つまり試験計画書の設計をずっと調整していました。
やっと前に進めると思ったら、また修正点が出てきます。少し直せば済む話でも、そのたびに次の面談まで数か月待つことがありました。治験そのものだけではなく、始める前の対話にとても長い時間がかかるのです。
長かったのは「承認後」ではなく「始める前」の設計調整
池原氏は、7年間のあいだに一度承認が出てから再び差し戻されたわけではない、と説明しています。実際には、試験実施に入る前の段階で、必要性の確認、対象患者の設定、安全性の考え方などを何度も協議し続けていました。対談では、最初は「その治療が本当に必要なのか」という入口から始まり、若い人だけを対象にする案を出せば「高齢者を取り残さないでほしい」と返され、条件を広げればまた設計を見直す、という往復が続いたことが語られています。ここがポイントです。制度が慎重であること自体は理解できても、その慎重さが現場の実行力を削ってしまうと、新しい選択肢はなかなか社会に届きません。
私は、まず必要性そのものを説明するところから始めました。欧米では使われているので必要だと考えていましたが、日本でどう位置づけるかは一つずつ確認されました。安全性を考えて対象を絞ろうとすると、今度はそれでは足りないと言われます。
そうして設計を作り直して持っていき、また戻って、また直す。その繰り返しでした。研究は進めたいのに、前に進むための入口を整えるだけでかなり消耗した感覚があります。
追加試験の要求が、制度の慎重さを象徴していた
さらに池原氏のケースでは、本来は1つの試験でも進められるはずの承認プロセスに対し、実際の診療現場では併用治療が行われることを踏まえて、追加で別の試験も求められたと語られています。これは安全性や実用性を重視した判断とも言えますが、そのぶん時間も負担も大きくなります。堀江氏はこの流れを受けて、治験のコストの多くは探索そのものだけでなく、書類管理や監査対応のようなペーパーワークにもあると捉え、AIでかなり効率化できるのではないかと問題提起していました。かんたんに言うと、日本の制度は「厳密さ」を大切にしている一方で、その厳密さを支える実務が重すぎるため、挑戦する人が限られてしまうのです。
このテーマを通して見えてくるのは、池原氏の7年間が単なる根性論では片づけられない、という点です。制度が慎重であることは医療では重要ですが、その運用が過度に重くなると、現場の挑戦は一部の粘り強い人に依存してしまいます。次のテーマでは、その制度論を一歩先へ進めて、がんを減らすために本当に優先すべき検査や予防の話へつなげていきます。
がんを減らすには何を変えるべきか 内視鏡検査と予防の現実
- ✅ このテーマの中心は、がんを減らすには治療だけでなく、早期発見の仕組みを見直す必要があるという点です。
- ✅ 胃がんはピロリ菌対策で減少が期待される一方で、食道がんや咽頭がん、大腸がんには別の課題が残っています。
- ✅ 便潜血検査の受診率や二次検査の実施率を上げつつ、内視鏡をどう普及させるかが大きな論点になっています。
- ✅ 50歳で一度大腸内視鏡を受ける考え方や、政策として予算を付ける必要性も対談の重要な提言でした。
このテーマでは、対談全体の視点を「治験」から「予防と検査」へ移しながら整理していきます。池原氏は、がんを減らすために本当に重要なのは、薬や治療法の開発だけではなく、早い段階で見つける仕組みをどう広げるかだと語っていました。特に印象的なのは、胃がんだけを見て安心するのではなく、食道がん、咽頭がん、大腸がんまで含めて考えなければいけない、という問題提起です。つまり、医療の進歩を患者が実感できる形にするには、検査の入口を社会の側で整える必要がある、という流れになります。
私は、がんを減らす話になると、まずリスクがはっきりしているものから考える必要があると思っています。胃がんならピロリ菌は大きな要因ですし、衛生環境の改善で今後さらに減っていく部分はあります。ただ、それで検査が不要になるとは考えていません。
なぜなら、ピロリ菌だけでは説明できない胃がんもありますし、食道がんや咽頭がんのように別のリスクで増える領域もあるからです。だから私は、見つけるための検査をどう維持し、どう広げるかを同時に考えるべきだと思っています。
胃がんが減っても、検査の役割はなくならない
対談では、胃がんの最大のリスクファクターとしてピロリ菌が挙げられています。衛生環境の改善によってピロリ菌の保有率は下がっており、それにともなって胃がんの減少は期待されています。ただし池原氏は、それだけで話は終わらないと説明しています。若い世代や女性にもみられる、ピロリ菌だけでは説明しきれないタイプの胃がんや、遺伝的背景が関わるケースもあり、一定の発症率は残る可能性があるという整理でした。ここがポイントです。ひとつの原因が弱まっても、検査の必要性まで消えるわけではない、ということです。
さらに食道がんや咽頭がんについては、リスクが比較的明確で、酒とたばこが大きな要因だと語られていました。特に酒で顔が赤くなりやすい人は注意が必要で、行動のコントロールと、こまめな検査の両方が重要だという流れです。そのうえで、食道領域の検査ではバリウムが広く使われている一方、微細な病変を見つける精度では内視鏡に強みがあると整理されていました。対策型検診、つまり自治体などが広く実施する検診ではバリウムにも役割が残るものの、質の高い発見という意味では内視鏡の価値が高い、というバランスの取り方が示されています。
私は、内視鏡だけに全部置き換えればよいとは考えていません。広く提供する仕組みでは、バリウムのように多人数へ届けやすい方法にもまだ役割があります。ただ、微小ながんを見つける精度では、やはり内視鏡の強みがあります。
ですから、現実的には両方をどう使い分けるかが大切です。そのうえで、内視鏡がもっと身近になり、回転が良くなれば、受けられる人は確実に増えていくと思っています。
大腸がん対策は、検査の導線を作れるかどうかにかかっている
対談の中でも特に強い危機感がにじんでいたのが、大腸がんの増加です。池原氏は、日本では大腸がんが増えており、若い世代でも発症がみられると話していました。その一方で、大腸がんには便潜血検査という分かりやすいスクリーニング方法があります。これは便に混じる見えにくい出血まで拾える検査で、入り口としてはよくできた仕組みだと評価されていました。しかし実際には、検体を提出しない人が多く、陽性が出ても二次検査の大腸内視鏡まで進まない人も少なくないため、制度が十分に機能していないと指摘されています。
さらに興味深いのは、便潜血だけでは拾いきれない早期ポリープの話です。対談では、ポリープの段階では出血しないことも多く、便潜血が陰性でも前がん病変が残っている場合があると語られていました。そこで出てきたのが、「人生で一度だけ大腸内視鏡をやるなら50歳くらいが現実的ではないか」という考え方です。50歳の時点でポリープがなければリスク評価ができ、ポリープがあればその場で切除し、その後の検査間隔も個別に考えやすくなるという整理でした。言ってしまえば、大腸がん対策は、がんになってから治すより、前の段階で止めるほうが合理的だということです。
普及のカギは、技術だけでなく政策とインセンティブにある
対談では、日本の内視鏡技術は高いのに、その強みが十分に結果へ結びついていないことへのもどかしさも語られていました。韓国では一定年齢での内視鏡受診の仕組みが進み、結果として大腸がんの減少につながっているという話が出ており、日本でも政治主導で予算を付ければ状況は変えられるのではないか、という提案につながっています。
また、堀江氏はアメリカの例として、民間保険会社が将来の高額医療を避けるために大腸内視鏡を強く促すインセンティブが働いていると話していました。日本ではそうした仕組みが弱く、検査を受ける側にも押し出しが足りないため、良い技術があっても普及しにくいという問題があります。だからこそ、池原氏と堀江氏の対談は、単に「内視鏡は大事です」と伝えるだけでは終わりません。どこで公費を使うのか、どの年齢で受けてもらうのか、どうすれば痛いというイメージを減らせるのかまで含めて、社会設計の問題として考えるべきだという方向に進んでいました。
このテーマ全体を通して見えてくるのは、がんを減らすために必要なのは、特別な一手よりも「検査へつなぐ仕組み」を丁寧に作ることだという点です。胃がんではピロリ菌対策、食道がんや咽頭がんではリスク行動のコントロール、大腸がんでは便潜血検査と内視鏡への導線整備が重要になります。つまり、医療業界に革命を起こすという言葉の本当の中身は、最先端の治療だけではなく、早期発見を当たり前にする社会の設計にある、と整理できます。
出典
本記事は、YouTube番組「知られざる治験の世界。世界を変えた執念の7年間に迫る【池原久朝×堀江貴文】」(堀江貴文 ホリエモン/2026年3月3日公開)および「医療業界に革命を起こせ。がんを減らすにはこれをやるべき【池原久朝×堀江貴文】」(堀江貴文 ホリエモン/2026年3月5日公開)の内容をもとに要約しています。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
医療の現場では「必要性があるのに開発や普及が進みにくい」領域が生まれやすいと考えられています。その背景には、規制要件の厳格さだけでなく、運用コスト、組織体制、受診行動といった複数の要因が重なります。ここでは、臨床試験を支える制度設計と、がん予防・検診の実装上のボトルネックを、第三者出典にもとづいて一般化して検討します。
問題設定/問いの明確化
第一の問いは、医師やアカデミア主導で臨床試験を行う意義がある一方で、なぜ「試験を始めるまで」「品質を保って回すこと」が重荷になりやすいのか、という点です。第二の問いは、がん対策で「技術」や「治療法」だけを議論しても、検診の入口や精密検査への移行が弱いと成果が出にくいという点を、データで確かめることです。
定義と前提の整理
臨床試験では、被験者保護とデータの信頼性を守るため、計画立案、実施、記録、監督、解析、報告に一定の標準が求められます。国際指針でも、品質を「後から検査して作る」のではなく、設計段階から組み込む考え方(Quality by Design)や、適切なデータガバナンスを重視する方向が示されています[1]。
また、国内で試験の設計を詰める過程では、当局との事前相談(対面助言等)により、必要データや評価項目の妥当性を整理することが制度上位置づけられています。提出期限や手順が明示される一方、準備の段取りが複雑で、計画策定の時間が伸びやすい構造も含まれます[2]。
医師主導の試験では、企業が担うことの多いモニタリング、監査、データ管理、安全管理、利益相反管理などを、研究側の体制として整える必要が出やすくなります。この負担を個人に集約させないため、臨床研究を支える拠点機能として、臨床研究中核病院に支援体制(臨床研究支援、データ管理、安全管理、審査体制等)を備える要件が整理されています[3]。
一方で、制度強化は「必要だから強化された」という歴史的背景も持ちます。国内では、研究の信頼性を損なう事案が問題となり、その後の制度変更や規制整備の議論につながったと整理されています[5,18]。この経緯は、手続きの増加が単なる官僚主義ではなく、信頼回復と参加者保護を狙った側面を持つことを示します。
エビデンスの検証
制度運用が研究活動に与える影響については、臨床研究法施行前後の登録動向を分析した研究があり、介入研究の全体数が減少したという報告が示されています[4]。この種の分析は、研究者の意欲だけでなく、手続きや費用、人材確保が研究件数に影響し得ることを示唆します。ただし、因果関係は単純ではなく、資金環境や施設内支援の差など、複合要因の可能性も併せて考える必要があります[4,5]。
がん対策の必要性は、罹患・死亡の規模からも確認できます。国内の統計予測では、結腸・直腸がんは罹患数の上位に位置づけられ、死亡数でも大きな割合を占めると整理されています[6]。この規模感は、検診の導線が機能するかどうかが、人口レベルの負担に影響し得ることを意味します。
では導線はどこで途切れやすいのでしょうか。国民生活基礎調査にもとづく推計では、がん検診の受診率は検診種別・地域差が大きく、十分に高いとは言いにくい面が示されています[7]。入口が細いと、精密検査や治療の質が高くても、恩恵が届く人が限られます。
さらに重要なのは「一次検査の後」です。がん検診のプロセス指標解説では、要精密検査となった人が実際に精密検査を受ける割合(精検受診率)は最優先の指標とされ、精検受診率が低い場合は検診の効果が得られない、と明確に説明されています[8]。行政文書でも、発見率や精度指標が精検受診率に依存する形で整理されており、運用面の改善が成果に直結する構造が確認できます[9]。
胃がん領域では、リスク構造が変化している点が議論の前提になります。日本では、出生年によって感染率が低下してきたという系統的レビューがあり、将来の胃がんリスクが変わる可能性が示されています[10]。ただし「感染が減る=対策不要」とは直結しません。無作為化試験では、特定の高リスク集団において除菌が胃がん発症リスクを低下させたことが示され、原因に介入する施策の有効性が一定の根拠を持つことが確認できます[11]。
検診手段については、国家プログラムを運用している国の研究が参考になります。韓国の国家検診を扱うレビューでは、上部内視鏡検診が胃がん死亡の低下と関連し得る研究が整理され、画像検査より内視鏡が有利になり得る点も論じられています[12]。ただし、観察研究に依存する部分や資源制約・不利益の評価も並行して検討すべきであり、単純な置き換え論だけで結論を出しにくいことも同時に示唆されます[12]。
大腸がん検診では、国内ガイドラインの有効性評価にもとづき、便潜血検査(免疫法)が強く推奨される一方、全大腸内視鏡の扱いは根拠と不利益の評価を踏まえて慎重に整理されています[13]。海外の無作為化試験(内視鏡に「招待」する設計)でも、発症リスク低下は示された一方、死亡への影響は追跡期間や参加率の影響を受ける形で報告されており、政策化には解釈の工夫が必要です[14]。
検診の不利益(ハーム)は、議論の周辺ではなく中核です。米国の推奨では、複数の検診法を選択肢として示しつつ、検査に伴う出血や穿孔などの不利益も系統的に評価しています[15]。国内外いずれの枠組みでも、利益と不利益のバランスを年齢や健康状態に応じて考える必要がある、という前提は共通しやすいと言えます[13,15]。
反証・限界・異説
「手続きが多いから改革すべきだ」という主張には、反対側の根拠もあります。研究不正や不適切な資金提供が問題になった事例の分析は、臨床研究の信頼性が制度設計の基盤であることを示します[5,18]。透明性を弱めたまま効率化だけを進めると、参加者保護や再現性の担保が揺らぐおそれがあります。
一方で、慎重さが行き過ぎると、研究の選択肢が減り、結果として患者のアクセスが遅れる可能性があります。制度強化が研究件数の減少と同時期に観察されたという分析は、こうしたジレンマを示唆します[4]。安全性とスピードの両立は、片方を最大化すれば自然に解決する課題ではなく、設計の見直しが必要と考えられます[1]。
生活習慣リスクに関しても、単純化は避ける必要があります。国際機関の評価では、飲酒は複数のがんに対して発がん性があると整理され[16]、喫煙も発がん性が確立していると評価されています[17]。ただし、個人の行動変容を強調しすぎると、環境や所得、教育などの要因で実行可能性が異なるという問題が残ります。検診と生活習慣対策を「どちらか」にしない設計が重要になります[8,9]。
実務・政策・生活への含意
実務面では、臨床試験の負担を減らす方向性として、リスクに応じて重点を変える監督や、データ品質を設計段階から組み込む考え方が国際指針で強調されています[1]。これは「監視を弱める」ことではなく、「重要な点に資源を集中させる」考え方です。国内でも、支援体制(データ管理、安全管理、審査体制等)を担える拠点を整備する要件が示されており、個人依存を減らす方向性と整合します[3]。
政策面では、がん検診の成果を左右するのは「受診率」だけでなく「精密検査の受診・把握」まで含めた運用であることが明確です[8,9]。通知や勧奨、結果把握の仕組み、受け皿医療機関の処理能力を合わせて点検しないと、検査法の議論だけでは成果が出にくいと考えられます[8]。
生活面では、検診の種類や頻度は年齢やリスクで変わるため、ガイドラインの枠組みを踏まえつつ医療者と相談して選択することが現実的です[13,15]。また、飲酒や喫煙はがんリスクと関係することが国際評価で整理されているため[16,17]、検診と並行してリスクを下げる行動を選べる環境づくり(職場・地域の支援、相談先の整備)も重要になります[8,9]。
まとめ:何が事実として残るか
臨床試験は、被験者保護とデータ信頼性を守るための標準が必要であり、国際指針は品質を設計に組み込む方向へ進んでいます[1]。国内でも事前相談の枠組みや支援拠点の要件が示され、研究を「個人の献身」から「体制」で支える方向性が確認できます[2,3]。同時に、制度変更と同時期に研究件数の減少が観察されたという分析もあり、慎重さの運用が研究実施に影響し得るという課題が残ります[4]。
がん対策では、結腸・直腸がんを含む負担が大きい一方で[6]、受診率と精密検査受診率の改善が最優先課題であることが明確です[8,9]。感染対策や検診法の根拠は蓄積していますが[10,11,12,13,14]、不利益評価と参加率、資源配分の制約も含めた設計が必要です[15]。安全性、信頼性、アクセスの三者をどう両立するかは、今後も検討が必要とされます。
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させて検証可能としています。
出典一覧
- ICH(2025)『ICH E6(R3) Guideline for Good Clinical Practice(Step 4 Final Guideline)』 ICH 公式ページ
- 医薬品医療機器総合機構(n.d.)『治験相談等(新医薬品)』 PMDA 公式サイト 公式ページ
- 厚生労働省(2025)『臨床研究中核病院の承認要件(概要)』 厚生労働省(PDF) 公式ページ
- Taruno H, et al.(2022)『Impact of the Clinical Trials Act 2018 on clinical trial activity in Japan from 2018 to 2020』 BMJ Open 公式ページ
- Nakamura K, Shibata T(2020)『Regulatory changes after the enforcement of the new Clinical Trials Act in Japan』 Japanese Journal of Clinical Oncology 50(4) 公式ページ
- 国立がん研究センター(2025)『がん統計予測(Projected Cancer Statistics in 2025)』 がん情報サービス 公式ページ
- 国立がん研究センター(2023)『がん検診受診率(国民生活基礎調査による推計値)』 がん情報サービス 公式ページ
- 国立がん研究センター(n.d.)『がん検診の都道府県別プロセス指標(精検受診率の解説を含む)』 がん情報サービス 公式ページ
- 厚生労働省(2023)『がん検診事業の評価について』 厚生労働省(PDF) 公式ページ
- Wang C, et al.(2017)『Changing trends in the prevalence of H. pylori infection in Japan: a systematic review and meta-regression analysis』 Scientific Reports 公式ページ
- Choi IJ, et al.(2020)『Family History of Gastric Cancer and Helicobacter pylori Treatment』 New England Journal of Medicine(PubMed) 公式ページ
- Kim YI(2024)『Performance of the National Cancer Screening Program for Gastric Cancer in Korea』(PMC公開) 公式ページ
- 国立がん研究センター(2024)『有効性評価に基づく大腸がん検診ガイドライン 2024年度版 公開』 国立がん研究センター(発表資料) 公式ページ
- Bretthauer M, et al.(2022)『Effect of Colonoscopy Screening on Risks of Colorectal Cancer and Related Death』 New England Journal of Medicine(PubMed) 公式ページ
- U.S. Preventive Services Task Force(2021)『Colorectal Cancer: Screening(Final Recommendation Statement)』 USPSTF 公式ページ
- IARC Working Group(2012)『Personal Habits and Indoor Combustions: Consumption of Alcoholic Beverages(IARC Monographs Vol.100E)』 NCBI Bookshelf 公式ページ
- IARC Working Group(2012)『Personal Habits and Indoor Combustions: Tobacco Smoking(IARC Monographs Vol.100E)』 NCBI Bookshelf 公式ページ
- Sawano T, et al.(2019)『Pharmaceutical Payments to Authors Involved in the Valsartan Scandal in Japan』 JAMA Network Open(PMC) 公式ページ