目次
- 会長退任で「次世代に渡す」発想|AIネイティブへの経営交代
- インターネットで戦う側から「使う側」へ|視点が切り替わった瞬間
- AIで「作る」が民主化される|希少になるのは楽しむ力と体験価値
- 押し活・エンタメが職業を再編する|人を動かす「きっかけ作り」の価値
会長退任で「次世代に渡す」発想|AIネイティブへの経営交代
- ✅ 会長退任は「引退」ではなく、会社の文化に合わせて次の世代へバトンを渡す判断。
- ✅ PC→携帯→AIのように“時代のネイティブ”が変わるたび、経営も感覚が近い世代へ引き継ぐのが合理的。
- ✅ AIネイティブ世代が自分たちの感覚で意思決定できる会社にすることが、組織の強さにつながるという問題提起になっている。
この対談では、川邊健太郎氏と堀江貴文氏が「会長退任後に何をするか」を入り口に、肩書きの変化を“個人の進路”だけでなく“組織の世代交代”として捉え直している。川邊氏は、会社にはそれぞれ文化やリズムがあり、トップの交代も「誰が正しいか」ではなく「どんな文化で回していくか」の選択だと整理する。さらに、PCから携帯、そしてAIへと技術の重心が動く今、経営も“その時代のネイティブ”が担うほうが自然だという見立てを提示した。
私は、会社って文化とかリズムがあると思っています。トップがずっと最後までやる文化もあれば、そうじゃない文化もあります。
私の場合は、ここで自分が耐えて続けるより、次に渡すほうがいいと思いました。オーナーとして守り切るというより、その時その時の感覚が合う人たちが引き継いでいける形のほうが、会社として強くなる気がしたんです。
― 川邊
「会社の文化」で見ると、退任は自然な設計になる
会社によっては、創業者が最後まで背負うのが似合うところもあります。一方で、私が見てきた流れだと、経営はサラリーマン経営者のバトンリレーで繋がってきました。
そういう会社は、オーナーが一人で引っ張り続けるよりも、時代ごとの意思決定ができる人が前に出たほうが、結果的に“代替が効く会社”になっていくと思います。もちろん正解は分からないけど、私はその方向がいいと考えています。
― 川邊
PCネイティブからAIネイティブへ、経営の感覚もアップデートする
これまでも、PCネイティブの感覚から携帯ネイティブの感覚へ、という形でバトンを渡してきた面があります。だから次は、AIネイティブ世代が自分たちの感覚で経営したらいいんじゃないかと思っています。
AIは道具として便利なだけじゃなくて、価値の作り方や判断のスピードまで変えてしまう可能性があるので、現場感覚が近い人たちが意思決定できるほうが、会社も社会も前に進みやすい気がしています。
― 川邊
肩書きを外すのは「自由時間」を増やすためではなく、選択肢を増やすため
川邊氏の話は、退任を“余生の始まり”として語らない点が特徴的だ。会社の外に出ることで時間が増えるというより、意思決定の重心を次世代へ移しつつ、自分はAIを含む新しい領域に動ける状態を作る。つまり退任は、組織にとっては「ネイティブ世代が経営する体制づくり」であり、個人にとっては「次の打ち手を増やす再配置」でもある。この視点が、次のテーマで語られる“作る側/使う側の切り替え”や、職業選択の幅が広がる時代の生き方へつながっていく。
インターネットで戦う側から「使う側」へ|視点が切り替わった瞬間
- ✅ 「まだインターネットやってるの?」という堀江氏の一言が、川邊氏の視点を“プラットフォームで戦う”から“強みを活かして使う”へ動かした。
- ✅ 日本の強みを「食と文化」と捉え、インターネットは勝ち負けの主戦場ではなく、レバレッジを効かせる道具。
- ✅ AI時代の次の一手として、作る側だけでなく「される側」「使う側」に回る発想が示された。
このパートでは、川邊氏が過去の体験を振り返りながら、キャリアや事業の立ち位置をどう更新するかを語っている。堀江氏の「まだインターネットやってるの?」という問いかけは、当時“デジタルプラットフォームで戦う”ことに集中していた川邊氏に、別のゲームの見方を突きつけた。日本はすでにプラットフォーム競争で厳しい状況にあり、強みは「食と文化」にある。ならばインターネットは“勝つための場所”ではなく、“強みを増幅する装置”として使うほうが筋がいい、という整理につながっていく。
山の家で「最近何やってんの?」って聞かれて、私は「GAFAと戦ってます」みたいなことを言ったんです。
そしたら「まだインターネットやってんの? プラットフォームがやってんの?」って返されて、正直、刺さりました。
インターネットの魅力って、個人をエンパワーメントするところだと思って夢中でやってきたのに、気づけば“エンパワーメントする側”に固定されていて、“される側”に一度も回っていなかったな、と。
― 川邊
「日本の強みは食と文化」という見立てが、戦い方を変えた
堀江さんは「日本はもうプラットフォームでは負けたんだから、俺はもうそれやってないよ」って言うんですよね。
それで「日本の強みは食と文化だから、そっちやってんだよ」って。言われてみると、食や文化ってインターネットでレバレッジが効くんですよ。発信も流通も、やり方次第で一気に広がる。
私はずっと“主戦場そのもの”を取りにいく感覚が強かったけど、強みがある領域を見つけて、ネットを道具にして伸ばす、という見方もあるんだと腑に落ちました。
― 川邊
「作る側」だけでなく「使う側」に回るのが、次の実験になる
堀江さんのYouTubeを見ていると、本当に自分で捉えたものを、そのまま形にしている感じがあるんですよね。
私はネットの最前線を見てきたつもりだけど、これからはAIも含めて、作るだけじゃなく“使う側”に回るのも面白いんじゃないかと思っています。
やるべきことが一段落したタイミングで、AIによって「作る」と「使う」の境目が薄くなるなら、なおさら試したいことが増えます。
― 川邊
肩書きの後に残るのは「どの立場で価値を出すか」という設計
ここで語られているのは、職業選択が増えた時代の“気合い論”ではない。むしろ、勝ち筋の薄い場所で消耗し続けるより、強みのある領域を選び、インターネットやAIをレバレッジとして使うほうが合理的だ、という設計の話になっている。川邊氏にとって堀江氏の一言は、立場を固定せずに「作る側/使う側」を行き来する発想を開くきっかけになった。次のテーマでは、その延長としてAI時代の価値がどこへ移るのかが、より具体的に語られていく。
AIで「作る」が民主化される|希少になるのは楽しむ力と体験価値
- ✅ AIによって制作コストが下がるほど、作品は過剰供給になり、「楽しむ側」の価値が相対的に上がる。
- ✅ そこで重要になるのは、情報や疑似体験では埋まらない“本物の体験価値”をどう作り、どう届けるかという設計になる。
- ✅ ミュージカルやフェスのような場づくりは、「楽しむことのプロ」を増やす挑戦。
対談の中盤では、AIの普及が「職業選択の幅」を広げるだけでなく、価値の置き場所そのものを変えていくという話に踏み込む。堀江氏は、これまで才能や資本が偏りやすかった“制作”が、AIによって一気に民主化されると見る。その結果、世の中に生まれるコンテンツやプロダクトは増えすぎて、相対的に希少になるのは「何を作るか」よりも「どう味わうか」「どう熱中するか」だという論点が立ち上がる。さらに川邊氏も、この流れがエンタメや体験市場を押し上げる可能性に触れ、AI時代の生き方を“作り続ける”だけに限定しない視点を重ねていく。
AIが入ってくると、今までみたいに才能とか資本がないと作れなかったものが、誰でもめっちゃ作れるようになると思うんですよね。
そうすると、作られるものがとにかく増える。増えすぎると、作る側の価値って相対的に揺らぐ場面も出てくる気がします。
だからむしろ、作られたものを楽しむ側のほうが希少性が高くなるんじゃないかな、と思ったんです。
― 堀江
“楽しむこと”は自動化しにくい、という逆転の発想
AIが作ったものをAIが「楽しんでます」って言っても、こっちは感動しないですよね。結局、人間が本当に見て楽しんでいるかどうかが大事になる。
だから私は「楽しむのがプロになりたいな」と思って、ミュージカルをやったり、フェスをやったりしてるところがあるんです。
最近、IT系の経営者同士の会話でも、フェスの話が増えてる感じがします。作ることが簡単になるほど、場とか体験の設計に価値が寄っていくんじゃないかな、と。
― 堀江
疑似体験が増えるほど、“本物”の体験価値が前に出る
フェスって、結局「楽しめる人」が増えるほど強いマーケットになっていくと思うんですよ。楽しむ側の価値が上がっていく感覚がある。
多分、ほとんどの人は「楽しむこと」をまだ知らないんです。だから本物を伝えていく、というか、体験の濃さが全然違うんだよっていうのを届けたい。
AI時代になると、そうじゃないもの、つまり“本物に触れたい”という欲求がむしろ強くなる。だからディズニーみたいな分かりやすい体験から、もっと本物のエンターテインメントに触れる流れも増えるんじゃないかな、と思います。
― 堀江
「何を作るか」から「どう味わうか」へ、キャリアの軸が動く
このテーマで印象的なのは、AIを「効率化ツール」としてだけ扱わず、価値の希少性を反転させる要因として捉えている点だ。誰でも作れる世界では、作品そのものよりも、体験の質や熱量のほうが差になりやすい。堀江氏がフェスやミュージカルを例に出したのは、娯楽を語るためというより、「楽しむ力」を開発し、それを周囲に伝播させる動きが、これからの市場や働き方の中心になり得るという示唆になっている。次のテーマでは、この“熱量の市場”が押し活やコミュニティ、そして新しい職業の生まれ方にどう繋がるのかが、さらに具体例を交えて語られていく。
押し活・エンタメが職業を再編する|人を動かす「きっかけ作り」の価値
- ✅ 押し活や配信の拡大で「好き」を起点にお金が動き、稼ぎ方や職業の作られ方が変わっている。
- ✅ 体験市場が伸びるほど重要になるのは、才能よりも「人が一歩踏み出す導線」を用意すること。
- ✅ “やれば楽しい”のに動けない層に対し、コミュニティやイベント設計で背中を押す役割が、新しい仕事になり得る。
対談の後半では、AIによって「作る」ことが簡単になった先に、熱量がどこへ集まるのかが具体例で語られる。堀江氏は、押し活や夜の街の文化、配信による視聴の拡張などを挙げながら、個人が“好き”を軸に収益を得る回路が太くなっていると見る。ここでの論点は、単にエンタメが伸びるという話ではない。体験と熱量が市場を作り、その市場を成立させるために「人が動く仕掛け」が重要になる、という整理へつながっていく。
押し活って、めちゃくちゃ市場がでかくなってると思うんですよ。好きな人を応援するためにお金を使うのが、当たり前になってきた。
昔から似た構造はあって、夜の街だって「推す」文化の一種ですよね。結局、熱量があるところにお金が動く。
それが配信とかネットで加速して、国内だけじゃなく海外の人も見られるようになると、個人が稼げる幅が一気に広がる感じがします。
― 堀江
「やれば楽しいのに、やらない人」が一番多い
多分ほとんどの人って、やれば楽しいのにやらないんですよ。阿波踊りだって、ちょっと入って踊るだけで楽しいのに、見てるだけで帰っちゃう人が多い。
サウナも同じで、一回ハマるとすごく気持ちいいのに、入口に立ってるだけで入らない人がいる。
だから大事なのは、「楽しさ」そのものを作るというより、楽しみに行くためのきっかけを用意することなんじゃないかなって思います。
― 堀江
背中を押す役割が、仕事として成立していく
きっかけって、別に大げさなものじゃなくていいんですよ。仲間がいるとか、参加しやすい導線があるとか、最初の一回を楽にする仕掛けがあるとか。
そういうのがあると、人は動きやすい。動いた結果、体験がよくて、次からは自走する。
押し活も、フェスも、コミュニティも、結局は「最初の一歩」をどう作るかが勝負で、その設計ができる人はこれから価値が出ると思います。
― 堀江
職業選択が広がる時代は「役割」を自分で作る時代でもある
このテーマが示しているのは、職業の数が増えるという表面的な変化ではない。熱量が集まる場所が分散し、個人が小さな市場を持てるようになるほど、「人を集める」「体験へ連れていく」「続けたくなる場を整える」といった役割が、仕事として立ち上がりやすくなる。堀江氏が繰り返した“きっかけ”は、才能や専門性とは別の軸で価値を作る方法でもある。AIで作れるものが増えていくほど、最終的に残るのは人間の行動と熱量であり、その導線を引ける人が次の時代の選択肢を増やしていく、という締め方になっている。
出典
本記事は、YouTube番組「会長退任後は何をする?職業選択の幅が拡大した時代に私たちはどう生きるか【川邊健太郎×堀江貴文】」(堀江貴文 ホリエモン/2026年2月5日公開)の内容をもとに要約しています。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
技術転換期の経営交代、プラットフォーム依存、AIで変わる創作と体験価値を、OECD・ILO・UNCTAD・UNESCOや査読論文など第三者資料で検証し、前提と限界を整理します。
問題設定/問いの明確化
生成AIの普及は、企業の意思決定、競争の土俵、そして価値の生まれ方を同時に変えつつあります。論点を整理すると、第一に「技術転換期に、経営の世代交代は合理的な適応策になり得るのか」、第二に「巨大プラットフォームとの競争は、主戦場を奪い合う以外の戦い方があるのか」、第三に「制作コストの低下が進むほど、体験や“味わう力”は本当に希少になるのか」、第四に「推し活やコミュニティの熱量が仕事を生むとして、その持続条件は何か」という問いになります。
これらは語り口が魅力的になりやすい反面、前提を誤ると結論が逆転します。本稿では、企業統治・競争政策・創造産業・行動科学の公的資料と学術研究を手がかりに、検証可能な形で論点を組み替えます。
定義と前提の整理
「世代交代」は年齢の問題というより、権限移譲と継承設計の問題です。OECDの企業統治原則は、取締役会がCEOの後継計画(サクセッション・プランニング)に責任を持つべきであり、緊急時対応にとどまらず、人材育成や多様性にも関わる長期的な戦略ツールになり得ると整理しています[1]。
「プラットフォーム競争」は、サービスの良し悪しだけではなく、データ、ネットワーク効果、規約変更の影響など、構造的な要因が勝敗を左右しやすい分野です。OECDは、デジタル市場での市場支配力の行使(あるいは濫用)に対して、事後規制(競争法執行)と事前規制(新たなルール)の組み合わせが各国で検討・実装されていると報告しています[4]。
「AIで作ることの民主化」は、制作の参入障壁が下がることを指しますが、同時に“見つけてもらう”工程が詰まる可能性もあります。創造産業の拡大は国際統計にも表れており、UNCTADは2022年のクリエイティブ・サービス輸出が約1.4兆米ドル、クリエイティブ財が約7,130億米ドルに達したと示しています[5]。供給が増える局面では、作品そのものに加え、体験設計や流通・発見の仕組みが価値の中心になりやすい、という前提が立ちます。
エビデンスの検証
経営交代は「有効な場合がある」が、万能策ではない
経営交代の効果は一枚岩ではありません。CEO交代を対象にしたメタ分析では、交代は短期の業績にマイナス影響を与えやすく、長期には有意な直接効果が見えにくいという結果が示されています[2]。これは、交代が「適応の機会」になり得る一方で、「引き継ぎコストや混乱」という現実的な摩擦があることを意味します。
また、継承の“基準”が成果に関わる可能性も指摘されています。上場企業を対象にした研究では、血縁などの関係に基づく継承が、そうでない選任と比べて業績面で劣後する傾向が報告されています[3]。ここからは、年齢や世代感覚そのものより、選定基準の透明性、移行プロセス、権限の分界が結果を左右し得る、という示唆が得られます。
この点で、後継計画を取締役会の責任として明記する国際原則[1]は、単なる“席替え”ではなく、継承を制度として設計する必要性を補強します。技術転換期ほど、権限移譲のスケジュール、意思決定のレビュー体制、緊急時の代替手順まで含めて設計しておくことが重要になります[1,2]。
「勝つ土俵」より「活かす土俵」へ:プラットフォーム依存の現実
デジタル市場では、少数の大規模プラットフォームが強い影響力を持ち、規約やランキング、手数料、データアクセスの条件が、参入者の収益性や成長性を左右しやすいと考えられています[4]。この構造を前提にすると、すべての領域で“プラットフォームそのもの”を取りに行く戦略は、資本・人材・規制対応の負荷が大きく、持続性が課題になり得ます。
一方で、差別化しやすい領域(地域資源、文化、専門性の高いサービスなど)を、デジタルを通じて広げる戦略は現実味があります。UNCTADが示すように、クリエイティブ・サービスの国際取引は拡大しており[5]、“強みのあるコンテンツや体験”を外部市場へ届ける回路自体は拡張しています。
制作が容易になるほど、体験と注意資源がボトルネックになりやすい
供給が増える局面では、受け手の「注意」が希少資源になります。注意経済を扱う研究は、注意が蓄積・交換され得る資源として機能し、社会的・経済的な配分を左右し得ると論じています[11]。制作の民主化が進むほど、作品の数は増える一方で、受け手が向けられる注意の総量は増えにくいため、“見つけてもらう競争”が激化しやすいという整理になります[11]。
その中で、オンラインの情報だけでは代替しにくい「現地性」「同時性」「参加性」を持つ体験が、差別化の軸になり得ます。OECDは、文化・創造分野と観光の相乗効果として、文化活動を行う旅行者が滞在が長く支出も多いといった推計や、ライブイベント目的の旅行消費が経済に寄与した例を紹介しています[6]。制作コストの低下が進むほど、体験の設計と運営が価値の中心へ寄る、という見立てには一定の根拠があるといえます[6,11]。
AIは「職業の消滅」より「タスク再編」として表れやすい
AIが働き方に与える影響は、職業全体の置き換えよりも、業務タスクの再編として現れやすいことが指摘されています。ILOは生成AIへの曝露をタスクレベルで推計し、事務系職種では高曝露タスクが約24%、中曝露が約58%と示しています[7]。重要なのは、曝露が直ちに雇用消滅を意味するのではなく、役割の再設計や補完(augment)として影響が出る可能性が高い、という点です[7]。
またOECDは、生成AIが生産性・イノベーション・起業に与える影響について、実験研究をレビューし、タスク自動化と技能補完の両面を示しつつ、信頼性や人間の専門性、組織適応が成果を左右する課題だと整理しています[8]。したがって「AIに慣れている世代が担えばうまくいく」と単純化するより、仕事の分解、品質管理、責任分界の更新が前提条件になります[7,8]。
反証・限界・異説
第一に、経営交代を「新しい技術感覚に合わせるため」と説明しすぎると、年齢による固定観念に近づきます。実証研究が示すのは、交代が短期にコストを伴うこと[2]、そして継承の基準次第で成果が変わり得ること[3]です。技術の理解だけでなく、移行設計とガバナンスが欠けると逆効果になり得る点には注意が必要です[1,2]。
第二に、体験価値の上昇は自動的には起きません。体験市場は、運営・安全・移動・受け入れ・地域連携といった周辺条件に依存します。OECDの事例紹介は可能性を示す一方で、誰がコストを負担し、誰が便益を得るかという配分問題が残ります[6]。体験が商業化されるほど、文化的真正性(オーセンティシティ)や地域の生活への影響が課題になる、という指摘も成り立ちます。
第三に、熱量ビジネスは情報の信頼性と統治の弱点を抱え得ます。ILOは、創造労働のプラットフォーム化が、労働者の自律性とプラットフォーム側の統制の緊張関係を生むと論じています[9]。UNESCOは、デジタル創作者の62%が体系的なファクトチェックを行わず、73%が訓練を望むと報告しており[10]、熱量が強い環境ほど誤情報や過激な誘導が混入するリスクへの備えが必要になります。
第四に、「人を動かすきっかけ作り」は価値になり得ますが、倫理的な境界が曖昧です。OECDは、行動科学(ナッジ等)を公共領域で用いる際の方法論や倫理上の留意点を、ツールキットや原則として提示しています[12,13]。参加を促す設計は支援にも操作にもなり得るため、透明性、同意、弱者への配慮、検証可能性が欠かせません[13]。
実務・政策・生活への含意
企業実務では、後継計画を「思いつき」ではなく制度として扱い、取締役会の責任範囲と評価指標を明確にすることが出発点になります[1]。交代が短期に混乱コストを伴い得る以上[2]、移行期間の権限分界(誰が何を決め、どこまでレビューするか)と、緊急時の代替手順を事前に用意することが、技術転換期のリスク管理として合理的です[1,2]。
競争戦略では、プラットフォームの市場支配力が政策的論点になっている現実を踏まえ[4]、「自社が支配する領域」と「借りる領域」を分けて考える必要があります。借りる領域では、規約変更や集客アルゴリズムの変動に備え、販路やコミュニティを分散させる設計がリスク低減になります[4,11]。
個人の働き方では、AIは“完全な置き換え”よりもタスク再編として影響しやすいため[7]、仕事を分解して「AIに任せる部分」と「人が担う部分(対人調整、現場運営、最終責任、倫理判断など)」を意識的に再設計することが有効です[8,13]。なお、世界規模では2030年までに相当数の労働者がリスキリング/アップスキリングを必要とする見通しも示されており[14]、学び直しを“個人の努力”だけに押し付けず、企業内訓練や公的支援の設計が課題になります[7,14]。
コミュニティや熱量を収益につなげる領域では、資金調達研究が示すように、関係性や発信、プラットフォーム内での更新行動が成果に結びつき得る一方[15]、信頼の毀損が起きると逆回転もしやすい点に注意が必要です。ファクトチェックや説明責任を“コスト”ではなく“信用の基盤”として扱うことが、長期の持続条件になり得ます[10,13]。
まとめ:何が事実として残るか
第三者資料から確かに言えるのは、(1)経営交代は取締役会が後継計画に責任を持つべき統治課題であること[1]、(2)CEO交代は短期の混乱コストを伴い得て、長期効果は自動的ではないこと[2]、(3)継承の基準が成果に影響し得ること[3]、(4)デジタル市場では大規模プラットフォームの市場支配力が政策的焦点になっていること[4]、(5)クリエイティブ・サービス取引の拡大が示すように、創作と周辺サービスの市場は広がっていること[5]、(6)文化・体験が支出や滞在と結びつき得る推計があること[6]、(7)生成AIは職業消滅よりタスク再編として表れやすいこと[7,8]、(8)熱量市場は統制・信頼・倫理の課題を抱え得ること[9,10,13]です。
したがって、技術転換期の成功は「若い世代へ渡す」「作ることが増える」「体験が伸びる」といった単線の物語では決まりません。ガバナンスの設計、注意資源の配分、プラットフォーム依存の管理、そして人を動かす仕掛けの倫理と検証が重なったときに、持続的な強さに近づくと考えられます。今後も検討が必要とされる課題が残ります。
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させて検証可能としています。
出典一覧
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- Schepker, D.J. et al.(2017)『CEO succession, strategic change, and post-succession performance: A meta-analysis』 The Leadership Quarterly 公式ページ
- Pérez-González, F.(2006)『Inherited Control and Firm Performance』 American Economic Review 96(5) 公式ページ
- OECD(2024)『Competition Policy in Digital Markets: The Combined Effect of Ex Ante and Ex Post Instruments in G7 Jurisdictions』 OECD 公式ページ
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- OECD(2019)『Tools and Ethics for Applied Behavioural Insights: The BASIC Toolkit』 OECD 公式ページ
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