目次
- 日本のメディアが報じにくい「ICE炎上」 背景にある自主規制の構造
- ICEとは何か DHSの巨大組織と、連邦・州の権限が生むねじれ
- 「疑わしきは逮捕」が生む摩擦 誤認・拘束・市民の恐怖
- 市民射殺と「ICE廃止」世論 トランプ政権に迫る政治コスト
日本のメディアが報じにくい「ICE炎上」 背景にある自主規制の構造
- ✅ アメリカで大きく燃えているICE(移民・税関執行)問題は日本では十分に共有されていない点が「異常」
- ✅ 背景には、選挙局面や対米姿勢への配慮による“自主規制・忖度”が働く可能性がある
- ✅ ただし現場映像がソーシャルメディアで拡散する時代になり、黙殺が難しくなっている
動画では、苫米地英人氏が、アメリカで拡大するICE(移民・税関執行)をめぐる反発や混乱について、日本の報道が相対的に薄い点を起点に話を組み立てている。成人の約半数が「ICE廃止」に賛成するという調査が出ているにもかかわらず、日本では論点として立ち上がりにくいという問題意識だ。苫米地氏は、その“情報の薄さ”自体が、状況の見誤りにつながると警戒している。
私はまず、「アメリカで起きていることが、日本のニュースではストレートに入ってこない」状態が、いちばん危ないと思っています。成人の48%がICE廃止に賛成、共和党の中でも一定数が廃止を口にするという話が出ているなら、本来はもっと大きく扱われても不思議ではありません。
それなのに、ICE問題が日本ではあまりニュースになっていない。私はここに、単なる編集方針ではなく、空気や配慮が混ざった“見えないフィルター”を感じます。情報が限定されると、何が起きているかの輪郭すらつかめなくなります。
「選挙」と「対米姿勢」がニュース選別に影響する
私は、日本で選挙が意識される局面になるほど、海外ニュースの出し方が変わる場面があると思っています。ICEはトランプ政権の移民政策の象徴のような組織です。だから、トランプ氏がアメリカ世論の中で苦しくなる話は、扱わないほうがいいという判断が働きやすいのではないでしょうか。
もちろん、これは「必ずそうだ」と断定したい話ではありません。ただ、結果として“報じられないこと”が続くなら、受け手は構造を疑うしかない。私は、メディアの自主規制や忖度という言葉を、状況説明として外せないと感じています。
ソーシャルメディアが「黙殺」を破る
私はもう一つ重要だと思うのが、現場映像の拡散です。取り締まりの様子がショッピングモールなどで撮影され、いろいろな角度の映像が一気に流通する。こうなると、「なかったこと」にするのが難しくなります。
しかも映像は、解釈の余地を残しながらも、議論の出発点として強い力を持ちます。私は、黙殺が続くほど、逆にソーシャルメディア側で不信が増幅し、火種が大きくなる流れもあり得ると見ています。
読者が押さえておきたい視点
このテーマで整理できるポイントは、「アメリカの炎上」そのものだけでなく、「日本側の受け取り方が狭くなる構造」にも警戒が必要だという点だ。苫米地氏は、選挙や対米姿勢への配慮が報道の厚みに影響し得る、と問題提起している。次のテーマでは、その前提として、そもそもICEがどんな組織で、なぜ強い権限を持つようになったのかを制度面から整理していく。
ICEとは何か DHSの巨大組織と、連邦・州の権限が生むねじれ
- ✅ ICEは「移民」と「税関」を執行する組織で、苫米地氏は“捕まえに行く側”の実働部隊として位置づけている
- ✅ 9.11後に生まれた国土安全保障(ホームランド)という巨大組織の中で権限が強まり、取り締まりの重みが増したという見立てがある
- ✅ 米国は州ごとに法律が違うため、連邦機関の動きが「ねじれ」や摩擦を起こしやすい
苫米地氏は、ICEを「Immigration & Customs Enforcement(移民・税関の執行)」の略として説明しつつ、現場で実際に拘束や移送を行う“執行側の組織”として捉えている。単なる役所ではなく、取り締まりを具体的な行動に変える装置である点が、炎上の中心になりやすいという整理だ。さらに組織内でも、拘束して移送する機能などが分かれている可能性に触れ、総称としてICEが語られやすい構図を示している。
私は、ICEを難しく考えすぎないほうがいいと思っています。移民と税関に関わるルールを、現場で「執行する」ための人たち、という理解がまず大事です。
そして現場では、捕まえるだけでなく、その後に移送するような役割も含めて動いているように見えます。だからこそ、一般の生活空間にまで踏み込んだ時に、摩擦が一気に表に出やすいのだと思います。
9.11後の「ホームランド」が組織を巨大化させた
苫米地氏は、ICEが国土安全保障(ホームランドセキュリティ)の枠内にある点を強調する。9.11後に生まれた「大テロ対応」の論理が、巨大な組織と感情を支え、結果として取り締まりの正当化や強化に結びつきやすい、という見立てだ。ICEをめぐる議論は、移民問題だけでなく、「テロ対策の延長線で権限が太ってきた構造」を含むと整理している。
私は、ICEの背景に「ホームランド」という巨大な装置があることを見落としたくありません。9.11以降のアメリカでは、非常時の論理が長く残りやすく、組織の力も強くなりがちです。
移民の取り締まりが、いつの間にか“国家の安全”の言葉で語られていくと、強い手段が選ばれやすくなります。私は、その流れが今の摩擦の土台になっていると感じています。
連邦と州のズレが「逮捕」の感覚を変える
苫米地氏は、米国が「州ごとに法律が違う」国である点を前提に、連邦機関の逮捕・拘束がわかりにくい形で運用される危うさを語っている。もともと連邦政府の“警察的な動き”は万能ではなく、逮捕は基本的に地域の警察が担う、という理解がある一方で、9.11以降はその境界がグレーになってきた、という説明だ。この「権限の境界がにじむ」状態が、取り締まりの強さへの不信や反発を生みやすい、という問題意識につながっている。
私は、アメリカの「州ごとに法律が違う」という前提が、日本の感覚と大きく違うと思っています。どこまでが連邦で、どこからが州なのかが曖昧になると、現場の運用が強く見えても止めにくくなります。
その曖昧さが、取り締まりへの恐怖や怒りにつながっていくのだと思います。私は、制度の理解がないままニュースだけ追うと、対立の根っこを見誤る危険があると感じています。
制度を知ると見えてくる次の論点
この章のポイントは、ICEを「移民問題の一部」としてだけ見るのではなく、9.11後の国土安全保障の論理と、連邦・州の権限のズレが重なっている現象として捉えることにある。苫米地氏は、その延長線上で、疑わしい段階で拘束し、短時間でふるいにかけるような運用が入り込みやすいとも示唆している。次のテーマでは、そうした“疑わしきは逮捕”的な現場運用が、なぜ一般市民の恐怖や衝突に直結するのかを具体的に整理していく。
「疑わしきは逮捕」が生む摩擦 誤認・拘束・市民の恐怖
- ✅ 苫米地氏は、ICEの現場運用が「疑わしきは逮捕」へ傾くと、一般市民まで巻き込みやすくなると見ている
- ✅ 身分証提示の拒否だけで逮捕に至る例が出ると、釈放されても不信と怒りが残りやすい
- ✅ その積み重ねが、地元警察と住民がICEに対抗する構図を生み、社会の緊張を押し上げる
苫米地氏が強調するのは、ICEの問題が「移民の取り締まり」だけで終わらず、日常空間での拘束や誤認を通じて、一般市民の安心を揺らしている点だ。動画では、現場のロジックとして「疑わしきは逮捕していい」が共有されている可能性に触れ、通常の刑事手続きの感覚とズレること自体が摩擦の出発点になると整理している。
私は、いちばん怖いのは「運用の空気」が変わることだと思っています。疑わしいなら先に捕まえて、あとで調べればいい、という発想が現場に入ると、対象が一気に広がります。
本来は、疑わしいだけでは簡単に逮捕できないはずです。ところが、現場がその感覚を手放すと、正しい人まで巻き込んでしまいます。その瞬間に、社会全体の信頼が削れていきます。
24時間拘束で「ふるいにかける」発想
私は、いったん捕まえて24時間ほど拘束し、その間に調べて問題がなければ解放する、という運用が広がると、危ういと思っています。緊急事態の論理としては分かる部分もありますが、平時にそれを常態化させると、線引きがどんどん曖昧になります。
そうなると、手続きの正しさよりも、現場の勢いが優先されやすい。私は、9.11以降の「非常時の感覚」が、別の領域に滑り込む怖さを感じています。
身分証提示の拒否が逮捕に直結する
私は、免許証などの提示を拒否しただけで逮捕される例が出ている、という話が重いと思っています。逮捕されたあとに「普通のアメリカ人だった」と分かって釈放されたとしても、心の中の納得は戻りにくいからです。
さらに、弁護士にすぐ会えない時間がある、という訴えまで重なると、当事者の怒りは当然強くなります。私は、この怒りが映像と一緒に拡散すると、社会の不信は一気に増幅すると見ています。
警察と住民がICEに対抗する場面が増える
私は、地元警察が住民側に立って、ICEとの間に入るような映像が増えている、という点も見逃せないと思っています。取り締まりの現場が荒れるほど、住民を守る動きが強くなり、対立の構図が固定されやすくなります。
そうなると、取り締まりの目的が何であれ、「地域の生活」と正面衝突しやすい。私は、この衝突が続くほど、政治にも跳ね返っていくと感じています。
日常の不安が世論を押し動かす
このテーマで見えてくるのは、強い取り締まりが「対象の切り分け」を誤った瞬間に、一般市民の恐怖と怒りへ直結するという点だ。苫米地氏は、誤認逮捕や弁護士に会えない訴え、警察と住民が介入する映像の拡散が重なることで、ICEそのものの正当性が疑われやすくなると捉えている。次のテーマでは、その緊張が「市民射殺」や「ICE廃止」の世論と結びつき、トランプ政権の移民政策や選挙にどう影響し得るのかを整理していく。
市民射殺と「ICE廃止」世論 トランプ政権に迫る政治コスト
- ✅ 苫米地氏は、ICEをめぐる衝突が「市民射殺」という形で可視化され、政権に不利な材料として積み上がっていると捉えている
- ✅ 「ICE廃止」支持が成人48%・共和党内でも一定数に広がることで、移民政策を軸にするトランプ氏の求心力が揺らぐと見ている
- ✅ 州兵の動員や治安対応が拡大すると、選挙に向けて“統治の失点”として印象づきやすい
苫米地氏は、ICEをめぐる緊張が、単なる抗議や賛否の対立を超えて「一般市民が射殺される」局面まで進んだことを重く見ている。しかも、その過程が映像として残り、ソーシャルメディアで拡散される時代だ。現場の説明がどうであれ、視聴者が複数角度の映像を前に判断できる環境がそろうと、政権側の“正当化”は難しくなる、という問題意識につながっている。さらに、11月の中間選挙を控えた時期にこの火種が拡大する点も、政治的な打撃として意識されているようだ。
私は、ここで一気に状況が変わったと感じています。一般市民が撃たれる出来事が出て、しかも映像が残って拡散する。これが起きた時点で、説明の勝負がとても厳しくなると思います。
私は、現場の判断がどうだったかを丁寧に見ないといけないと思っています。ただ同時に、映像を見た人が「本当にそれが必要だったのか」と疑問を持った瞬間に、政治の側は逃げ場がなくなります。
映像が残ると「自己防衛」の説明が通りにくくなる
私は、射撃の説明として「自己防衛だ」と強く言ってしまうほど、あとから映像で検証された時に不利になると思っています。いろんな角度の映像がそろうと、受け手は細部まで見て判断します。
私は、ホワイトハウスが協力姿勢を出したり、地元と連携すると言い始めたりするのも、そうした空気の変化を止めにくいからだと見ています。最初の言い方が強いほど、修正のコストが増えるのだと思います。
「ICE廃止」が共和党側にも波及すると、争点が反転する
私は、世論の数字が象徴的だと思っています。共和党の中でもICE廃止を言う人が出てきて、成人全体でも廃止支持が大きい。これは、移民政策を柱にしてきた側には相当きつい状況です。
私は、選挙が近いほど「政策の正しさ」よりも「不安の印象」が強く働くと見ています。現場の衝突が続くほど、支持層の結束にもヒビが入りやすくなると思います。
州兵動員が示すのは「治安対応の拡大」というシグナル
私は、州兵が出る段階まで行くと、もう「局地的な揉め事」では済まないと思っています。街が板を打ち始めるような空気が出たら、住民の感情も一気に硬くなります。
私は、この段階になると、ICEの是非そのものより「国が落ち着いていない」という印象が残りやすいと感じています。選挙に向けては、その印象が一番重いのだと思います。
このテーマで押さえるべき点は、ICEをめぐる対立が「制度論」から「治安と感情」の領域へ移った瞬間に、政治のコストが急増することだ。苫米地氏は、射殺の可視化、拡散する映像、そして「ICE廃止」支持の広がりが同時に起きることで、トランプ氏の移民政策が“強み”から“弱点”へ反転し得ると見ている。ここまでの流れを踏まえると、日本側が情報を拾い損ねた場合、世界の空気変化を読み違えるリスクも高まる。
出典
本記事は、YouTube番組「【衝撃】日本のメディアが黙殺するアメリカの闇。成人の48%が「ICE廃止」に賛成し、一般市民が射殺される異常事態とトランプの危機」(苫米地英人の銀河系アカデミア/公開日不明)の内容をもとに要約しています。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
米国の移民執行をめぐる対立は、権限配分・手続き保障・情報流通が絡む複合問題です。議会資料、政府監査、統計、査読研究を照合して論点を整理します。
「現場映像が拡散しているのに、受け手の理解が追いつかない」という状況は、特定の国や争点に限られた現象ではありません。国際調査では、ニュースを「時々または頻繁に避ける」人が増えていることが示され、情報過多や精神的負担が背景にあると報告されています[1]。また、ニュースに「疲れる」と感じる割合が2019年から2024年にかけて上昇した、という指摘もあります[2]。こうした“受け手側の回避”があると、海外で起きている摩擦が伝わりにくくなる前提が生まれます。
一方で、報道の側にも「伝えにくさ」を生む環境要因があります。国連機関による世界的な分析では、表現の自由をめぐる指標の低下や、記者の自己検閲の広がりなどが示され、政治的・経済的圧力と情報環境の不安定化が重なり得ることが示唆されています[3]。報道が萎縮するかどうかは国ごとに事情が異なるものの、圧力が構造的に存在し得る点は押さえておく必要があります。
日本の報道環境についても、国際比較の枠組みから「職業的自律性」や「影響要因」を測ろうとする研究があります[4]。ここから言えるのは、報道の厚みを決める要因が、単純な“意図”だけでなく、組織運営、時間、編集資源、受け手の需要などに左右される、ということです。したがって、論点を検証する際には「報道の多寡=真偽」ではなく、「制度・データ・研究」に立ち返って考える姿勢が重要になります。
問題設定/問いの明確化
本稿の焦点は、(A)移民執行を担う連邦機関の権限が、なぜ日常空間で摩擦を生みやすいのか、(B)誤認・拘束・暴力リスクは制度上どこで発生し得るのか、(C)その情報が社会に共有される過程で何が起きるのか、の3点です。論点を一般化し、政府監査(会計検査機関等)、議会調査(調査局資料)、統計、査読論文を根拠に組み立てます[3,11]。
ここで注意したい前提条件は、「強い執行=治安に良い」という直感が、必ずしも一方向に働かない点です。地域の警察活動は住民の協力を前提とするため、民事上の移民執行が“刑事の取締り”と混ざって見えるほど、通報や証言が萎縮する可能性が指摘されています[9]。この緊張関係を、証拠に沿って具体化します。
定義と前提の整理
米国の移民手続きは、同じ行為が「刑事」と「民事(行政)」の両面を持つことがあり、制度が複雑になりやすい領域です[7]。とくに、移民法違反に基づく「退去強制に関する手続き」は民事で進む場面があり、刑事事件と同じ感覚で理解すると混乱が生じます[7]。
手続き保障の観点では、退去強制の手続きにおいて弁護人を依頼する権利自体は認められる一方、政府費用での代理人提供が原則ではない(自己負担が基本)という整理が示されています[5]。この前提は、拘束や審理の局面で「アクセス格差」を生み得るため、社会的摩擦の温床になり得ます。
また、地方の拘置施設等にいる非市民について、連邦側が身柄を引き取るために「追加の留置」を求める仕組みが論点化します。議会調査資料では、引き渡しのために最大48時間の留置を求める枠組みが説明されています[6,9]。ここは、住民感情として“逮捕の拡大”に見えやすい箇所であり、摩擦の焦点になりやすい点です。
エビデンスの検証
第一に、権限強化の歴史的背景です。2001年の大規模テロ以降、国土安全保障を統合的に扱う省庁を新設する法律が成立し、治安・テロ対策の論理が制度設計に強く入り込んだことが確認できます[8]。この「非常時の設計」が長期に残ると、対象がテロだけでなく幅広い領域に広がり、日常生活との接点が増えやすくなります。
第二に、連邦制のねじれです。移民の入国・滞在・退去は連邦政府が中心的権限を持つ一方、州・自治体が「何に協力し、何に協力しないか」をめぐって独自の政策判断を行い、衝突が起き得ます[7]。この点は、同じ国の中でも地域により運用の“見え方”が変わり、対立の構図が固定化しやすい条件になります。
第三に、いわゆる「聖域」政策の位置づけです。議会調査資料は、連邦の移民執行に対する協力を制限する州・自治体の政策が長年論争的であり、そもそも法令上の統一定義がないこと、そして協力の度合いが地域により連続的に異なることを整理しています[9]。定義が揺れると、賛否が“印象”で語られやすくなり、議論が荒れやすい土壌になります。
第四に、地方警察を移民執行に関与させる制度です。議会調査資料では、連邦の監督の下で地方警察官が特定の移民執行機能を担う協定が存在し、2017年から2020年にかけて参加機関数が大きく増えたことが示されています[10]。同資料は、モデルによって監督の仕組みが異なり得る点や、制度運用が地域社会との関係(コミュニティ・ポリシング)に影響し得る点にも触れています[10]。
第五に、誤認や市民への波及です。政府監査報告は、国境管理・移民執行を担う連邦機関が、市民である可能性のある人に対しても拘束や送還に至り得ること、データ記録や訓練資料の整合性に課題があることを示し、改善勧告を行っています[11]。同報告の利用可能データとして、一定期間に「市民の可能性がある人」への逮捕・拘束・送還が記録されている点は、制度上のリスクがゼロではないことを示す材料になります[11]。
第六に、治安と信頼のパラドックスです。ある査読研究は、移民執行の重点の置き方が変わることで、移民が多い都市部における被害申告(犯罪報告)の行動が変化し得ることを示しています[12]。ここからは、「執行を強めるほど治安が良くなる」とは限らず、むしろ“通報が減ることで治安が測れなくなる/守れなくなる”という逆効果が起こり得る、という含意が導けます(ただし都市や時期により結果は異なり得ます)[12]。
第七に、医療・生活への波及です。医療分野の研究では、移民執行への恐れや情報不足が医療アクセスの障壁になり得ることが報告され、健康格差の増幅につながり得る点が示唆されています[13]。執行の目的がどうであれ、生活基盤への副作用が大きいほど、社会的反発や政治的コストに転化しやすくなります。
第八に、現場の暴力リスクです。連邦レベルの統計では、収容中の死亡や逮捕過程での死亡が報告され、逮捕過程の死亡について初期接触の類型(令状執行等)も整理されています[14]。統計は個別事案の正当性を直接判断するものではありませんが、「現場対応には致命的な結果が伴い得る」ことを政策的に無視できない、という現実を示します[14]。
最後に、情報流通の条件です。ニュース回避の増加が報告される状況では[1,2]、人々は“詳細な制度解説”よりも“短い映像や断片情報”で判断しがちになります。ここで表現の自由の弱体化や自己検閲の広がりが重なると[3]、報道の不足が疑念を呼び、疑念がさらに断片情報への依存を強める、という循環が起こり得ます。
反証・限界・異説
反対側の見解として、州・自治体の協力が増えれば、危険度の高い対象を拘置施設内で安全に引き渡しやすくなり、現場リスクが下がる、という主張があります[9]。また、地方警察の関与は“人員の不足を補う”という合理性を持つ場合がある、という整理も可能です[10]。
ただし限界もあります。第一に、「聖域」政策は定義が揺れやすく、数の把握や効果測定が一致しにくいことが明示されています[9]。第二に、誤認・拘束については、政府監査がデータ整備そのものを課題として挙げており、現状の数字は“下限”や“把握範囲内”に留まる可能性があります[11]。第三に、犯罪報告の研究は都市・時期・制度の組合せに依存するため、結果の一般化には注意が必要です[12]。
それでも、「民事の執行が刑事の取締りと結びついて見えるほど、通報や協力が萎縮し得る」という論点は、議会資料でも明確に提示されており[9]、完全に無視できる異説とは言いにくい状況です。むしろ“両立が難しい”こと自体が政策課題だと考えられます。
実務・政策・生活への含意
実務面では、(1)現場の裁量を支える訓練・監督・記録の整合性、(2)誤認を減らすデータ管理、(3)地域社会との信頼を壊さない境界線、の3点が要所になります。政府監査が訓練資料と方針の不一致、記録の不足を問題視していることは[11]、制度の“作り”よりも“運用の品質”が摩擦を左右しやすいことを示します。
政策面では、地方警察との協定が拡大するほど[10]、監督の実効性や苦情処理の透明性が重要になります。監督が薄いモデルが存在し得るという指摘は[10]、制度が拡大する局面ほど、点検と説明責任を強める必要があることを示唆します。
生活者の観点では、映像や断片情報だけで判断せず、議会資料・監査報告・統計のように検証可能な根拠を併用することが、過度な一般化を避ける助けになります[6,9,11,14]。ニュース回避が増える環境では[1,2]、むしろ「少数でも質の高い一次資料に触れる」ことが有効になり得ます。
まとめ:何が事実として残るか
事実として残るのは、移民執行が(民事手続きの要素を含みつつ)拘束や移送を伴うため日常空間で摩擦を生みやすく、連邦制の下で協力・不協力が地域ごとに分かれ、制度の見え方が不均一になりやすい点です[7,9,10]。また、政府監査や統計は、誤認・記録不備・致命的結果のリスクが制度上ゼロではないことを示しており[11,14]、運用の品質が社会的受容を左右することがうかがえます。
同時に、強い執行が地域の信頼を損ね、通報や医療アクセスを萎縮させることで、別の不利益を生む可能性も示されています[9,12,13]。こうした「安全のための手段が、別経路で安全を弱める」矛盾は、今後も検討が必要とされる論点です。
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させて検証可能としています。
出典一覧
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- Reuters Institute for the Study of Journalism(2024)『Digital News Report 2024』 Reuters Institute 公式ページ
- UNESCO(2025)『World Trends in Freedom of Expression and Media Development』 UNESCO(Web) 公式ページ
- Worlds of Journalism Study/Oi, S. & Sako, S.(2017)『Journalists in Japan』 Worlds of Journalism Study(Country Report) 公式ページ
- Congressional Research Service(2024)『U.S. Immigration Courts: Access to Counsel in Removal Proceedings and Legal Access Programs(IF12158)』 CRS In Focus 公式ページ
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