目次
五感が意識をつくる「唯識」と主体的に選ぶ力
- ✅ 五感から入る情報が「意識の癖」をつくるため、日常の入力を整えることが重要
- ✅ 刺激の強い視覚情報に流されやすい時代ほど、「何を取り入れるか」を自分で決める姿勢が土台になる
- ✅ 成功の型をなぞるよりも、心地よさや美しさを感じ取る感性を起点にする
情報があふれる現代では、目標を達成しても虚無感や漠然とした不安が残るケースがあるとされています。むすび大学チャンネルの動画で川嶋政輝氏は、その背景を「五感の入力が意識を形づくる」という仏教の唯識(動画内では有意識論として紹介)から整理し、日常の選択を見直す重要性を語っています。
私は、意識は突然つくられるものではなく、日々の積み重ねで形づくられるものだと捉えています。五感から入ってきた体験や記憶は、「種」のように蓄えられていきます。だからこそ、何気なく触れている情報や空気感が、自分の内側の当たり前をつくってしまいます。意識を整えたいなら、まずは入ってくるものの質に目を向けたいです。
阿頼耶識と「種」の発想
川嶋氏は、良いことも良くないことも含め、経験が「種」として蓄積されるイメージを示します。ここで焦点になるのは、努力や根性より先に「入力」があるという点です。意識が乱れたと感じるときは、意思の弱さを責めるのではなく、何が入り続けているかを点検する発想が提案されています。
私は、意識を守ることは、気合いで耐えることではなく、環境を整えることだと思っています。良いものに触れるほど、目の前の世界の見え方も変わります。逆に、雑な刺激を浴び続けると、知らないうちに判断が荒くなります。だから、意識を変えたいときほど「何を入れるか」を丁寧に扱いたいです。
視覚が支配しやすい時代の落とし穴
動画では、五感の中でも特に視覚が強く働き、しかも「ごまかしやすい」性質がある点が語られます。見た目の印象だけで選び、後から違和感に気づく経験は多くの人に起こり得ます。スマートフォンや広告など、強い色彩や刺激が常に目に入る環境では、気づかないうちに選択が外側に引っ張られやすくなるという問題提起につながっています。
私は、目に入った瞬間に心が動くこと自体は自然だと思っています。ただ、その反応のままに流され続けると、自分の軸がどこにあるのか分からなくなります。だから、見たくないものを避けるだけではなく、本当に美しいと感じるもの、心が落ち着くものを「自分で選んで見る」ようにしたいです。
真似る努力から、感じ取る努力へ
川嶋氏は、成功者の型をそのまま真似ることが、かえって空虚さを強める場合があるとも示唆します。外側の正解を追いかけるほど、五感で感じる違和感を無視しやすくなるためです。唯識の枠組みでは、日々の小さな選択が意識の傾向をつくるため、まずは「何を心地よいと感じるか」を起点に据えることが、次の実践につながる入り口になります。
このテーマで整理されたポイントは、意識を変える方法が「考え方の修正」だけではなく「入力の整備」にもあるという点です。次のテーマでは、特に影響が大きい視覚・聴覚のノイズをどう減らし、日常の感覚を取り戻していくのかが、より具体的に扱われます。
視覚と聴覚のノイズを減らす日常の整え方
- ✅ 五感の中でも影響が大きい視覚と聴覚は、刺激を減らすだけで心身の落ち着きが戻りやすくなる
- ✅ スマートフォンやニュースの過多は「無意識の入力」になりやすいため、環境側の設定で先に歯止めをかける
- ✅ 心地よい音と静けさを確保すると、判断の粗さが減る
川嶋氏は五感の磨き方を語る中で、最初に手をつけやすい領域として視覚と聴覚を挙げています。視覚は強い刺激が入りやすく、聴覚は環境音や会話の調子がそのまま心の緊張につながりやすいからです。現代の生活では、意識しなくても情報が流れ込む場面が多いため、意思の力に頼る前に「入ってくる仕組み」を整えることが現実的な入口になります。
私は、意識を整えるときに「頑張って見ない」「我慢して聞かない」と決めるより、最初から刺激が入りにくい形にしたいです。強い色や速い情報に触れていると、知らないうちに頭が忙しくなります。だから、環境を先に落ち着かせて、自然に静かになれる状態をつくりたいです。
画面の刺激を弱めて「選ぶ余白」をつくる
視覚の整え方として語られるのは、スマートフォンの刺激を弱める工夫です。色や通知、派手なアイコンは注意を奪いやすく、目的とは別の情報へ自然に誘導されやすくなります。表示を落ち着かせたり、不要な通知を減らしたりすると、触れる時間そのものが短くなるだけでなく、「今は見る必要があるか」を判断する余白が生まれやすくなります。
私は、スマートフォンの画面が派手だと、気づいたら手が伸びてしまう感覚がありました。だから、見る理由があるときだけ開く状態に近づけたいです。少し不便にするだけでも、無意識の習慣が弱まります。静かな時間を取り戻すには、こういう小さな設定が効くと思っています。
目を休ませる感覚を取り戻す
川嶋氏は、目を酷使しがちな生活リズムにも触れ、目をいたわる発想の大切さを述べています。視覚の刺激が強い状態が続くと、集中しているつもりでも緊張が抜けにくくなります。目に入る量を減らすだけでなく、目が「楽だ」と感じる状態を意識的につくることが、次の感覚の回復につながります。
私は、目が疲れているときほど、思考も硬くなると感じています。だから、目に優しい時間を増やしたいです。短い時間でも遠くを見る、明るさを落とす、余計な光を避けるだけで、呼吸も少し整います。静かに戻る感覚を大事にしたいです。
耳に入る情報の質を整える
聴覚については、会話やニュース、雑談のトーンがそのまま意識の状態に影響するという視点が示されます。刺激的な言葉や断定的な語り口に触れ続けると、心の内側も急かされやすくなります。一方で、心地よい音や静けさがあると、呼吸が深くなり、判断が急がなくなります。音楽だけでなく環境音も含めて「耳が安心する場」をつくることが提案されています。
私は、耳はずっと開いている感覚があります。だから、聞く情報が荒れていると、気づかないうちに心も荒れてしまいます。静かな音、柔らかい音、安心する空間の響きを選ぶと、落ち着きが戻ります。外側の音を整えることは、自分を守ることにもつながると思っています。
このテーマでの要点は、視覚と聴覚の整えは「意志の修行」ではなく「環境設計」で進められることです。次のテーマでは、嗅覚・味覚・触覚といった生活の深い部分に近い感覚を扱い、日常の質そのものを底上げする方法が語られていきます。
嗅覚・味覚・触覚から生活の質を底上げする
- ✅ 香り・食・肌触りは意識の土台になりやすく、丁寧に選ぶほど落ち着きが戻りやすくなる
- ✅ 人工的な刺激を減らし、自然な感覚が働く環境に寄せることが五感の回復につながる
- ✅ 小さな所作を「儀式」として扱うと、日常の受け取り方が整いやすくなる
川嶋氏は、視覚と聴覚を整えた次の段階として、嗅覚・味覚・触覚に意識を向ける重要性を述べています。香りや食べ物、肌に触れる素材は、毎日くり返し体に入ってくる要素です。そのため、ここを丁寧に扱うほど、思考より先に「安心している状態」をつくりやすいと整理されています。
私は、気分を変えたいときほど、頭で考えるより体の感覚に戻りたいです。香りや食べ物、肌に当たるものは、いつも私の近くにあります。だから、ここが雑だと、落ち着こうとしても落ち着けない感じが出ます。小さな選び方を変えるだけで、心の静けさが戻ることがあると思っています。
香りは「強さ」より「澄み」を優先する
嗅覚について川嶋氏は、強い香りに慣れることが感覚の鈍化につながりやすい点に触れています。香りは空間全体に広がり、本人の意思とは無関係に入り続けます。日常でよく使う洗剤や柔軟剤、芳香剤などは便利ですが、香りの強さが基準になると本来の匂いの差が分かりにくくなるため、刺激の少ない方向へ寄せる発想が紹介されています。
私は、良い香りを「強く香ること」だと勘違いしやすいと思っています。少し澄んだ香りのほうが、呼吸が深くなって、静かに整っていきます。だから、私はできるだけ刺激の強い香りを避けて、空間が自然に落ち着く状態を選びたいです。鼻が楽だと、心も楽になります。
食べる時間を整えると、受け取る力が戻る
味覚については、何を食べるかだけでなく「どう食べるか」が意識に影響すると語られます。忙しいときほど食事が作業になり、味わう感覚が薄れやすくなります。川嶋氏は、食事の前後の所作を丁寧にし、いただきますのような区切りを持つことで、味覚が立ち上がりやすくなる流れを示しています。これは栄養管理の話に限定されず、日常の受け取り方を整える行為として位置づけられます。
私は、食事を急いで終えると、満たされた感じが残りにくいです。だから、ほんの少しでも手を合わせて、いま食べる時間に入ると決めたいです。丁寧に味わうと、同じ食べ物でも感じ方が変わります。私にとっては、食べることが自分を整える時間になっていきます。
肌に触れるものを変えると、思考の緊張がほどける
触覚について川嶋氏は、締め付けや不快感が続くと、無意識の緊張が抜けにくくなる点を扱っています。肌着や衣類の素材、サイズ感は一日中体に影響します。天然繊維の心地よさや、締め付けの少ない着用感を選ぶことが、結果として心の落ち着きにつながるという流れです。伝統的な下着の例なども挙げつつ、触覚の快不快を軽視しない姿勢が強調されています。
私は、体がきついと感じるだけで、呼吸が浅くなることがあります。だから、肌に触れるものは、見た目よりも楽さを大事にしたいです。少しゆるくて、肌が安心するだけで、気持ちも柔らかくなります。私の感覚を守るために、触覚を丁寧に扱っていきたいです。
このテーマで示されるのは、嗅覚・味覚・触覚が「生活の質」そのものに直結しやすいという点です。刺激を足して気分を変えるのではなく、過剰な刺激を減らして本来の感覚を戻す方向が中心になります。次のテーマでは、こうした整えを継続するために、祈りや瞑想、朝の習慣として日常に固定していく考え方が語られていきます。
祈り・瞑想・朝の習慣で「意識を守る」日本的な整え方
- ✅ 五感を整える取り組みは、単発の工夫より「毎日の型」にする
- ✅ 祈りや瞑想は特別な儀式ではなく、意識の向きを整える実践
- ✅ 目に見えない価値を丁寧に扱う姿勢が、感性の回復と日常の安定につながる
川嶋氏は、五感を磨く話題を「生活習慣としてどう続けるか」という視点へつなげています。視覚・聴覚の刺激を弱め、嗅覚・味覚・触覚を丁寧に扱っても、日々の忙しさの中では元に戻りやすいからです。そこで提示されるのが、祈りや瞑想、朝のルーティンのように「意識を整える入口」を固定し、感覚の基準点をつくる発想です。
私は、意識を整えることは、たまに思い出してやるより、毎日の型にしておくほうが続くと思っています。忙しい日は気をつけていても、気づいたら雑な刺激に流されています。だから、戻れる場所を最初から用意しておきたいです。朝に一度整えるだけでも、その日一日の感じ方が変わります。
朝の「立ち上げ」を整えるという考え方
動画では、朝を起点に意識を整える運用が語られます。朝は情報が少なく、生活の手順を組み替えやすい時間帯です。起床直後から強い情報を入れるのではなく、呼吸や所作を通じて静かに始めると、その後の行動が急ぎすぎにくくなります。五感の調律を「朝の立ち上げ作業」として扱う発想が、継続の鍵として整理されています。
私は、朝に何を最初に入れるかで、その日の心の速度が決まる感覚があります。だから、起きてすぐに刺激の強いものを見ないようにしたいです。静かに呼吸をして、体の感覚を確かめてから動くと、焦りが減ります。小さなことですが、こういう積み重ねが私の土台になります。
祈りと瞑想を「意識の向き」を整える実践にする
川嶋氏が語る祈りや瞑想は、宗教的な形式の押しつけではなく、意識の向きを整える方法として提示されます。五感の入力を整えた上で、心の中の散らばりを一度まとめ、落ち着いた状態に戻すための手段です。こうした実践を日常の中に置くことで、外側の出来事に振り回されにくくなる流れが示されています。
私は、祈りや瞑想は、特別なことをするというより、散らかった心を一度整える時間だと思っています。うまくやろうとしなくていいと思います。静かに手を合わせたり、呼吸に意識を向けたりするだけで、余計な緊張がほどけます。私の中の静けさを思い出すために、こういう時間を持ちたいです。
目に見えない価値を扱う姿勢が感性を支える
動画では、数値や効率だけでは測れない価値を丁寧に扱う姿勢にも触れられます。五感の磨き方は、短期の成果として可視化しにくい一方で、判断や人間関係、生活の安定にじわじわ影響します。祈りや所作のような行為は、すぐに結果が出るものではありませんが、日常の「受け取る力」を戻すための土台として位置づけられています。
私は、すぐに結果が出ないことほど、続けにくいと感じます。だからこそ、小さな実践を大切にしたいです。数字で測れなくても、心が落ち着く、呼吸が深くなる、物事を丁寧に見られる、そういう変化は確かにあります。私は、その確かさを信じて積み重ねていきたいです。
このテーマで示されるのは、五感の整えを「一回の工夫」で終わらせず、祈りや瞑想、朝の習慣として固定し、意識の基準点をつくるという考え方です。川嶋氏は、刺激を足して気分を変えるのではなく、過剰な刺激を減らし、丁寧な入力を選び直すことで感性が戻りやすくなると整理しています。日常の選択を少しずつ変えることが、落ち着きと判断の精度を支える土台になっていきます。
出典
本記事は、YouTube番組「日本人の感性が蘇る「五感の磨き方」|川嶋政輝」(むすび大学チャンネル)の内容をもとに要約しています。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
五感やデジタル刺激の「入力」を整えることは、注意・睡眠・気分とどの程度関連しうるのか。国際統計、WHO指針、査読論文を照合し、効果が示されやすい条件と限界を整理します。観察研究が多い領域では因果の断定を避け、実装可能な線引きに絞って検討します。[1,2,11]
問題設定/問いの明確化
スマートフォンやネット接続が生活に浸透し、視覚・聴覚を中心に「意図しない刺激」が入り込みやすくなっています。国際機関の統計は、インターネット利用が広く一般化している状況を示し、刺激の管理が一部の人の嗜好ではなく、幅広い層の生活課題になり得ることを示唆します。[1,2]
このとき論点は「意志の強さ」で刺激を断つ話ではありません。注意資源が有限である以上、刺激が入りやすい構造のままでは、本人の努力だけに負担が集中しやすいからです。そこで本稿では、入力(情報・光・音・匂い・触感・食の刺激)が、注意・睡眠・ストレス反応などの基盤にどの程度関与しうるのかを、検証可能な根拠にもとづいて整理します。[4,5]
定義と前提の整理
本稿でいう「入力」とは、SNSやニュースのような情報に限らず、光・音・匂い・肌触り・食感など、身体感覚を通じて流入する刺激全般を指します。ここで重要な前提は、人の注意は有限で、環境にある刺激すべてを同時に処理できない点です。注意の理論研究でも、刺激の派手さだけでなく、目標や期待、学習された傾向が注意配分を左右し得ることが論じられています。[4]
また、複数感覚が絡む状況では、注意の向け方が知覚の統合に影響する可能性が示されています。したがって「入力を整える」とは、刺激を単に減らすだけでなく、注意が奪われる構造を弱め、必要な情報へ注意を戻しやすい状態を設計することだと整理できます。[5]
ただし、注意や気分の乱れを入力だけで説明し尽くすことは難しいと考えられます。睡眠不足、慢性ストレス、疾患、孤立など複数要因が絡むため、入力調整は「有力な補助手段」であり、万能な説明原理ではないという前提が必要です。[7,8]
エビデンスの検証
視覚・通知・注意の負荷
通知やポップアップは「時間を奪う」だけでなく、注意の質に影響し得る点が論点になります。通知を受け取るだけで、端末に触れていなくても注意課題の成績が低下し得ることを示した実験もあり、入力は行動以前に注意資源へ負荷をかけうると考えられます。[6]
一方で、スクリーン利用と抑うつの関連は研究によってばらつきがあります。系統的レビューとメタ分析では、スクリーン時間ベースの座位行動と抑うつの関連が示される一方、交絡(もともとの気分や生活条件など)や研究デザインの違いが結果へ影響し得る点も指摘されています。したがって「見るほど必ず悪い」と単純化せず、量・内容・生活全体の文脈で評価する必要があります。[7]
睡眠への影響は「量」より「タイミング」と「内容」
睡眠に関しては、電子メディア利用が睡眠の質や睡眠問題と関連するというレビューが複数あり、一般的利用と「問題的利用」で影響の出方が異なる可能性も示されています。睡眠を守る実装を考えるなら、単に総利用時間を減らすより、就床前後の使い方や内容(興奮性・対話性)を区別する発想が現実的です。[8]
例えば、繰り返し測定のコホート研究では「就床前2時間の利用」自体は多くの睡眠指標と強い関連が出ない一方、ベッドに入ってからの対話的行為は睡眠時間の短縮と結びつく可能性が示されています。ここから、就床後のスマホ利用を境界線として設計する発想が導かれます。[9]
また、短波長光の影響は「生理指標(メラトニン)」と「睡眠生理や翌日の機能」が常に同方向に変わるとは限らない可能性があります。青年・若年成人の男性のみを対象にした実験では、光条件の違いでメラトニン分泌の差が確認されても、睡眠構造や睡眠依存の記憶課題の指標が条件間で大きく変わらない所見が報告されています。対象が男性に限られる点や実験条件の限定性を踏まえると、一般化には注意が必要です。[10]
聴覚は「騒音」だけでなく「回復の場」を奪う
聴覚入力は、本人の意思で遮断しにくい点が特徴です。WHOの環境騒音ガイドラインは、交通騒音などが健康とウェルビーイングへ負の影響を与え得ることを前提に、政策的な推奨をまとめています。個人の努力だけでなく、住環境・都市環境が回復を左右し得るという視点が裏づけられます。[11]
嗅覚・室内空気は「快不快」以前に健康リスクの論点がある
匂いは好みの問題として扱われがちですが、室内空気には健康影響が確立した化学物質も含まれ得ます。WHOは室内空気の主要汚染物質(ホルムアルデヒド等)についてガイドラインを示しており、換気や発生源管理の重要性が整理されています。香りの演出は「足す」方向に偏りやすいため、まずは空気の基礎条件を整えるという優先順位が合理的です。[12]
ただし、香料製品と不調の関係を扱う研究の中には、オンライン調査による横断データで自己申告を集計したものがあります。この種の研究は、曝露量の客観測定や他要因の統制が十分でない場合があり、症状が香料曝露により「引き起こされた」と断定することは難しいと考えられます。それでも、一定割合の人が症状を報告している事実は、公共空間で香りの強度を上げない設計や、香りへの配慮ルールを検討する材料にはなり得ます。[13]
触覚は「安心」の生理学に接続する
触覚の重要性は、気分の話にとどまりません。タッチ介入の健康効果を扱ったメタ分析では、研究の多様性を前提にしつつも、身体・精神の複数指標に利益が見られる可能性がまとめられています。衣類や寝具など、日常的な触覚環境を「違和感が少ない状態」に寄せる発想は、回復の足場づくりとして位置づけられます。[14]
さらに実験研究では、自己なで(セルフタッチ)やハグがストレス課題後のコルチゾール反応を下げる可能性が報告されています。特別な道具に頼らず、短時間で実行できる点は、継続可能性の観点でも示唆的です。[15]
味覚・食事は「栄養」だけでなく「注意の向け方」に関わる
食事の整えは栄養管理に限定されません。マインドフルネス系介入が、外的手がかりによる摂食や満腹感の気づきなど、いくつかの食行動指標を改善し得るとする系統的レビューとメタ分析があります。対象集団や介入の種類に幅があるため一般化には注意が必要ですが、「味わう」という注意の向け方が行動へ影響し得るという示唆は得られます。[16]
反証・限界・異説
第一に、観察研究で見られる関連は因果の方向が逆である可能性があります。気分が落ち込んでいるからスクリーン時間が伸びる、睡眠が悪いから夜間利用が増える、といった経路も想定されます。したがって「入力を減らせば解決する」と単線化すると、支援が必要な人を自己責任へ寄せてしまう危険があります。[7,8]
第二に、入力の“浄化”が行き過ぎると、社会的接触や必要な情報アクセスまで細る可能性があります。タッチ研究が示すように、身体的・社会的なつながりはストレス緩衝と関係し得ます。減らすべきは「回復を妨げる過剰刺激」であり、人間関係や支援につながる要素まで一律に遮断する設計は慎重に扱う必要があります。[14,15]
第三に、入力を整える実践は“環境を買う”方向に流れやすい面があります。静かな住環境、空気質の良い住宅、自由に時間を設計できる働き方は、誰にでも等しく与えられているとは限りません。国際統計はデジタル環境の普及を示す一方で、利用条件や格差の論点も残ります。個人の工夫と同時に、職場・学校・都市が回復を支える設計を持つことも検討課題になります。[2,11]
実務・政策・生活への含意
個人で着手しやすいのは「意志」より「初期設定」です。通知が注意資源へ負荷をかけ得るなら、通知の既定値を減らし、必要な連絡だけが入る構造に近づけることは合理的です。これは自己管理というより、注意資源の有限性に沿った環境設計と位置づけられます。[4,6]
睡眠については、「就床後の対話的利用を避ける」「就寝時刻の後ろ倒しを防ぐ」といった行動上の境界線が実務的です。光対策だけに依存せず、ベッドの中を刺激の少ない場所として固定する方が、研究が示す差分(就床前より就床後の影響が大きい可能性)と整合しやすいと考えられます。[9,10]
聴覚環境は、個人の工夫(静かな時間帯を確保する、作業場所を選ぶ)に加え、政策側の役割が大きい領域です。騒音は健康課題として扱われており、都市計画や交通政策での介入が生活の回復力を底上げし得ます。[11]
嗅覚・室内空気については、強い香りを足して気分転換するより、換気と発生源管理を優先する方が安全側です。衛生学的に問題になりやすい物質のガイドラインがある以上、香りの演出は少量・短時間・第三者の同意といった配慮を前提に扱うことが無難です。[12,13]
触覚は、セルフタッチのような小さな行為でストレス反応を弱め得る可能性が示されています。衣類・寝具の違和感を減らすことを贅沢と捉えるより、回復の足場づくりとして位置づける方が、日常実装としては継続しやすくなります。[14,15]
瞑想や呼吸法などを「毎日の型」に落とす発想は、気分が乱れたときの復帰点を作ります。ただし、効果の示され方はアウトカムによって異なります。AHRQの系統的レビューは、マインドフルネス系プログラムについて、不安は8週時点で効果量0.38(95%CI 0.12–0.64)、3〜6か月で0.22(0.02–0.43)、抑うつは8週で0.30(0.00–0.59)、3〜6か月で0.23(0.05–0.42)、痛みは0.33(0.03–0.62)といった推定を提示し、エビデンスの強さも「中程度」などと整理しています。一方で、注意や睡眠など一部領域は根拠が弱い/不足しているとされます。従って、過度な期待を置かず「戻る練習」として扱うのが現実的です。[17]
加えて、マインドフルネスを「身体感覚への気づき(内受容感覚)を手がかりに注意の向きを整える枠組み」として整理する議論もあり、日常実装では「短時間で、同じ文脈で繰り返す」設計が有効になり得ます。[18,19]
習慣化については、一定の文脈(起床後、就床前など)に結びつけて繰り返すと自動化が進むことが示されています。いきなり完璧を目指すより、同じ場所・同じ順序で小さく続ける設計が実装上の鍵になります。[19]
さらに、一定の手順で始める行為(儀礼的な所作)は、失敗や不安への反応を和らげ得るという実験的示唆もあります。宗教性の有無とは切り分けて、短い手順を「毎回同じように行う」こと自体が注意と感情の整えに寄与し得ると整理できます。[20]
まとめ:何が事実として残るか
総合すると、五感や情報の入力は、注意の質、睡眠、ストレス反応といった基盤へ影響し得ることが、複数の研究領域から示唆されます。特に通知、就床後の対話的スクリーン利用、騒音、室内空気、触覚的安心といった要素は、個人の気合いより環境設計で動かしやすい領域として整理できます。[6,9,11,12,14,15]
一方で、関連の多くは条件付きであり、因果の方向や個人差、研究対象の限定(例:特定年齢・性別・実験条件)を無視すると議論が単純化します。入力を整える実践は、支援や医療が必要な問題を代替するものではなく、生活の回復力を補助する手段として位置づけるのが穏当です。今後も、効果が出やすい条件と出にくい条件を分けて検討していく課題が残ります。[7,17,19]
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させて検証可能としています。
出典一覧
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