SNSで拡散する「GLP-1ダイエット」の実態と危険性
NewsPicksの女性向け番組「WOMANSHIP」では、中道香織氏・佐藤由美氏・辻香織氏の3名が、美容医療広告をテーマに議論を行い、その中で「GLP-1ダイエット」という新たな美容トレンドが取り上げられた。 GLP-1は本来、糖尿病治療薬として医療機関で処方される医薬品である。しかし近年、SNSを中心に「簡単に痩せられる薬」として紹介され、美容目的で使用する人が急増している。
番組では、産経新聞の報道をもとに、低体重の女性がさらに痩せようとしてGLP-1を利用するケースが多発している現状を紹介。SNSでは「食欲がなくなる」「楽に痩せられる」といった投稿が拡散し、若い世代を中心に広がっていることが問題視された。 中道香織氏は、実際にGLP-1を使用した経験を語り、「食欲が減り、確かに体重は一時的に落ちたが、急な腹痛や肌荒れなど体調の変化を感じた」と振り返っている。 佐藤由美氏も同様に使用経験を明かし、「簡単に手に入る一方で、医師の問診が短く、適切に処方されているのか不安だった」と述べている。
辻香織氏は、こうした利用拡大の背景には、SNSでの広告的な投稿があると指摘している。医療広告の規制があっても、一般ユーザーやインフルエンサーが「個人の感想」として発信する内容までは取り締まりが難しく、結果として事実上の宣伝になっているという。 厚生労働省もSNS上の美容医療広告を問題視し、取り締まりを強化しているが、過去の投稿や個人の発信までは制御しきれていない状況が続いている。
出演者らは、オンライン診療によって誰でも容易に薬を入手できることにも警鐘を鳴らした。 中道氏は「ビデオ通話で数分のやり取りだけで薬が届く仕組みは、医療行為として危うい」と述べ、佐藤氏も「肥満治療薬としての本来の用途を外れ、低体重の女性にまで処方されている現状は問題」と語っている。 本来、GLP-1は肥満や糖尿病治療を目的とした医薬品であり、健康な人が美容目的で使うことは想定されていない。にもかかわらず、SNSでは“痩せ薬”として独り歩きし、結果的に医療現場にも影響を及ぼしている。
また、アメリカなど海外でもGLP-1を含む肥満治療薬が注目を集め、関連企業の株価が高騰していることが報じられている。しかし、海外では医師の診断を前提とした治療目的の使用が主であり、日本での「美容ダイエット」的な扱いとは性質が異なる。 中道氏は「健康的に痩せるための手段が、薬という近道に偏りすぎている」と指摘し、適切な医療リテラシーの必要性を強調した。
番組では最後に、三氏が共通して「楽に痩せられるという広告や投稿ほど注意すべき」と結論づけている。 GLP-1のような医薬品は、効果が高い反面、体への負担や副作用も大きく、安易な使用は健康被害につながる危険性がある。痩せることを目的とする前に、自身の体調や医師の診断を踏まえた安全な方法を選ぶことの重要性が改めて語られた。
関連記事:「油を恐れるな」糖質疲労とカロリー神話を超える最新食事法〖堀江貴文×山田悟〗
美容医療広告とオンライン診療に潜む“手軽さ”の落とし穴
番組「WOMANSHIP」では、中道香織氏・佐藤由美氏・辻香織氏の3名が、美容医療広告の現状とオンライン診療の課題について意見を交わした。 痩身医療や美容クリニックの広告は、ここ数年でSNS上に急増しており、「初回無料」「手軽に痩せられる」といった訴求が若年層を中心に拡散している。 一見すると便利で親しみやすいが、医療行為である以上、誤った情報や軽視されたリスクが潜んでいる可能性が高いと3氏は警鐘を鳴らした。
中道氏は、近年の美容医療広告が「キャンペーン」「割引」といった商業的手法を多用していることに違和感を示した。 医療という公共性の高い行為を、まるで日用品の販促のように扱う広告が増えており、「医薬品や医療処置に値引きの概念を持ち込むのは、本来の目的とずれている」と指摘している。 佐藤氏も、SNS上でピル処方や脱毛サービスが「1か月無料」「初診ゼロ円」などと宣伝される現状に驚きを示し、「医療とマーケティングの境界が曖昧になっている」と語った。
辻氏は、過去に美容医療クリニックの受付業務に携わった経験から、オンライン診療の課題を現場視点で説明した。 本来、オンライン診療は「遠隔地に住む人の医療アクセスを改善する」という目的で始まった仕組みである。 しかし実際には、ビデオ通話数分で薬を処方するなど、簡略化が進みすぎているケースもあると指摘。 「医師と直接対面せず、健康状態の詳細を把握しないまま薬が出される状況は、やはり危険」と述べている。
中道氏は、自身が経験したオンライン処方についても、「体重を入力し、数分の問診で薬が届いた」と語り、医療安全上の不安を明らかにした。 「これで本当に薬を処方してもらって大丈夫なのかという不安を感じた」と話し、オンライン診療の利便性の裏に潜むリスクを強調した。 一方で、佐藤氏は「オンライン診療は高齢者や地方在住者にとって有効な仕組みである」とした上で、「その手軽さを過剰にアピールする広告は、医療の信頼性を損なう」と述べている。
辻氏はさらに、広告倫理の問題にも言及した。 過去には、学生や未成年を対象に「二重整形をすれば可愛くなれる」といった内容の広告が話題となり、SNSで炎上した事例もある。 「美容医療は本来、自己決定に基づくものであるべきだが、年齢や心理的成熟度が十分でない層に対して“理想の姿”を提示する広告が氾濫している」と懸念を示している。 このような広告は、若い世代の容姿コンプレックスを刺激し、「自然体でいること=劣っている」と錯覚させる危険性があるとした。
3氏は共通して、医療と美容が商業化によって混同されつつある現状を問題視している。 特にSNSでは、医療機関ではなくインフルエンサーや個人投稿を通じて拡散するため、広告規制の枠外にあるものも多い。 中道氏は「手軽さや価格の安さを前面に出した広告ほど、慎重に判断する必要がある」と指摘し、佐藤氏も「オンライン診療や美容施術は、利便性よりも安全性を優先して選ぶべき」と結んでいる。
美容医療の自由診療は、すべて自己判断・自己責任の領域に属する。 そのため、利用者が正確な情報を得ていなければ、思わぬトラブルや健康被害に発展する可能性がある。 番組では、「便利」「簡単」といった広告表現の背後にある医療的リスクを見抜く力こそ、現代に求められる新しいリテラシーだとまとめられた。
関連記事:〖メンタリストDaiGo〗下っ腹の脂肪が落ちない科学的理由──断食で燃やす“最後の砦”とは?
止まらない“痩せたい願望”と社会の価値観
番組「WOMANSHIP」では、中道香織氏・佐藤由美氏・辻香織氏の3名が、「痩せたい願望」がなぜこれほど根強く存在するのかについても議論を深めた。 かつては「ボディポジティブ」や「多様な美しさ」が重視される風潮も見られたが、近年はSNSを中心に「痩せている方が可愛い」という価値観が再び強まっている。 中道氏は「SNS上のトレンドや広告が、理想体型を固定化している」と分析し、特に若年層の女性がその影響を受けやすい点を懸念している。
佐藤氏は、女性の間に根強く残る「常に痩せていたい」という心理について触れ、「食べたいという欲求と、痩せたいという願望が同時に存在している」と語った。 多忙な日常の中で、短期間で結果を得たいという思いが強まり、運動や食事制限ではなく“手軽な方法”を求める傾向が強くなっているという。 その背景には、SNSで流れるインフルエンサーやモデルの情報が、理想の体型を日常的に視覚化していることが挙げられる。
辻氏は、ファッションの観点から「痩せている方が美しく見える構造」について言及した。 多くのブランドがモデル体型を基準とした衣服を展開しており、S・Mといった限られたサイズ展開の中で「平均的な体型から外れると、着られる服が少なくなる」と指摘した。 その一方で、海外では多様なサイズ展開が進んでおり、「自分の体型が平均から外れている」と感じることが少ないと語った。 中道氏も「与えられたサイズに合わないだけで、どこか異常だと感じてしまう構造がある」と共感を示している。
番組では、痩せ願望が社会的なプレッシャーとしてどのように形成されているかについても議論が及んだ。 佐藤氏は、娘世代がK-POP文化の影響を受け、「細さ=美しさ」という感覚を自然に受け入れていると指摘。 「子ども自身が“可愛くなるためには痩せるべき”という考えを持ち始めている」と述べ、親世代としての危機感を語った。 一方で、娘は筋トレや栄養バランスを意識した食事を自分で工夫しており、「極端なダイエットに走らず、健康的な体づくりに関心を持っている」とも話している。
中道氏は「自己肯定感の低さ」が痩せたい願望を強める一因ではないかと述べた。 SNSで理想的な体型や美容情報に日常的に触れることで、自分を比較対象にしてしまう構造が生まれている。 また、視聴者から寄せられたメッセージの中にも「細くないと自信が持てない」「SNSで見る体型が基準になっている」といった声が多く寄せられているという。 辻氏は「若い世代ほど自分の見た目がオンライン上の評価に直結している」と述べ、情報環境そのものが痩せ願望を加速させていると指摘した。
番組の終盤では、三氏が共通して「美の基準を社会が決めてしまうことの危うさ」を強調した。 痩せていることを“正解”とみなす風潮が続く限り、どれだけ情報を制限しても根本的な解決にはならない。 佐藤氏は「一つの理想を押し付けるのではなく、それぞれが自分に合った美しさを肯定できる社会が必要」と述べ、中道氏も「痩せることを目的にするのではなく、健康を基準に自分を見つめ直す意識が大切」とまとめている。 辻氏も「SNSの美的基準に振り回されず、情報を取捨選択する力が求められる」と締めくくった。
「痩せたい」という願望自体は否定されるべきものではない。 しかし、痩せることが自己価値の条件になってしまう社会は、誰かを常に不安にさせる構造を持つ。 番組では、「多様な美しさを受け入れる感覚こそが、最も健全な美の形なのではないか」というメッセージで結ばれた。
健康・美容情報との付き合い方とメディアリテラシー
番組「WOMANSHIP」では、GLP-1ダイエットや美容医療広告の話題を通じて、情報との向き合い方についても議論が行われた。 中道香織氏・佐藤由美氏・辻香織氏の3名は、SNSやインフルエンサー発信の健康・美容情報が氾濫する時代において、「情報をどう見極めるか」が重要だと口をそろえた。
中道氏は、自身もSNSを通じて多くの美容情報に触れているとしながら、「複数の情報源を確認することを常に意識している」と語った。 特に医療や健康に関わる情報は、個人の感想よりも医師や専門家の発信を確認し、一次情報に近い内容を選ぶようにしているという。 また「健康や美容に関する情報ほど“効果がある”という言葉に惹かれやすいが、短期間で結果が出る内容ほど疑ってかかるべき」と強調した。
佐藤氏は、信頼できる人物の発信に頼りすぎるリスクについて指摘した。 「この人が言うなら大丈夫」という思い込みが、検証不足のまま行動につながることがあるとし、特に健康・美容分野では個人差が大きいため、「自分に合うかどうかを見極める力が必要」と語った。 実際に自身も口コミをもとに漢方や健康食品を試した経験があり、「他人には効果があっても、自分には合わないことがある」と実感を述べている。
辻氏は、インターネット上での健康情報の拡散スピードにも警戒感を示した。 SNSでは個人の体験談が一気に広まり、「たった一つの成功体験が、万人に効果のある方法として受け取られてしまう」と語った。 その一方で、医師が発信する注意喚起や副作用の情報は拡散しづらく、結果としてポジティブな情報だけがバズりやすい傾向にあると分析した。 「短い動画や投稿ほど、危険な情報を無意識に信じてしまう」とも述べ、SNS時代特有のリスクを指摘した。
3氏は、情報の信頼性を高めるためには「裏取り」と「一次情報へのアクセス」が欠かせないと強調した。 中道氏は、複数の医療系YouTuberや専門家が発信する情報を比較して確認することを心がけていると話し、「一つの意見だけで判断しない姿勢が大切」と説明した。 また、佐藤氏は「健康や美容は個人差が大きいため、他人の成功談をそのまま自分に当てはめるのは危険」と語り、辻氏も「SNSでは“良い結果”ばかりが見えるが、その裏には副作用や失敗例もある」と補足している。
番組では、情報リテラシーの重要性を教育の視点からも捉えていた。 佐藤氏は「学校教育でバランスの取れた食事や健康の授業が行われるようになり、若い世代のリテラシーは確実に上がっている」と評価しつつも、「親世代こそ正しい情報の見極めが求められる」と述べている。 中道氏も「オンライン診療や美容施術の広告を見る機会が増える中で、情報を“疑う視点”を持つことが必要」と同意を示した。
最後に3氏は、SNS時代における「賢い美容・健康との向き合い方」として、次の3点を提案した。
- 一つの情報を鵜呑みにせず、複数の信頼できる情報源を確認する
- 短期間で劇的な効果をうたうものほど慎重に判断する
- 自分の体調や生活習慣に合わせた「持続可能な方法」を選ぶ
中道氏は、「美容や健康は、情報に踊らされるものではなく、育てていくもの」とまとめた。 SNSや広告が溢れる現代においては、情報の正確さを見抜く目と、自分の体に対する理解の深さが、美しさと健康を両立させる鍵であると結論づけられた。
出典
本記事は、YouTube番組「なぜ「痩せたい」は止まらない?SNSで広がる「GLP-1ダイエット」。美容医療広告のトラブルから身を守るには」(WOMANSHIP NewsPicks for WE/2024年公開)の内容をもとに要約しています。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
近年、SNS上で「GLP-1受容体作動薬(GLP-1 RAs)」を美容や痩身目的で使用する動きが広がっている。もともとこの薬は糖尿病や肥満症の治療に用いられる医薬品であり、適切な診断や管理のもとで使用することを前提としている。それにもかかわらず、「簡単に痩せられる薬」として独り歩きしている現状がある。本稿では、信頼できる医療データや公的情報をもとに、この薬の適応範囲・有効性・副作用・制度的課題を整理し、SNS時代における健康情報との向き合い方を考察する。
問題設定/問いの明確化
GLP-1 RAsは本来、2型糖尿病や肥満症治療に用いられる医薬品である。日本肥満学会は、肥満を「BMI 25 kg/m²以上」と定義し、脂肪組織の過剰蓄積によって糖尿病や高血圧などの合併症を伴う場合に「肥満症」として治療介入を推奨している[1]。治療の基本は生活習慣の改善であり、薬物療法はそれでも改善が見られない場合に限定される。したがって、健康な人が「見た目を整える」目的で使用することは、医療上の適応外となる。
しかしSNSでは、医療機関の広告やインフルエンサーによる「自然に食欲が減る」「運動せずに痩せられる」といった投稿が急増しており、自己判断による使用が問題視されている。このような使用が医療的・制度的にどのようなリスクを伴うのか、また情報流通や広告のあり方にどのような課題があるのかが、議論の中心である。
定義と前提の整理
GLP-1 RAsは、腸管から分泌されるホルモン「グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)」と同様の作用を示す薬である。インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃排出の遅延、食欲抑制といった複合的な効果により、血糖を下げると同時に体重減少をもたらす[2]。このため、2型糖尿病や肥満症の治療において有効な薬剤群として注目されてきた。
一方で、SNSやオンライン診療の普及により、診断や対面指導を経ずに薬を入手できるケースも報告されている。厚生労働省は、医療広告ガイドラインの見直しを進め、GLP-1を美容・痩身目的で宣伝する行為について監視を強化している[3]。制度的整備が追いつかない中で、広告と個人投稿の境界が曖昧になっている点が問題視されている。
エビデンスの検証
まず、有効性のエビデンスを確認する。日本人2型糖尿病患者を対象とした臨床試験では、経口セマグルチド(GLP-1 RA)が血糖コントロールおよび体重減少の両面で有効であり、予期せぬ安全性シグナルは認められなかった[4]。また、複数のメタ解析でもGLP-1 RAsが肥満または糖尿病を有する患者において体重を有意に減少させることが報告されている[5]。ただし、これらはいずれも医療的管理下での使用を前提としたデータであり、健康体での美容目的使用に関する科学的根拠は存在しない。
副作用の観点では、最も多いのは消化器症状である。大規模臨床試験(STEPシリーズ)では、悪心・嘔吐・腹痛・下痢などの症状が14〜58 %の割合で報告されている[6]。また、膵炎や甲状腺関連腫瘍などのリスクが指摘されているが、因果関係は明確ではないとされている[7]。したがって、長期使用や中止後の体重リバウンドを含め、医師の監督のもとで慎重に使用すべき薬である。
制度面でも課題がある。日本の医療機関ウェブサイトを分析した研究では、GLP-1 RAsを「運動不要」「自然に痩せる」などと宣伝する例が多数見られ、医療情報の質を評価するDISCERNスコアの平均が32.6(SD 5.5)と「低水準」であった[8]。これは、適応や副作用への十分な説明が欠けたまま宣伝されている可能性を示す。
また米国では、FDAが未承認または研究用と称して販売されるGLP-1製品に対して警告を発しており、オンラインを通じた無許可販売の危険性を強調している[9]。このような国際的警戒は、薬剤の乱用が医療安全上の新たな課題となっていることを示している。
反証・限界・異説
一方で、GLP-1 RAs自体が危険というわけではない。肥満や2型糖尿病患者を対象とした臨床試験では、体重減少効果が顕著で、他の治療法と比較しても良好な成績を示している。たとえば、日本人成人を対象に行われたティルゼパチド(GIP/GLP-1作動薬)の試験では、72週後に平均−10.2 %〜−12.4 %の体重減少が報告され、安全性も既存知見と整合していた[10]。
さらに、Nature Medicine誌に掲載された190万人規模の観察研究では、GLP-1 RAsの使用者で42種類の疾患リスクが低下し、19種類の疾患でリスク上昇がみられたと報告されている[11]。ただし、これは関連を示すにとどまり、因果関係を証明するものではない。こうした研究は、薬の多面的影響を理解する上で重要だが、誇張的な「万能薬」的解釈には注意が必要である。
実務・政策・生活への含意
個人レベルでは、「痩せたいから薬に頼る」という発想に慎重さが求められる。GLP-1 RAsは、医療的診断と継続的フォローアップを前提とする薬であり、健康体の美容目的使用は科学的裏付けに乏しい。副作用や中止後の体重変化を含め、医師の管理なしに用いることはリスクが高い。
制度面では、広告やオンライン診療のあり方が問われている。SNSでは「手軽さ」や「初回無料」を強調する投稿が多いが、こうした訴求が医療行為を軽視させる要因になりうる。厚生労働省は美容医療広告ガイドラインを改定し、GLP-1関連の誇大表現を取り締まる方針を示している[3]。適切な規制と情報提供が、医療の信頼性を支える鍵となる。
また、情報リテラシーの向上も欠かせない。SNSでは個人の成功談や感想が拡散しやすく、注意喚起や副作用情報は届きにくい。短期的な効果をうたう情報ほど慎重に扱い、一次情報(公的機関・査読論文)を確認する習慣が重要である。医療と美容の境界が曖昧になる中で、「自分の身体にとって本当に必要か」を判断する力が求められている。
まとめ:何が事実として残るか
GLP-1受容体作動薬は、糖尿病や肥満症の治療において科学的に有効性が確認された薬である。しかし、その効果を一般の美容・痩身目的に転用することは、医学的根拠も制度的保証もない。副作用としての消化器症状は高頻度に見られ、長期使用や中断後の体重増加など、未知の課題も残る。
情報環境の変化によって、誰もが医療情報を簡単に得られる時代になった。その一方で、「手軽さ」や「効率」を強調する広告が健康への過信を招く危険もある。医療と美容の間にある倫理的・社会的な線引きを明確にし、利用者自身が根拠を確認する姿勢を持つことが、今後ますます重要になるだろう。
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させて検証可能としています。
出典一覧
- 日本肥満学会(2024)『日本人における肥満症診療ガイドライン2024』Endocrine Journal 71(Suppl 1)
- Drucker DJ (2021)『Mechanisms of action and therapeutic application of GLP-1 receptor agonists』Nature Reviews Drug Discovery 20(9)
- 厚生労働省(2025)『医療広告ガイドライン・美容医療事例解説書(第5版)』医政局総務課
- Yabe D et al. (2022)『Efficacy and safety of oral semaglutide in Japanese patients with type 2 diabetes』Journal of Diabetes Investigation 13(5)
- Wang T et al. (2023)『GLP-1 receptor agonists for the treatment of obesity: current evidence and future perspectives』Frontiers in Endocrinology 14
- Wilding JPH et al. (2021)『Once-weekly semaglutide in adults with overweight or obesity (STEP 1 trial)』New England Journal of Medicine 384(11)
- Filippatos TD et al. (2015)『Adverse effects of GLP-1 receptor agonists in diabetes therapy: a systematic review』World Journal of Diabetes 6(10)
- Oyama T et al. (2025)『Quality Assessment of Medical Institutions’ Websites Regarding GLP-1 RAs for Weight Loss』JMIR Formative Research 9(1)
- U.S. Food and Drug Administration (2024)『FDA’s Concerns with Unapproved GLP-1 Drugs Used for Weight Loss』FDA Official Notice (Sept 2024)
- Yamauchi T et al. (2025)『Efficacy and safety of once-weekly tirzepatide in Japanese adults with obesity and type 2 diabetes』Diabetes, Obesity and Metabolism 27(4)
- Xie Y et al. (2025)『Health outcomes associated with GLP-1 receptor agonist use: a nationwide observational study of 1.9 million patients』Nature Medicine 31(1)