又吉直樹氏が語る「成功する人の共通点」
1. 他責思考をやめ、行動へ切り替える力
導入として、又吉氏は「うまくいっている人ほど切り替えが早い」と明確に示しています。追い込まれたとき、人は環境や他人の言動を理由に手を止めがちです。たとえば「雨だから今日は無理」「もっと早く言ってほしかった」といった言い訳に寄りかかるほど、行動は遅れます。同氏は、そうした多責の癖を自覚しつつ、結局は「自分でやるしかない」に戻って一つずつ進めると述べています。成功の分かれ目は、この帰結に達するまでの速度にあると強調しています。
ここで重要なのは、思考の切り替えが単なる気合ではない点です。視線を外に向けて責任を分散させる代わりに、課題を自分ごととして再定義する。これによって初動が早まり、仕事の質そのものが底上げされます。又吉氏は、自分にも課題があると認めたうえで、切り替えの早さが信頼につながる現実を浮き彫りにしています。
2. 時間ロスを生む思考ループを断つ
次に、又吉氏は「考えすぎが生む遅れ」を具体例で示しています。たとえば一通の連絡に対する返答を迷ううち、動き出しが1時間遅れるといった場面です。さらに、「今から飲みに行かないか」という突然の誘いへの苛立ちや、断り方の思案に時間を割くほど、開始が後ろ倒しになります。表面的には気持ちが軽くなる場当たり的な共感も、作業の山を減らすわけではありません。結果として、翌日以降も同じ課題に向き合うことになり、心理的にも実務的にも消耗が続きます。
この悪循環を断つ鍵は、「でもやるしかない」という行動命題への早い復帰です。判断の渋滞を短くし、最初の一歩を小さく刻む。開始の遅延が広がる前に、手を動かす側へと舵を切る姿勢が求められます。
3. 自分ごととして引き受ける前向きな責任感
又吉氏が観察する「うまくやっている人」には共通点があります。失敗や停滞を自分の文脈に引き取り、「自分がこうしていれば良かった」と可動域の中で解決を図る点です。多責に傾くほど短期的には楽に見えますが、課題は残り続けます。一方、前向きに引き受ければ、気分の回復と同時に実務が進み、周囲からの信頼も蓄積します。この姿勢は、単なる根性論ではなく、ロスの少ない進め方として機能します。
また、助言してくれる他者の存在も重要です。「わかるよ」と慰める言葉だけでは、根本の遅延は解消しません。「まずやってしまおう」という背中の一押しが、切り替えのトリガーになります。行動を促す関係性を持てるかどうかも、生産性に直結します。
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4. 迷いを短縮するための起点づくり
実務面では、迷いを短縮する起点を先に用意しておくと切り替えが容易になります。又吉氏の語りには、「あと5分で動き始められたのに」というタイムラグの実感が頻出します。ここから学べるのは、最初の5分を守るための小さな段取りです。連絡の返答を簡易案から始める、開始時の最初の一手(資料を開く、文章の見出しだけ打つ)を固定するなど、摩擦の少ないスタート地点を設けると、逡巡のスパイラルに落ちにくくなります。
さらに、他者からの予期せぬ刺激に心が揺れても、「開始を遅らせない」ことを優先します。誘いの可否は後で判断しても、今の作業の最小単位だけは予定どおり進める。こうした微細な自己管理が、切り替えの体力を支えます。
5. 完璧を待たずに踏み出す実務感覚
最後に、又吉氏は「できない自分」を過剰に否定しない柔らかさも示しています。誰にでも調子の波はあります。大切なのは、完璧な条件が揃うのを待たず、現状のまま動かすことです。小さく着手し、進みながら整える。多責の回路から最短距離で脱出する実務感覚が、長期的な仕事の質を底上げします。
総じて、成功の本質は特別な才能より「切り替えの速度」にあります。視線を外から内へ返し、課題を自分ごとに再配置する。その早さが、成果と信頼を同時に積み重ねていく土台になるといえます。
効率的に成果を出す人の「頼り方」
1. 全部自分でやらない勇気
又吉氏は、創作活動や仕事において「何でも自分でやってしまう」傾向があると認めています。小説の取材、資料集め、原稿整理に至るまで、すべてを自力でこなす結果、効率が悪化し、作品のクオリティが下がることもあると語ります。全責任を一人で背負う姿勢は誠実に見えますが、視点を変えれば非効率の象徴でもあります。又吉氏は、他者に任せる勇気こそが結果を良くする鍵だと示しています。
人に頼ることを「甘え」と誤解しがちですが、それは本来、仕事を高めるための戦略的行為です。信頼できる他者に一部を委ね、自分が最も集中すべき部分に時間を使う。又吉氏は、この発想の転換を通して、自分の作業の質が向上したと語っています。
2. 分担の上手さが成果を左右する
仕事における生産性の差は、単に努力量ではなく「分担の上手さ」に現れます。又吉氏はライブ活動を例に、「この部分は任せてもよかった」と感じた経験を紹介します。自分が全てを抱え込むよりも、チームで役割を整理し、それぞれの強みを活かす方が結果的に良い成果につながると気づいたのです。
実際、ベテラン作家ほど他者の力を活用する仕組みを整えています。編集者が資料を集めたり、構成を整理したりすることで、作家本人は表現そのものに集中できる。又吉氏も「30代になったら、時間を作るための工夫をしていい」と述べ、キャリアの成熟に伴う働き方の変化を促しています。
3. 「頼ることが苦手」な自分を認める
一方で、又吉氏は人に頼ることの難しさを率直に語ります。ある時期、家事代行サービスを利用しようとした際、「その時間を創作に充てよう」と考えたものの、実際にはサービスが来る前に自分で掃除や片付けを始めてしまったといいます。恥ずかしさや遠慮から手を出しすぎてしまい、結果的に時間を買う意味が薄れたのです。
このエピソードには、「人に任せることへの心理的な抵抗」が表れています。自分でやる方が早い、他人に触れてほしくない領域がある──こうした感情は誰にでもあります。又吉氏はその不器用さを自覚しつつ、「任せ方の下手さも成長の課題」と受け止めています。頼ることを恥じない姿勢が、効率化の第一歩だといえるでしょう。
4. 「時間を買う」という発想
人に任せることは、単に労力を減らす手段ではなく、「時間を買う」という発想に置き換えることができます。又吉氏は、他者に仕事の一部を委ねることで2〜3時間の余白が生まれ、その時間を創作に使うことを想定していました。つまり、時間こそが最大の資産であり、その使い方を再設計することが、結果的に質の高い仕事へとつながるのです。
ただし、任せるためには明確な線引きも必要です。どこを委ね、どこを自分が担うのか。その判断を繰り返すことで、分担の精度は磨かれます。又吉氏は「任せ方がうまくなれば、心の余裕も増える」と述べ、長く成果を出し続けるための基盤として「時間の使い方の更新」を提案しています。
5. 信頼の循環を生む「任せる力」
最終的に、他者を信頼して任せる力は、単なる効率化ではなく、人間関係を育てる行為でもあります。すべてを自分で完結させる仕事は安心感をもたらしますが、他者との連携から生まれる化学反応を失う危険もあります。又吉氏は、他人に委ねることの難しさを認めつつも、その中で発見できる新しい発想や可能性の価値を語っています。
完璧さに固執せず、信頼を前提に分担する。そうした協働の姿勢が、長期的に安定した成果を生み出す基盤になるのです。頼ることは弱さではなく、成熟の証といえるでしょう。
30代で身につけたい「楽しむ力」
1. 不機嫌でいることが“正しい”と思い込んでいた若い頃
又吉氏は、自身の20代を振り返り「不機嫌でいることが正しいと思っていた時期があった」と語ります。社会の理不尽や矛盾に敏感であるほど、笑っていられない、楽しんでいる場合ではないと感じていたといいます。真面目で感受性の強い人ほど、世の中の違和感を見逃さないことこそが誠実だと信じてしまう傾向がありますが、又吉氏は30代に入り、それが必ずしも正しい態度ではないと気づいたと述べています。
若い頃は、批判的であることが知的で格好良いと錯覚しやすいものです。しかし、常に否定的な姿勢でいることは、自分自身を疲弊させ、周囲の空気も重くしてしまいます。又吉氏は、「楽しむことも誠実さの一部」と捉えるようになったと語り、そこに意識の転換があったといえます。
2. 批判的であることが“本質を見抜く力”ではない
20代の又吉氏は、世の中の流行や人気のあるものを斜めから見る人こそ「本質を見抜いている人」だと思っていたと回想します。売れているものや若者が好むものを否定することで、自分は群れとは違うという優越感を得ていたのです。しかし、後にその態度が「距離を取ることで安心しているだけ」だったと気づいたといいます。
又吉氏は、好きなものを素直に楽しむ人の方がよほど柔軟で賢明だと実感するようになりました。流行や大衆性を安易に切り捨てるのではなく、なぜ多くの人が惹かれるのかを観察する姿勢が、本当の意味での知性だと感じるようになったのです。批判的であることと、思考が深いことは決して同義ではないという洞察がここにあります。
3. 楽しむことを“選ぶ”という意識
又吉氏は、30代半ばを過ぎてから「楽しもうとする姿勢を意識的に持つようになった」と語ります。状況がうまくいかなくても、何かしら面白さを見出す意識を持つことで、物事の見え方が変わっていくのです。文句を言い続けるよりも、少しでも楽しもうとする方が心が軽くなり、周囲にも良い影響を与えます。
もちろん、常にポジティブでいられるわけではありません。又吉氏も「今でも全部嫌になる日がある」と率直に語ります。ただし、その状態を“正しい”とは思わないようにしている。つまり、不機嫌である自分を否定はしないが、それを居心地の良い場所にしない。この距離感の取り方が、成熟した大人の精神性といえます。
4. 「批判」から「観察」への視点転換
不機嫌を手放すというのは、無理に明るく振る舞うことではありません。又吉氏は、世の中の問題を見つける感性を保ちながらも、それを怒りではなく「なぜそうなるのか」という関心へと変換することの重要性を語ります。これは、思考の精度を上げる行為でもあります。感情的な批判ではなく、構造的な観察へ。視点の転換が、心の安定と洞察の両立を可能にします。
この変化が起こると、人との関係も穏やかになります。相手を批判して距離を取る代わりに、違いを観察して理解しようとする。又吉氏は、この「観察への転換」が自分の内面にも穏やかさをもたらしたと語ります。
5. 30代は“楽しむ力”を磨く転換期
又吉氏は、30代を「転換期」として捉えています。20代では批判的な視点が自己形成に役立ちますが、30代に入ると「その視点をどう活かすか」が問われます。単に否定するのではなく、受け止め方を変えることが成長の証です。
また、40代になると「嫌なものに出会う前に気づけるようになる」と語り、経験によって感情の先回りができるようになるといいます。不機嫌を正当化する段階を抜け出し、楽しむ努力を選べるようになることが、心の成熟を意味するのです。又吉氏の語りには、悩みながらも前へ進もうとする世代への温かな励ましが込められています。
自分の「楽器」を知ることが成功の鍵
1. 自分の役割を見極めるという発想
又吉氏は、チームや人間関係の中で「自分のポジションを理解すること」の大切さを語っています。氏はその考えを音楽にたとえ、自分を「ドラ(大太鼓)」と表現しました。大勢の中で常に目立つわけではなく、ここぞという瞬間に確実に響かせる役割を担う——それが自分に合った立ち位置だといいます。
この比喩には、出番を見極める冷静さと、限られた機会に集中する力が込められています。いつも前に出る必要はなく、必要なときに確実に音を響かせること。又吉氏は、そうした姿勢が「長く信頼される人の共通点」であると指摘しています。
2. 今田耕司の助言に見る“プロの視点”
又吉氏がこの話を今田耕司氏に伝えた際、今田氏は「自分ならドラでも小さな音でずっと鳴らす」と答えたといいます。その言葉に、又吉氏は深く感銘を受けました。出番が少ない楽器であっても、沈黙の時間を“無”にせず、小さく存在感を響かせ続ける——それが今田氏の考え方でした。
この姿勢には、場のエネルギーを絶やさないプロ意識が表れています。たとえ目立たない時間でも、周囲を支えるリズムを保ち続けることができる人こそが、チームを支える存在です。又吉氏はその発想に触れ、自身の中にも新たな余白の使い方を見出したといいます。
3. “鳴らしていない時間”をどう過ごすか
又吉氏はこの助言を通じて、「出番のない時間をどう過ごすか」が重要だと気づいたと語ります。自分が発言していないときも、場の流れを観察し、どんな形で貢献できるかを考える。そうした意識の違いが、集団の雰囲気や成果を大きく変えるのです。
会議や共同作業においても、沈黙の時間を“空白”ではなく“準備”と捉えることができます。発言していない時間こそ、自分の出番を探る貴重な機会です。又吉氏は、「鳴らしていない時間を無駄にしない意識が、仕事の質を左右する」と示しています。
4. “白を塗る”という比喩が示す働き方
又吉氏はさらに、「白い部分も色として塗る」という比喩でこの考えを説明します。絵を描くとき、雲の白を紙の余白のまま残すのではなく、白という色で塗ることで深みが生まれる。これは、目立たない時間や役割も意識を持って過ごすことで価値に変わる、という考え方です。
人は成果や発言といった“見える動き”に注目しがちですが、背景を整える姿勢もまた重要です。白を白のままにせず、自分の意識で塗り重ねていく人ほど、長く信頼され、存在感を放つようになります。
5. 自分の「楽器」を進化させる発想
又吉氏は最後に、「自分の楽器が物足りないと感じたら、新しい楽器を作ってもいい」と語ります。ギターに木琴のような音を加えるように、既存の枠を超えて自分の役割を拡張するイメージです。つまり、他人のやり方を真似るのではなく、自分にしか出せない音を探すこと。それが成熟した大人の表現であり、働き方の理想形でもあります。
自分のポジションを理解し、鳴らしていない時間にも意味を見いだす。そして必要に応じて、自分の役割を更新していく。その積み重ねが、静かで確かな成功へとつながっていくのです。
[出典情報]
このブログは人気YouTubeチャンネル「百の三」による動画「【百の三_悩める30代に伝えておきたい事⑩】成功する人の法則3選!44歳の又吉だからこそわかる“成功の秘訣”とは?燻ってるんじゃないかと感じてる30代の方々必見!先輩今田耕司さんの名言も!?」を要約・解説したものです。
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
本稿は、一般的に語られがちな「切り替え」「信頼」「楽しむ力」といった成功要因を、第三者の研究や統計に照らして点検し、実務に役立つ補足と留保条件を整理するものです。個人の経験談や特定の人物の語りではなく、査読論文や国際機関の資料を中心に、エビデンスから見える現実的な示唆を抽出します。
「切り替えの速さ」は常に善か──行動バイアスと熟慮のバランス
「素早く切り替える」ことは停滞を断ち、前進のきっかけを作るうえで有効とされます。しかし心理学の研究は、「速さ」だけを追うと状況にそぐわない行動を選ぶリスクがあると指摘しています。たとえばサッカーのPKにおける「アクション・バイアス」研究では、実際には中央に留まるのが最適な場面でも、選手が左右に飛びがちで非最適化が起こる傾向が確認されました(Journal of Economic Psychology, 2007)。また、タスク間の切り替えには認知的な負荷があり、スイッチのたびにパフォーマンス低下が起こることも報告されています(Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 2001)。
さらに、未了の仕事が頭に残る「アテンション・レジデュ(注意残渣)」現象は、集中を分断して作業効率を下げることが知られています(Organizational Behavior and Human Decision Processes, 2009)。したがって、「速く切り替える」だけではなく、「いつ切り替えるか」「切り替えず観察を続けるか」という判断の質こそが成果を左右するといえます。
「考えすぎのループ」を断つ実証的な方法──小さな開始と実行意図
先延ばしは自己調整の失敗として広く研究され、メタ分析では健康・業績・幸福感にわたる悪影響が確認されています(Psychological Bulletin, 2007)。その対処として効果的とされるのが「実行意図(if–thenプラン)」です。具体的な条件と行動をあらかじめ結びつけることで初動を自動化し、着手の摩擦を下げる方法として知られています(American Psychologist, 1999)。
また、タスクスイッチに伴う負荷を考慮すると、返信テンプレートや「最初の5分だけやる」といった最小着手点を用意することは注意資源の分散を防ぎます(American Psychological Association/JEP: Human Perception and Performance, 2001)。これらは精神論ではなく、実証的根拠をもつ介入です。
「任せる力」と信頼の循環──委譲は成果と幸福をどう変えるか
仕事をすべて自分で抱え込むよりも、権限委譲や支援を活用した方が成果が高まりやすいことは組織心理学のメタ分析でも示されています。心理的エンパワーメントは仕事満足・パフォーマンスと有意な正の関連を持つことが報告され(Journal of Applied Psychology, 2011)、チーム内の信頼もパフォーマンスと中程度の効果量(相関ρ≈0.30)で関連します(Journal of Applied Psychology, 2016)。
さらに、「時間を買う」発想も幸福感を高めることが知られています。多国間調査とフィールド実験によれば、家事や雑務の外部委託など時間節約の支出が主観的幸福を向上させることが確認されました(PNAS, 2017)。一方で、こうした委譲を機能させるには、質問や試行錯誤を安心して行える「心理的安全性」が必要です(Administrative Science Quarterly, 1999)。単に「任せる」だけでなく、協働関係を育てる姿勢が成果と幸福の双方を支えます。
「楽しむ力」は甘さか戦略か──ポジティブ感情と成果の関係
批判的な視点は重要ですが、常時の否定的感情が生産性を高めるわけではありません。ポジティブ感情は思考と行動の幅を広げ、長期的なリソースを築くという「拡張‐形成理論」が提唱されています(American Psychologist, 2001)。また、幸福が成功に先行する傾向を示したメタ分析もあり(Psychological Bulletin, 2005)、ポジティブ・ネガティブ感情傾向の双方が業績と関係することが示されています(Journal of Applied Psychology, 2009)。
ただし、「幸せ=高業績」という単純な図式には注意が必要です。近年の研究では、幸福と生産性の関係が職場文化やストレス管理要素によって変動することが報告されています(PLOS ONE, 2025)。ポジティブ感情は「選択的に活用する実践的資源」として扱うのが現実的です。
「自分の楽器」を理解する──役割適合とロール・クリアリティの効果
チームの中で自分の強みや出番を見極める考え方は、研究的にも支持されています。人‐職務適合のメタ分析では、適合が態度・パフォーマンス・離職行動と安定した関連を持つことが確認されています(Personnel Psychology, 2005)。また、目標や役割の明確さがパフォーマンスを高めることは、公共組織を対象とした研究でも示されています(Review of Public Personnel Administration, 2018)。
さらに、上司と同僚がともに役割を明確に共有することが、従業員のロール・クリアリティとウェルビーイングを向上させるという最新研究もあります(Human Resource Management, 2025)。役割を固定せず、必要に応じて再設計する柔軟性こそ、現代の協働にふさわしい姿勢だといえます。
完璧を待たない進め方──パフォーマンスと燃え尽きの二面性
「準備が整うまで動かない」姿勢は、実務上のコストを伴います。一方で、過度な完璧主義は燃え尽きと関連することがメタ分析で確認されています(Personality and Social Psychology Review, 2016)。職場における完璧主義は、成果との関係が両義的であることも報告されています(Journal of Applied Psychology, 2018)。
したがって、「小さく始め、動かしながら整える」実務感覚は、先延ばしを減らしつつ負荷を抑える現実的な方策といえます。実行意図や最小着手点を設計し、心理的摩擦を下げることが重要です(American Psychologist, 1999/OBHDP, 2009)。
政策・環境という前提条件──個人努力だけに帰さない視点
生産性や幸福は、個人の努力だけではなく制度や文化の影響を強く受けます。OECDの報告によれば、ワークライフバランスやケア支援の整備が労働参加や生活満足度に正の影響を与える可能性があります(OECD Economic Surveys: Japan 2024/OECD, 2024)。個人の「切り替え」や「任せ方」を考える際には、こうした環境的条件を踏まえる必要があります。
まとめ──行動の速さを、設計と関係性で支える
エビデンスに照らすと、「切り替えの速さ」は単なる気質ではなく、状況判断・介入設計(実行意図・最小着手点)・関係性(信頼・心理的安全性)に支えられて初めて安定的に機能します。楽しむ姿勢は気分論ではなく、注意と創造性を広げる実務的資源として意味を持ちます。最後に、各人が自分の環境に応じた現実的介入を検証しながら、どの方法が再現性高く機能するかを見極めていくことが、今後の課題となるでしょう。
出典・参考文献一覧(章対応・一次/学術優先)
本文の主張と対応づけた学術論文・メタ分析・国際機関資料を整理しました。再検証や追加調査の出発点としてご利用ください。
最終更新:2025-10-21
I. 「切り替えの速さ」は常に善か──行動バイアスと熟慮のバランス
- Journal of Economic Psychology (2007) ─ サッカーPKのアクション・バイアス:最適でも動きがちで非最適化が起こる。
- JEP: Human Perception and Performance (2001) ─ タスク切替の認知コスト(スイッチ毎にパフォーマンス低下)。
- Organizational Behavior and Human Decision Processes (2009) ─ 注意残渣(Attention Residue)が集中を阻害。
II. 「考えすぎのループ」を断つ実証的な方法──小さな開始と実行意図
- Psychological Bulletin (2007) ─ 先延ばしのメタ分析:健康・業績・幸福への悪影響。
- American Psychologist (1999) ─ 実行意図(if–thenプラン)で初動を自動化し行動開始を促進。
- American Psychological Association(解説) / JEP:HPP (2001) ─ マルチタスク/スイッチ負荷の基礎知見。
III. 「任せる力」と信頼の循環──委譲は成果と幸福をどう変えるか
- Journal of Applied Psychology (2011) ─ 心理的エンパワーメントと満足・パフォーマンスの正の関連(メタ分析)。
- Journal of Applied Psychology (2016) ─ チーム内信頼とパフォーマンスの中程度の関連(ρ≈0.30)。
- PNAS (2017) ─ 「時間を買う」支出が主観的幸福を向上(多国間・実験)。
- Administrative Science Quarterly (1999) ─ 心理的安全性が学習行動・協働を支える。
IV. 「楽しむ力」は甘さか戦略か──ポジティブ感情と成果の関係
- American Psychologist (2001) ─ 拡張‐形成理論:肯定感情が認知・行動の幅と資源を拡張。
- Psychological Bulletin (2005) ─ 幸福が成功に先行しやすい傾向(レビュー/メタ分析)。
- Journal of Applied Psychology (2009) ─ 感情傾向と業績の関連(職場文脈)。
- PLOS ONE (2025) ─ 幸福×生産性の関係は職場文化・ストレス管理で変動。
V. 「自分の楽器」を理解する──役割適合とロール・クリアリティの効果
- Personnel Psychology (2005) ─ 人‐職務適合のメタ分析:態度・パフォーマンス・離職と安定関連。
- Review of Public Personnel Administration (2018) ─ 目標・役割の明確さがパフォーマンス向上に寄与。
- Human Resource Management (2025) ─ 上司・同僚の役割共有がロール・クリアリティとウェルビーイングを高める。
VI. 完璧を待たない進め方──パフォーマンスと燃え尽きの二面性
- Personality and Social Psychology Review (2016) ─ 完璧主義と燃え尽きの関連(メタ分析)。
- Journal of Applied Psychology (2018) ─ 職場における完璧主義と成果の両義性。
- American Psychologist (1999) / OBHDP (2009) ─ 実行意図&最小着手で「完璧待ち」を回避。
VII. 政策・環境という前提条件──個人努力だけに帰さない視点
- OECD Economic Surveys: Japan 2024 ─ 生活満足・労働参加に資する制度要素(WLB・ケア支援)。
- OECD (2024) ─ 人口動態への長期対応と生産性・幸福の環境要因。
出典整理の方針: 本一覧は本文の章立てに対応して配置し、査読論文・国際機関資料を主根拠、一般的な解説記事は補助根拠として位置づけています。各エントリに「何を裏づけるか」を付記し、透明性と再検証容易性を高めました。