健康的なお茶が危険になる可能性―がんリスクを高める飲み方とは?
お茶は、多くの人にとって日常的な飲み物であり、その健康効果が広く知られています。緑茶や紅茶、ハーブティーなどは、抗酸化作用をはじめとしたさまざまな効能があるとされ、健康志向の人々の間でも高く評価されています。しかし、そうしたお茶であっても、飲み方を誤ると逆に健康リスクを高める可能性があるという研究結果が報告されています。
本記事では、お茶の温度とがんリスクの関係について科学的根拠に基づいて解説し、健康を維持するために意識すべき飲み方のポイントを紹介します。
健康によいはずのお茶に潜む「飲み方の落とし穴」
お茶そのものには問題はありません。多くの研究が示すとおり、カフェインを含むお茶やコーヒーには強い抗酸化作用があり、老化防止や生活習慣病の予防に役立つとされています。特に緑茶や紅茶はポリフェノールを多く含み、心血管系の健康にも良い影響を与えることがわかっています。
しかしながら、2020年代に発表されたある大規模観察研究により、飲み方によっては食道がんのリスクを高める可能性があることが判明しました。この研究は、イランに住む50,045人を対象に10年間にわたって実施されたもので、対象者の飲むお茶の温度と食道がんの発症率との関連性が調査されました。
食道がんリスクを高めるのは「高温のお茶」
この研究の最大の特徴は、「お茶の種類」ではなく「お茶の温度」に焦点を当てている点です。紅茶であれ緑茶であれ、ハーブティーであれ、温度が高い状態で飲むことが問題であるとされています。
調査結果によれば、60度未満のお茶を常飲している人には、特段のがんリスクの上昇は見られませんでした。しかし、60度を超えるお茶を飲んでいた人たちには、以下のような傾向が見られました。
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60〜64度のお茶を飲んでいた人は、食道がんのリスクが1.44倍に上昇
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64度以上のお茶を飲んでいた人では、リスクは1.36倍に上昇
この数値から分かることは、温度が60度を超えることで、明確に食道の粘膜にダメージを与える可能性があるという点です。なお、64度以上のほうがリスクが若干低く見える理由については、統計的な誤差の範囲と考えられており、本質的なリスクの差ではないと解釈されています。
なぜ高温のお茶が危険なのか?
熱すぎる飲み物がなぜ食道がんのリスクを高めるのか。その主な理由として、粘膜への繰り返しの熱的刺激が挙げられます。60度を超える液体を継続的に摂取することで、食道内の組織に軽度ながらも慢性的な炎症や細胞の損傷が発生します。これが積み重なることにより、がん細胞への変異リスクが高まると考えられています。
これはお茶に限らず、コーヒーやスープ、鍋物など、60度を超える状態で摂取される飲食物全般に当てはまると見られています。したがって、食道がんのリスクを下げるためには、日常的な「熱すぎる飲食物の摂取」を見直すことが非常に重要です。
お茶を安全に楽しむための温度管理とは?
研究結果を踏まえると、お茶を安全に楽しむためには「60度未満に冷ましてから飲む」ことが効果的です。ただし、実際の生活の中でお茶の温度を常に測るのは現実的ではありません。そのため、以下のような対策が推奨されています。
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熱湯でお茶を淹れた後、最低でも5分以上は冷ます
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飲む前に湯気の量や器の熱さを確認し、「熱すぎない」と感じるタイミングで口にする
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冷ましたお茶を常温または冷蔵保存しておく(特に水出し緑茶やハーブティーなど)
こうした工夫により、飲み物の温度を安全な範囲に保つことができます。とくに寿司屋やレストランなどで提供される熱いお茶は、60度を超えている可能性が高いため注意が必要です。
熱い飲み物全般に共通するリスクと注意点
お茶に限らず、60度を超える温度で提供される飲み物はすべて同様のリスクを持つと考えられています。たとえば、コーヒーや味噌汁、ラーメンのスープ、鍋料理など、口に含んだ際に「熱い」と感じる飲み物や食べ物は、おおむね60度を超えていることが多く、それを無理に飲み込むことで食道粘膜へのダメージが蓄積していきます。
このような習慣が長期的に続くと、細胞に炎症や変性を引き起こし、がん細胞への変化を促す可能性があるため、日常生活においても飲食の温度に意識を向けることが推奨されます。特に高齢者や喫煙者、飲酒習慣がある方など、もともと食道がんのリスクが高い層にとっては、飲食温度の管理がより重要となるでしょう。
日常生活で取り入れやすい実践的対策
飲み物の温度に気を配ると言っても、専用の温度計を常に携帯するわけにはいきません。そこで、簡単かつ実践的にできる対策を以下に整理します。
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熱湯で抽出したお茶は、少なくとも5分以上冷ましてから飲む
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湯気の立ち方や湯飲みの熱さを目安にして、60度以下を見極める習慣を持つ
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水出しや常温保存の方法を取り入れ、熱いお茶を飲む機会を減らす
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外食時に提供される飲み物は「少し冷ましてから飲む」を心がける
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保温ポットやタンブラーを活用し、冷めた状態でも美味しく飲める工夫を行う
とりわけ、食事と一緒にお茶を飲む場面では、食後すぐに熱いお茶を流し込むのではなく、食事がひと段落してから冷めたお茶を楽しむというスタイルに切り替えることで、無理なく習慣化が可能です。
なぜこの研究結果が信頼できるのか
今回紹介された研究は、イランに居住する約5万人を対象に、10年間にわたって行われた観察研究です。このような長期追跡型の研究では、対象者の生活習慣や健康状態を継続的に観察することで、特定の行動と疾患発症との因果関係を比較的明確に把握できます。
もちろん、観察研究には限界もあります。たとえば、他の生活習慣(喫煙、飲酒、食生活など)との相互作用が完全に制御されていない可能性や、被験者の自己申告による誤差などが挙げられます。しかしながら、研究の規模と追跡期間の長さ、さらに明確な相関関係が統計的に確認されたという点から見ても、今回の結果は十分に信頼に値すると考えられます。
また、同様の結果は過去の複数の研究でも報告されており、熱い飲み物と食道がんとの関係は、国際がん研究機関(IARC)によってもリスク因子として位置づけられています。この点からも、温度管理の重要性は無視できないテーマであるといえるでしょう。
健康のために見直すべき「日常の当たり前」
お茶を健康目的で飲んでいる人にとって、「温度を気にする」という発想は、これまであまり意識されてこなかったかもしれません。実際に、日本の飲食文化においては「熱いお茶」や「熱々の料理」が好まれる傾向があり、口の中が熱くなるような飲食に慣れている人も多いでしょう。
しかし、健康を維持するためには、こうした「当たり前」の習慣を見直すことが重要です。特にお茶のように「健康的」と信じて日常的に摂取されている飲み物であっても、飲み方ひとつでその効果は大きく変わるという点は、今後の生活習慣を見直す大きなヒントとなります。
健康知識は人生の質を左右する
最後に、今回のテーマは単なるお茶の話にとどまりません。飲食物の摂り方や生活習慣を見直すことは、健康寿命を延ばし、人生全体の質を向上させる鍵となります。栄養、運動、睡眠といった基本的な健康要素と同様に、「日常的な温度管理」という視点を取り入れることで、がんをはじめとした重大疾患のリスクを減らすことができるのです。
健康を損なってから後悔するのではなく、日々の小さな選択の積み重ねこそが、未来の自分を守る最大の投資となります。本記事を通じて、飲み物や食べ物の温度という視点にもぜひ注意を向けていただきたいと思います。
出典:
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YouTube動画:「知らずにみんなが飲んでる【ガンになるお茶の飲み方】」
https://youtu.be/KqkHF7iqPv8?feature=shared
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
本文では、「熱すぎるお茶(約60 °C以上)の習慣的な摂取が、食道がんのリスクを1.36〜1.44倍に高める可能性」が強調されています。また、温度による粘膜への熱的刺激が背景にあり、60 °C未満の飲用でリスク上昇は認められない、とされています。これら主張について信頼できる第三者情報をもとに再検討します。
テーマ① IARCによる「非常に熱い飲み物」の評価
IARC(国際がん研究機関)は、「65 °Cを超える非常に熱い飲み物」の摂取は、食道がんに対し「ヒトにおいておそらく発がん性あり(Group 2A)」と分類しています[1]。これは飲料そのものではなく温度がリスク要因であることを示しています。
ただしこの評価は「おそらく発がん性あり」の分類であり、因果関係が確定しているわけではありません。また、その危険性の程度や、どれほどの摂取量が問題かまでは明らかではなく、多くの国では実際に65 °C以上で飲む習慣は一般的ではないとされます[1]。
テーマ② 温度とリスクの定量的関係
東アフリカ(マラウイ・タンザニア)の事例では、“非常に熱い”飲食の温度以外にも、飲用までの待ち時間や速さ、口の火傷頻度などを組み合わせた「熱的暴露スコア」で最大4.6倍のリスク上昇が認められたとの報告があります[2]。
また、2025年に英国の大規模コホート研究により、「非常に熱い(very hot)飲料の摂取と食道扁平上皮がん(ESCC)の有意な関連」が確認され、摂取量が多いほどリスクが上がるドース–レスポンスも認められています[3]。
このように、温度以外の要因と組み合わせた総合的な評価や、量とリスクの関係性について注目すべき視点があります。
テーマ③ 他リスク要因との比較(喫煙・飲酒など)
食道がんの主要因として、世界的に喫煙や過度の飲酒が非常に強い関連性を持つことは確立された事実です[4][5]。
例えば、2025年4月の報道では、「非常に熱い飲み物」によるリスクは他の因子ほど強くはなく、喫煙や飲酒の方が圧倒的に大きなリスクであるとの指摘もなされています[6]。
したがって、温度管理の重要性を認識する一方で、全体的な生活習慣の見直しとしては、禁煙・節酒の方がより優先されるべき対応であることに注意が必要です。
テーマ④ 「60 °C以上」「64 °C以上」の温度区分の信頼性
ご提示の記事では、「60〜64 °Cで1.44倍」「64 °C以上で1.36倍」という結果が紹介されていますが、このような明確な温度区分でのリスク差を示す一次データについて、現段階で国際的に承認された報告は見当たりません。
IARCの基準は65 °Cを境とする分類が主であり、それ以下の温度(例:60 °C)について安全と断定するには、まだ科学的証拠が不十分な印象です[7][8]。
出典一覧
[1] Drinking Coffee, maté, and very hot beverages (2016), IARC Monographs — https://www.iarc.who.int/featured-news/media-centre-iarc-news-mono116/
[2] A very-hot food and beverage thermal exposure index and esophageal cancer risk in Malawi and Tanzania… Br J Cancer (2022), IARC et al. — https://doi.org/10.1038/s41416-022-01890-8
[3] Hot or very hot beverages and risk of esophageal squamous cell carcinoma (ESCC) in UK… Nat Commun Oncol (2025), Inoue-Choi et al. — https://www.nature.com/articles/s41416-025-02953-2
[4] Esophageal cancer – causes & risk factors (2025), Wikipedia — https://en.wikipedia.org/wiki/Esophageal_cancer
[5] Alcohol and cancer (2025), Wikipedia — https://en.wikipedia.org/wiki/Alcohol_and_cancer
[6] 5 surprising things linked to cancer… (2025), Washington Post — https://www.washingtonpost.com/wellness/2025/04/28/cancer-tattoos-hair-straightener-meat/
[7] Hot beverage intake and oesophageal cancer in the UK… (2025), Nature study — https://www.nature.com/articles/s41416-025-02953-2
[8] Meta-analysis: tea consumption and esophageal cancer risk (2022), Nutrition and Cancer — https://en.wikipedia.org/wiki/Health_effects_of_tea