はじめに:時間を“うまく使えない”のは、性格ではなく習慣のせい
「今日も結局何もできなかった」
「やるべきことはあるのに、ついスマホをいじってしまう」
こうした“時間の浪費”に悩む人は少なくありません。DaiGo氏によれば、それは「性格の問題ではなく、科学的に修正可能な“癖”」だといいます。
本記事では、DaiGo氏が紹介した「時間の使い方が上手くなる5つの習慣」を、心理学の裏付けとともに整理し、日常で再現できるように解説していきます。
第5位:ハーバード大学式「20秒ルール」を使う
最初に紹介されたのは、ハーバード大学の心理学者ショーン・エイカー氏による「20秒ルール」です。
このルールの本質はシンプルで効果的です:
- やりたいこと(習慣化したい行動)への“最初の一歩”にかかる時間を20秒短縮する
- やりたくないこと(誘惑行動)には20秒以上の手間を加える
たとえば:
- 勉強道具を机に開いた状態で置いておく
- スマホをバッグの奥にしまう
- お菓子は開けにくい容器に入れる
これにより、「行動の初動コスト」が調整され、望ましい習慣を自然に選びやすくなるのです。
DaiGo氏は「スマホケースを開けにくい手帳型に変えるだけで、触る頻度が大きく減る」といった具体例も提示しており、習慣形成の“設計”に最も重要な原則であることを強調しています。
第4位:「後でどんな気持ちになるか」を想像する
先延ばしは「今のめんどくささ」に強く影響される行動です。しかし、DaiGo氏はここに逆の視点を加えます。
「先延ばしの先にある“もっと嫌な感情”を想像してみてください」
たとえば:
- 「今日も何もできなかった」と自己嫌悪に陥る夜
- 「明日こそはやろう」と繰り返す虚しさ
- 結局ギリギリで焦りながらこなす苦痛
この“先にある苦しさ”を思い出すことが、今やるべき理由になります。
DaiGo氏は「最悪な気持ちになることリスト」を作っておくことをすすめています。これは、先延ばしによってどんなネガティブな感情になるかをあらかじめ言語化しておくもので、強力な“自己動機づけ装置”になります。
関連記事:【メンタリストDaiGo】が実践する「人生を変える最強の5つの癖」──迷いを断ち、集中力を手に入れる心理戦略
第3位:「最初の一歩」だけに集中する
行動が起こせない理由の多くは、「大きすぎる目標」に圧倒されてしまうことにあります。これをDaiGo氏は「達成不安」と呼びます。
「完璧にやる必要はない。まずは最初の1分、最初の1歩を踏み出そう」
たとえば:
- ジムに行って10回だけ筋トレをする
- とりあえずパソコンを立ち上げて1文だけ書いてみる
- 本を開いて最初の1ページだけ読む
この「部分実行主義」ともいえる方法は、「行動を起こす=達成しなければならない」というプレッシャーを取り払い、動き出すための心理的ハードルを一気に下げてくれます。
心理学でも、“行動を開始した後は継続しやすくなる”という現象が知られており、「動き始めが最大の障壁」であることが科学的にも証明されています。
補足:先延ばし癖は“怖がり”の現れ?
DaiGo氏は、先延ばしをしてしまう人ほど、「本当は真面目で不安を感じやすいタイプ」だと指摘しています。
- 「失敗したらどうしよう」
- 「うまくできなかったらどうしよう」
こうした不安が、結果として“最初の行動”にブレーキをかけてしまうのです。
最初の一歩を意識する方法は、そうした不安を軽減する「心理的な小さな成功体験」を積み重ねるための、非常に効果的な戦略でもあるのです。
第2位:難しいことは「決まった時間と場所」で行う
習慣化の基本中の基本──それが「時間と場所を固定する」ことです。
DaiGo氏は、先延ばし癖が抜けない人の多くが「やる時間や場所を決めず、気分任せで行動している」と指摘します。結果として、行動のスイッチが入らないまま、先延ばしが積み重なっていくのです。
なぜ時間と場所を固定すると習慣化しやすいのか?
心理学では「コンテキスト依存記憶」と呼ばれる現象が知られており、人間は特定の環境(時間・場所・状況)と行動をセットで記憶する傾向があります。
- 朝8時にデスクに座れば仕事モード
- 夜のリビングではリラックスモード
というように、“その時間・場所に行くと自然とその行動を始めたくなる”という脳のパターンが形成されていくのです。
うまくいくコツ:余裕を前後に確保する
とはいえ、「毎日決まった時間に始めるのは難しい」という人もいるでしょう。そんな場合は、前後の時間に余裕を持たせることがポイントです。
たとえば:
- 勉強に取りかかるまで30分かかるなら、1時間前に勉強スペースに入る
- 運動を始めるまで1時間かかるなら、2時間前から準備時間としてスケジュールに組み込む
この“余白”があることで、「焦って行動を始める→中断されて自己嫌悪」という負のスパイラルを避けることができます。
関連記事:「寝る前20分」で脳がリセットされる科学的習慣――翌日の集中力が劇的に変わる方法【メンタリストDaiGo】
第1位:大事じゃないこと“すべて”を先延ばす
DaiGo氏が「最強」と評した習慣が、まさかの“全部先延ばす”という逆転の発想でした。
ただしこれは、「どうでもいいことにこそ人は逃げがちである」という心理に対するアンチテーゼです。
本当に大事なことだけに絞る
人はつい、
- メールを返す
- デスクを片付ける
- SNSをチェックする
といった“作業っぽい何か”に逃げ込んでしまいます。
しかし、これらは実は“達成感が得られるだけの雑務”にすぎず、本当に取り組むべき重要なタスク(仕事・勉強・人間関係の修復など)を遠ざけるだけの存在です。
DaiGo氏の提案は極めて明快です。
「今日やるべき“最重要な3つのこと”を先に決め、それ以外のすべては先延ばしする」
つまり、「先延ばしを許す範囲を逆に定める」ことで、本当に優先度の高い行動を浮かび上がらせるという、心理的にも実務的にも強力な方法なのです。
「大事なことしかやらない」ことで時間は回り始める
DaiGo氏によれば、先延ばし癖がある人ほど「目の前のどうでもいいこと」から着手しがちだといいます。
その結果、時間をかけても「大切なことが終わっていない」状態になり、満足感も達成感も得られず、自己評価は下がる一方。
だからこそ、「最優先事項以外は“徹底的に”後回しにする」という姿勢を貫くことが、時間管理の中核になるのです。
時間の使い方は“自己肯定感のエンジン”である
動画の最後でDaiGo氏は、「先延ばしをやめて行動できるようになると、人生の手応えが変わる」と語ります。
- 「やるべきことが終わった」という安心感
- 「やり遂げた自分」に対する信頼
- 少しずつ進む成長への実感
こうした小さな“自己効力感”の積み重ねが、人生全体の質を変えていくのです。
まとめ:時間が増えるわけではない、「時間の密度が変わる」
今回紹介された5つの習慣は、単なる時間術ではなく、「自分の時間に自分が責任を持つ」という心理的態度の訓練でもあります。
時間の使い方がうまくなる5つの癖:
- 20秒ルールを使う(やりたいことは早く、やりたくないことは遅く)
- 後の“嫌な気持ち”を想像する(自己嫌悪をモチベーションに変える)
- 最初の一歩だけを意識する(達成不安を減らす)
- 難しいことは決まった時間と場所で行う(脳に習慣のスイッチをつくる)
- 大事じゃないことは全部先延ばす(優先順位の明確化)
出典動画
🎥 時間の使い方が上手くなる癖TOP5(DaiGo)
URL:https://youtu.be/94PBpbEXcHk?si=Oy8WRpFnCLiMzHpd
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
時間をうまく使えないのは、意志や性格の弱さではなく、環境や行動の設計に問題があるとする見方があります。心理学や行動科学の研究では、行動の成否は「どんな性格か」よりも「どんな仕組みで行動を始めるか」によって大きく左右されることが示されています。この記事では、習慣形成や先延ばし行動に関する主要な知見を整理し、日常の時間管理を改善するための現実的な示唆を探ります。
問題設定/問いの明確化
「やるべきことがあるのに、つい後回しにしてしまう」。こうした悩みは多くの人に共通します。行動科学の立場から見ると、先延ばしの原因は「意志の弱さ」よりも、「行動を始めるまでのハードル」にあります。つまり、環境の設計や準備の仕方が、行動を促す鍵となるのです。
定義と前提の整理
習慣とは、環境のきっかけ(キュー)に応じて自動的に起きる行動のことです。研究では、習慣の形成には中央値で約66日(範囲18〜254日)を要し、環境と行動が繰り返し結びつくことで自動化が進むと報告されています[1]。
行動の初動コストとは、行動を始めるまでに必要な心理的・物理的な手間のことです。このコストが高いほど行動は起こりにくく、逆に小さくすると着手率が高まる傾向があります[2,3,7]。
先延ばしとは、重要であると理解していても意図的に行動を遅らせる傾向を指します。短期的には気分を保てますが、長期的にはストレスや満足度の低下を招くことが分かっています[8,9]。
エビデンスの検証
1. 「20秒ルール」と摩擦低減の原理
“20秒ルール”とは、「やりたい行動を20秒早く始められるようにし、やめたい行動には20秒の手間を加える」という考え方です。これは一般書に由来する経験則であり、20秒という数値そのものに科学的根拠はありません。ただし、この発想の核である「摩擦(フリクション)を減らすことで行動を促す」という考え方は、心理学研究と一致しています。たとえば、手順や環境を読みやすく、扱いやすくすると行動意図が高まるという処理流暢性の研究[7]や、環境調整が習慣形成を促す知見[2,3]があります。つまり、20秒ルールは数値としてではなく、行動設計の比喩として有効です。
2. 「時間と場所を固定する」方法
同じ時間や場所で行動を繰り返すと、自動化が進みやすくなります。習慣研究では、環境の一貫性が行動の安定性を高めることが確認されています[2,3]。また、記憶研究においても、学習と想起が同じ環境で行われると成績が上がるという「文脈依存記憶」の効果が知られています[4]。ただし、記憶の再現と習慣形成は異なるプロセスであり、両者を直接同一視することはできません。したがって、「時間と場所を固定する」ことは行動のスイッチを作る実践的手段と考えるのが適切です。
3. 「最初の一歩」を決める実行意図
行動を起こす際は、大きな目標を一気に達成しようとするより、「最初の一歩」を具体的に定める方が効果的です。特に「もし〜なら〜する」というIf–Then形式の実行意図は、着手と継続の両方を助けることが確認されており、メタ分析では中〜大の効果(d≈0.65)が報告されています[6]。
4. 「後悔を想像する」戦略の注意点
人は短期的な気分を保つために行動を先延ばしにしやすい傾向があります[8,9]。そのため、「行動しなかった場合の後悔」を思い描くことは動機づけの一助になります。ただし、人は将来の感情を正確に予測できない(感情予測バイアス)ため、過剰にネガティブな想像はかえって行動を抑制することがあります[11]。この課題に対して、目標と障害を対比し、実行意図を結びつけるMCII(メンタル・コントラスト+実行意図)が有効とされ、目標達成で小〜中の効果が示されています[12]。
5. 重要なことに集中する時間管理
目標設定、優先順位づけ、スケジューリングなどの時間管理行動は、仕事の成果や学業成績、幸福感と中程度の関連を示すことが報告されています[5]。一方で、先延ばし行動は自己効力感の低下やストレス増加と関連しており、重要な課題を優先することが心理的安定にも寄与します。
反証・限界・異説
紹介した方法は有効性が示されていますが、すべての人や状況にあてはまるわけではありません。軽度の環境調整(例:20秒ルール)は抵抗の強い課題には限定的であり、実行意図や社会的支援と組み合わせることで効果が高まります。また、固定した時間や場所の設定は、環境の変化が多い人には負担になることがあります。その場合は、「朝食後」「帰宅後」など日常の出来事に行動を結びつける方が現実的です。さらに、「後悔を想像する」戦略は不安傾向が強い人にとって逆効果になる場合があるため、感情よりも行動設計に焦点を置くことが望ましいとされています。
実務・生活への含意
- 行動を始めやすくするために、必要なものをあらかじめ整える。
- If–Then形式で行動条件を決め、最初の一歩を明確にする。
- 時間や場所をできる範囲で固定し、行動を自動化しやすくする。
- 重要なタスクを先に実行し、雑務はまとめて処理する。
- 感情操作よりも、環境と行動設計を中心に改善する。
まとめ:何が事実として残るか
時間の使い方を左右するのは、意志ではなく仕組みです。行動科学の研究によれば、摩擦を減らし、文脈を整え、小さな一歩を設計することで、先延ばしは減らせることが示されています。これらの工夫は「時間を増やす」ものではありませんが、「時間の密度を高める」助けになります。重要なのは、自分の生活環境に合わせて設計を微調整し、試行を重ねることです。
本記事の事実主張は、本文の[番号]と文末の「出典一覧」を対応させて検証可能としています。
出典一覧
- Lally, P. et al.(2010)『How are habits formed: Modelling habit formation in the real world』 European Journal of Social Psychology 公式ページ
- Wood, W.; Neal, D. T.(2007)『A New Look at Habits and the Habit–Goal Interface』 Psychological Review PDF
- Wood, W.; Neal, D. T.(2016)『Healthy through habit: Interventions for initiating & maintaining health behavior change』 Behavioral Science & Policy 2(1) 公式PDF
- Smith, S. M.; Vela, E.(2001)『Environmental context-dependent memory: A review and meta-analysis』 Psychonomic Bulletin & Review 公式ページ
- Aeon, B.; Faber, A.; Panadero, E.(2021)『Does time management work? A meta-analysis』 PLOS ONE 公式ページ
- Gollwitzer, P. M.; Sheeran, P.(2006)『Implementation Intentions and Goal Achievement: A Meta-analysis of Effects and Processes』 Advances in Experimental Social Psychology 概要
- Song, H.; Schwarz, N.(2008)『If it’s hard to read, it’s hard to do: Processing fluency affects effort prediction and motivation』 Psychological Science PubMed
- Steel, P.(2007)『The Nature of Procrastination: A Meta-Analytic and Theoretical Review of Quintessential Self-Regulatory Failure』 Psychological Bulletin PubMed
- Sirois, F. M.; Pychyl, T. A.(2013)『Procrastination and the Priority of Short-Term Mood Regulation』 Social and Personality Psychology Compass 抄録
- Wilson, T. D.; Gilbert, D. T.(2005)『Affective Forecasting: Knowing What to Want』 Current Directions in Psychological Science PDF
- Wang, G. et al.(2021)『A Meta-Analysis of the Effects of Mental Contrasting With Implementation Intentions (MCII) on Goal Attainment』 Frontiers in Psychology PMC