「勉強してない」から始まる話
成田悠輔という人物には、「天才」「イェール大学助教授」「高学歴」など、いわゆる“成功者”のイメージがついて回ります。しかし彼自身は、そのイメージとは裏腹に、驚くほどの脱力感と軽やかさをもって“勉強”というものを語ります。
彼はまず、こんなふうに切り出します。
高校の3年間、ほぼ何もしてなかったんですよね。
センター試験だけは先生に言われて受けたけど、ランダムにマークするより低い点数を叩き出した。
この時点で、普通なら絶望するようなエピソードです。しかしその後の彼は、大学進学から海外の研究機関まで進み、現在はアカデミックとメディアの両方で発信する人物となっています。
このギャップの謎を解く鍵こそが、彼の「勉強法」と「教育観」にあるのです。
勉強は“最小の努力”でいい
成田氏は、勉強に対して基本的に好きでも得意でもないと語ります。にもかかわらず、必要な場面ではしっかり結果を出してきた。その理由は、彼の勉強に対する戦略が徹底して「目的重視」だったからです。
入試のための勉強なら、まず入試問題そのものを見て、“何ができればいいのか”を把握して、必要なことだけをやる。
他のことは全部やらない。
つまり、彼にとって勉強とは「自分がクリアしたい課題をクリアするための道具」でしかなく、学校で言われる“学ぶ姿勢”や“知的好奇心”とは無関係でした。むしろ、余計な努力を省くことを最優先するのです。
「3種類の勉強」が混ざっているのが問題だ
この合理的な勉強観の背後には、彼なりの“勉強の分類”があります。彼は世の中に存在する勉強を、以下のように三つに分けています。
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手段としての勉強：
入試や資格、単位取得など、明確なゴールがあるときの勉強。 -
目的としての勉強：
学ぶこと自体が楽しくて意味があると感じる、純粋な好奇心による勉強。 -
社会の奴隷訓練としての勉強：
みんなと同じことをやることで“従順さ”を身につける訓練。
この三つは、本来まったく違うものです。しかし、学校教育や社会ではこれらが混同されてしまっている。結果として、「目的のない努力」や「自分に向かない学び」に苦しむ人が量産されてしまっているというのです。
「向いてない人は、やらなくていい」
勉強に向き不向きがある──この考え方を成田氏は否定しません。むしろ強く肯定します。
向いてない人が、無理して勉強を続けるのは、コスパ悪すぎる。
スポーツや芸術などでは「才能がない人がプロを目指して苦しむ」ことに慎重な目が向けられます。しかし、勉強となると、なぜか「誰でも努力すればできる」という前提が放置されたままです。
成田氏はこの風潮に疑問を投げかけます。そして、向いていない人が早めに離脱し、自分に合った別の生き方を模索することこそが健全だと説きます。
なぜみんな“同じ勉強”をさせられるのか？
この疑問の根っこにあるのは、教育システムの仕組みです。なぜ人々は、得意不得意に関係なく、画一的なカリキュラムを押し付けられてきたのか？
昔はローテクだったから、教育は大量生産するしかなかった。
だから教科書や問題集といった“量産可能なメディア”をみんなに与えるしかなかった。
つまり、現代の教育は、産業時代の「工業型教育」の名残であり、そこには個人の特性を反映させる余地が少なかったという指摘です。
そして今──AIやテクノロジーの進化により、「一人ひとりに最適化された教育」が可能になりつつある。成田氏はこの変化を前向きにとらえます。
これからは人によって学ぶ内容が変わっていく。
得意なことや好きなことを中心にやって、苦手なことは捨てちゃってもいい。
僕たちは「最後の被害世代」かもしれない
成田氏は、現在の子どもや若者たちが、「画一的な勉強を強いられる最後の世代」になるかもしれないと予測します。
今は辛い過渡期。僕たちは、その“教育の呪い”に苦しめられる最後の人類かもしれない。
この言葉には、苦しんでいる学生たちや、子どもの勉強に悩む親へのエールが込められています。
■ 壊れることは、異常ではない
ここまで「向いていないなら勉強はやらなくてもいい」という大胆な提言を通じて、成田悠輔氏の“反・画一教育”の姿勢を紹介しました。
彼の教育論がやがて「人生全体」へと広がっていきます。
成田氏は、学びや努力の価値を問う中で、「そもそも“普通に生きること”自体が、実はとても難しいことなのではないか」と問題提起します。
普通に働いて、普通に稼いで、子どもを持って、40〜50年を何ごともなく生きていく──
それって実は、めちゃくちゃ難易度の高いゲームですよね。
この言葉は、表面的に「うまく生きている」ように見える人たちにも、実は見えないトラブルや葛藤が潜んでいることを示唆しています。
「家族関係に問題がない人なんて、ほとんどいない」
成田氏は、人間関係や家族にまつわる困難を、「隠された地獄」と呼ぶように、静かに語ります。
だいたいみんな、家族関係に何かしらのトラブルを抱えてる。
でも、それを口にしないから、ないように見えてしまう。
多くの人が「何も問題がないように見える他人」に比べ、自分の人生を劣っているように感じてしまいます。しかし、現実には「完璧な家庭」などほとんど存在せず、むしろトラブルを抱えることのほうが“普通”なのです。
多くの人が何かしらの地獄を抱えながら、それでも普通に生きてる。
それを知るだけでも、十分なんじゃないかと思います。
この視点は、苦しい状況にある人にとって、「あなただけじゃない」とそっと伝える優しいまなざしでもあります。
「社会に良いこと」は、個人には負荷が大きすぎる
さらに成田氏は、社会の持続可能性や他人への配慮といった「正しさ」が、個人にとっては大きな負担になっていることを指摘します。
社会のためになる生き方って、個人にはすごい負荷がかかる。
自分を犠牲にしないと成立しないことも多い。
この矛盾は、育児・介護・仕事・地域参加など、いわゆる“模範的な生き方”を求められる人々にとって、日々の重圧となっています。成田氏はそこに、「無理しすぎるな」というメッセージを重ねます。
時々、壊れてもいい
このように、「普通に生きること」の難しさを直視する成田氏は、次のようなメッセージを投げかけます。
壊れちゃうのは、普通だと思うんです。
壊れたら壊れたで、掘っ立て小屋でも建てながら、またやり直せばいい。
これは、いわば「リカバリー可能な人生観」です。人生において絶対に壊れてはならないものはない。むしろ、壊れることを前提としながら、柔らかく生きていく方が、人間にとって自然なのかもしれません。
人類はずっとそうやって生きてきたんですから。
そういうものだって思っておけばいい。
この軽やかさは、完璧を目指しすぎて疲れてしまった現代人にとって、どこか救いにも聞こえるのではないでしょうか。
他人の“無事そうな顔”に、だまされないこと
最後に成田氏は、世の中に蔓延する“他人は順調そうに見える現象”についても触れています。
周りの人、社会全体がつつがなく暮らしてるように見えるかもしれないけど、
それに騙されちゃいけないと思うんです。
SNSで見る友人の投稿、職場で見せる笑顔、親戚の“しっかりしてる子”……それらが“虚像”とは言わないまでも、全体像の一部にすぎないことは明らかです。
成田氏の言葉は、「比較の呪い」に囚われた人々に対して、「それは錯覚かもしれない」とやさしく言っているように感じられます。
おわりに──教育と人生の呪縛から離れて
このインタビュー全体を通じて、成田悠輔氏が語っていたのは、「勉強」や「教育」の話にとどまらず、もっと根源的な問いでした。
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人はなぜ、同じ道を強いられるのか？
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なぜ、壊れることを“敗北”と見なしてしまうのか？
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なぜ、他人と比べずにはいられないのか？
こうした問いに対する彼の答えは、意外にも静かでやさしいものでした。
向いてないなら、やらなくていい。
壊れたら、立て直せばいい。
他人と比べる必要なんて、そもそもなかった。
成田氏の語りには、常識への反抗や過激な批判だけでなく、「柔らかい否定」が込められています。それは、他人にも、自分にも、過剰な期待を抱かない自由。失敗や脱線を受け入れ、また歩き出せる余白。そんな人生観がそこにはありました。
出典元：
YouTubeチャンネル「KIDSNAチャンネル」
『成田悠輔の勉強法』
公開日：2023年
視聴リンク：
https://youtu.be/Mj6oiiI0_QM
