はじめに:「魔女狩り」は愚かさか、社会的装置か?
私たちは歴史の教科書などで、「魔女狩り」を“迷信と狂気が支配した時代”の象徴として習ってきました。悪魔と契約した魔女など実在するはずもなく、無実の人々が無惨に拷問され、処刑されていった。その非合理さと非人道性に、現代人の多くは呆れ、怒り、あるいは同情の念を抱くでしょう。
けれども今回紹介する、ひろゆきさんの「魔女狩りは治安を良くする」という逆説的タイトルのYouTube動画では、私たちが見落としがちな視点が語られます。それは「魔女狩りが実際に社会秩序を保つ機能を果たしていたのではないか?」という問題提起です。
この視点に立つと、魔女狩りは単なる狂気ではなく、むしろ支配者や民衆にとって“合理的”に運用されたシステムだったことが見えてきます。そしてさらに重要なのは、こうした構造が現代にも形を変えて存在しているという点です。
この記事では、ひろゆきさんの語りを軸に、魔女狩りの本質、治安との関係、そして現代社会に残る「魔女狩り的構造」までを前後編に分けて丁寧に読み解いていきます。
魔女狩りとは何だったのか?——“異端”というラベルで動かす恐怖の構造
魔女狩りは中世から近世にかけて、主にヨーロッパで広く行われた「異端排除」の制度でした。とりわけ15世紀から18世紀初頭にかけて、ヨーロッパ各地で数万人単位の人々が“魔女”として告発され、拷問・火刑などの残虐な方法で処刑されました。
ひろゆきさんも触れていましたが、ここで重要なのは「実証可能な罪がなくても告発できる」仕組みが整っていたことです。誰かが「あいつは魔女だ」と言えば、証拠がなくても捕まえられ、拷問によって「自白」させられる。この自白によって連鎖的に次の“魔女”が生まれるという恐怖の循環が起こっていたのです。
さらに恐ろしいのは、処刑された側が“悪”とされていたことです。これは「道徳的正義」と「暴力」が表裏一体になっていたことを示しています。まさに、構造的暴力が制度として正当化されていたわけです。
なぜ魔女狩りが“治安を良くする”と考えられたのか?
ここでひろゆきさんが注目するのが、「魔女狩りによって人々が安心した」という逆説的な現象です。
どういうことでしょうか?
当時のヨーロッパ社会では、災害・飢饉・疫病などの厄災が頻繁に起こり、人々はその原因を理解できずに不安に苛まれていました。その不安をどこかにぶつける必要があり、「見えない悪」を魔女に仮託することで解消したのです。つまり、「社会不安を魔女というスケープゴートに集約することで、民衆の怒りをコントロールできた」というわけです。
ひろゆきさんは、こうした構造を「安心装置」と表現しています。
しかもこの装置は、権力者にも民衆にも都合がよいものでした。
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権力者にとっては、不安の矛先をそらし統治を安定させられる。
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民衆にとっては、「悪が裁かれた」というカタルシスを得られる。
結果として、魔女狩りは「治安を悪化させる不安要素を排除するための正義の行為」として、社会全体に受け入れられていたのです。
犠牲によって成り立つ「秩序の演出」
魔女狩りにおける処刑は、単なる制裁ではなく“儀式”としての意味を持っていました。
広場での公開処刑、群衆の見物、火刑という劇的な方法——これらは民衆に「秩序が回復した」という印象を与える演出でした。ひろゆきさんはこの点を、現代の“見せしめ”や“吊るし上げ”に通じるものとして解釈します。
つまり、魔女狩りは単に暴力的な制度ではなく、「暴力を使って安心を生み出すパフォーマンス」でもあったのです。
このように、「秩序」は必ずしも実質的な安定とは限りません。むしろ、誰かを犠牲にしてでも「安心しているふり」ができる社会こそが、魔女狩り的秩序の本質です。
誰が魔女にされるのか?——“異物”を排除するメカニズム
では、どんな人が“魔女”にされやすかったのでしょうか?
ひろゆきさんは、「目立つ人」「孤立している人」「ルールに従わない人」「女性であることそのもの」がリスクになったと述べています。実際、伝統社会では既存の枠組みに従わない存在が“異物”とされ、排除されやすい傾向があります。
魔女狩りは、言ってみれば「異物排除を通じて安心を得る」社会の構造をむき出しにしたものだったのです。
まとめ(前編)
ここまでを整理すると、魔女狩りとは:
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実在しない“悪”をでっち上げ、不安のはけ口にする装置であり、
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社会の“安心感”と“秩序”を暴力によって維持する制度であり、
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見せしめと恐怖によって人々を従わせる演出でもあった。
そして恐ろしいことに、この構造は現代にも脈々と受け継がれているのです。
現代社会に残る“魔女狩り的構造”
前編では、魔女狩りが社会にとって「安心の装置」として機能していた構造を解説しました。そしてひろゆきさんは、このような構造が形を変えて現代にも存在していると指摘します。
その最も顕著な例が、「ネット上の炎上」です。
誰かの失言やスキャンダルが拡散され、関係のない人々が一斉に攻撃を始める。しかも、その過程で「正義の名のもとに」責めることが正当化され、攻撃する人たちはむしろ「いいことをしている」と信じて疑わない。
このような構図は、まさに中世の魔女狩りと同じです。違うのは、「火刑」ではなく「SNS」で処刑が行われること。そして加害者が匿名のまま、集団で攻撃できることです。
炎上文化は「安心を買う装置」になっている
ひろゆきさんの観察によれば、人々は炎上を見ることで「安心」を得ていると言います。
「自分は正しい側にいる」「悪いやつが罰を受けてスッキリした」——そう思うことで、現代人は不安定な社会の中で自分の立ち位置を再確認しているのです。これは魔女狩りとまったく同じ心理構造です。
しかも、こうした炎上コンテンツは「数字」がつく。アクセス数、再生回数、コメント数、収益——すべてがエンタメとして成立している。つまり、“魔女を狩る”ことがビジネスとして回ってしまう社会になっているのです。
なぜ人は「叩くことで安心する」のか?
ここでひろゆきさんが言及するのが、人間の攻撃本能と安心のトレードオフです。
誰かを責めているとき、人は「自分は正義だ」と思いやすくなり、そのことで不安や自信のなさを解消できます。これは脳内にドーパミンが出るような、一種の快感です。つまり「安心」や「正しさの再確認」が、暴力と結びついてしまっているのです。
この心理構造があるかぎり、魔女狩り的な行動はなくならない。炎上も、バッシングも、「他人を叩くことによって自分の安定を得る」という社会的構造の一部にすぎないと、ひろゆきさんは分析します。
「正義」の名のもとに暴力が許される社会
もっとも危険なのは、「これは正義だから許される」と思い込んでしまう構造です。
ひろゆきさんは、「人を叩いてるときに“自分が正義”って思い込んでる人が一番怖い」と語ります。それは正義ではなく、“正義の皮をかぶった私刑”であり、結果的に無実の人を追い詰める力学になります。
実際、過去にネットで叩かれた人が精神的に追い詰められ、自死に至ったケースもあります。魔女狩りと違うのは火刑の代わりに無視・冷笑・経済的排除・評判の破壊が行われること。けれど、その本質は変わりません。
ひろゆきが勧める「秩序の保ち方」とは?
それでは、魔女狩りのような構造に巻き込まれないために、あるいは加担しないためにどうすればよいのでしょうか?
ひろゆきさんの提案は、意外にもシンプルです。
「変な人がいても、距離を取るだけでいい。
別に正そうとしなくていい」
つまり、「他人の異常や欠点を“正そうとすること”が暴力につながる」という認識を持ち、必要以上に関与しない態度が現代的な秩序の作り方になる、というわけです。
これは「寛容」とは少し違います。より近いのは「鈍感力」や「相互無関心」かもしれません。他人が自分と違っても気にしない、放っておく。そうした“関与しない知性”が現代社会に求められているという視点です。
「違い」が許される社会こそが、真の安心を生む
魔女狩りのような社会は、みんなが「同じ」でなければ秩序が保てないという前提で成り立っていました。けれど、現代はそうではありません。
むしろ、多様性を認めること、他者の違いを気にしすぎないこと、それが新しい「安心」の形です。ひろゆきさんの言うように、安心のために誰かを叩くのではなく、**安心とは「叩かなくても大丈夫と思える心の状態」**であるべきなのです。
おわりに:私たちはいつでも“魔女”にも“狩人”にもなりうる
この記事を締めくくるにあたり、ひろゆきさんの語りが私に残した印象を一言で表せば、こうなります。
「安心のために、誰かを犠牲にしていないか?」
魔女狩りの時代とは違い、私たちは表現の自由も情報も持っています。けれど、その分「誰かを叩く自由」も、構造的に広がってしまっている。
自分が“狩られる側”にならないためにも、そして“狩る側”にならないためにも、魔女狩りの構造を見抜く視点を持つこと。その冷静な視点こそが、ひろゆきさんがこの動画で伝えたかったメッセージではないかと感じます。
まとめ
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人は叩くことで安心感を得るという心理的構造がある
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「正義の名の暴力」は最も危険な形で暴走する
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距離を取る、関与しないという選択が新しい秩序をつくる
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多様性を受け止める社会こそが、真の「治安の良さ」につながる
この記事は、ひろゆきさんの動画「魔女狩りは治安を良くする」から得られる洞察をベースに、現代社会と人間の心理構造を丁寧に読み解いた試みです。あなたが何かを「叩きたくなった」とき、それはあなたの安心を脅かす“何か”に対する反応かもしれません。
そしてそのとき、自分が“魔女狩りの一部”になっていないか、ぜひ立ち止まって考えてみてください。
出典:YouTube動画「魔女狩りは治安を良くする。Blanche LEFFE D21」
https://www.youtube.com/live/HH7ptfUnPSY?si=Ex24lU2Tdf5kil2j
読後のひと考察──事実と背景から見えてくるもの
近代初期の魔女裁判(特に15〜18世紀のヨーロッパとアメリカ)は、異端・魔術の濫用と見なされた非合理な迷信の暴走とされる一方で、社会不安のはけ口として機能したという解釈もあります[1]。神や悪魔への恐怖、大飢饉や疫病、宗教改革期の混乱などの背景が、群衆心理を動員し「悪」を必要とする社会構造を生んだと考えられています[2]。
こうした視点は、魔女狩りが秩序の演出や見せしめとして用いられたという分析と合致します。「恐怖+引き金=スケープゴート」という構造は、精神的不安を集団的排除へと変換する典型的なメカニズムです[3]。
社会統制の視点から見ると、経済的・政治的な不安定期に魔女狩りが盛んだったことが明らかで、権力維持や共同体の結束を目的とした制度として機能した例もあります[4]。たとえば、印刷術の普及によって魔女裁判記録が急速に拡散し、一地域の裁判が他地域にも波及した事例が知られています。
ジェンダーや社会階層との関係では、マルクス主義的フェミニズムの視点から、魔女狩りが資本主義成立期における女性の身体と労働力の管理・制御を目的に構造化された可能性が指摘されています[5]。シルヴィア・フェデリチは『カリバンと魔女』の中で、魔女狩りを資本主義的生産体系への女性の再編成と位置づけています。
一方で、一部の文化進化論的分析では、魔女狩りが社会統合を促すどころか、むしろ共同体内の緊張を激化させる結果をもたらしたとする批判も存在します[6]。社会的結束を強化する前に、むしろ分裂や混乱を助長し、共同体の持続性を損なったという指摘です。
総じて、魔女狩りが治安維持の装置として機能したという視点は、歴史・社会学・文化研究の領域でも一定の理論的根拠があります。ただし、それが必ずしも秩序維持として肯定的に作用したわけではなく、暴力や偏見の制度化という負の側面も無視できません。現代の炎上文化やスキャンダル追及といった現象にも通じる普遍的構造が存在し、その背景にはスケープゴート理論の影響が色濃く見て取れます。
出典一覧
[1] Witch trials in the early modern period (近代初期の魔女裁判), 2025年, Wikipedia — https://en.wikipedia.org/wiki/Witch_trials_in_the_early_modern_period
[2] Fearful Tension: The Salem Witch Trials, 2025年, Boston College Myst — https://ejournals.bc.edu/index.php/MYST/article/download/13489/10449/28675
[3] Witch Hunt Fears, Triggers, And Scapegoats, 2025年, Salem Witch Museum — https://salemwitchmuseum.com/witch-hunt/
[4] How a witch-hunting manual & social networks helped ignite Europe's witch craze, 2024年, Santa Fe Institute — https://www.santafe.edu/news-center/news/how-a-witch-hunting-manual-and-social-networks-helped-ignite-europes-witch-craze
[5] Feminist interpretations of witch trials in the early modern period, 2025年, Wikipedia — https://en.wikipedia.org/wiki/Feminist_interpretations_of_witch_trials_in_the_early_modern_period
[6] 'Viral' Hunts? A Cultural Darwinian Analysis of Witch Persecutions, 2019年, ResearchGate — https://www.researchgate.net/publication/334492991_'Viral'_Hunts_A_Cultural_Darwinian_Analysis_of_Witch_Persecutions