ディズニーランドは「夢」か「打算」か?
今回は、2015年2月15日放送の第61回「ディズニーランド特集」を取り上げます。
テーマはずばり「夢と魔法と打算の国」。ファンタジーと感動に満ちたあの場所の裏に、いかに冷徹な戦略と演出が詰まっているのか?岡田さんならではの視点で徹底解剖しています。
「ディズニーランドに乗らない男」が語る、その魅力
岡田さん自身は年に1〜2回ディズニーランドに行くとのことですが、実はアトラクションにはほとんど乗らないそうです。
では、なぜ足を運ぶのか?理由は「研究対象としての興味」。娘さんと家族連れで行ったのも過去の話で、最近は一人での観察がメインだとか。
実際、アトラクションに乗らなくても、パーク全体の演出や導線、建築デザインを見ているだけで学びがあるといいます。
かつては入場料が3,500円の時代もあり、岡田さんは「映画2本分でこの体験ができるなら安い」と評価していました。
値上げの裏にある「世界的構造問題」
この放送の背景には、2015年にディズニーランドの入場料が6,900円に値上げされたニュースがあります。たしかに400円の値上げに過ぎませんが、岡田さんはここに大きな潮流を見て取ります。
それは「全世界的にテーマパークの入場料が上がっている」という傾向です。ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)も同様に値上げを続けており、理由として挙げられるのが以下の3つ:
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施設の老朽化による維持コストの増大
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保険料の高騰(特に震災後の日本)
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人件費の抑制と効率化の限界
テーマパークは「自動化の戦場」である
岡田さんは、ディズニーランドのビジネスモデルを語る際に『ジュラシック・パーク』(マイケル・クライトン著)を引き合いに出します。
この小説は、ただ恐竜を描いただけでなく、テーマパーク経営の要諦として「いかにスタッフを減らせるか」が語られているのです。
例えば:
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待機列の途中に人を配置する代わりに、モニター映像で間をもたせる
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酒類を売らないことでトラブル防止(スタッフ削減)
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ライドの完全自動化によって案内員ゼロの運営を実現
これらはまさに、ディズニーが実践していること。岡田さんは「金がかかっているように見えるところほど、実は人件費を削減するための初期投資だ」と指摘します。
東京ディズニーランド最大の“謎”:ディズニー社が所有していない
日本にある東京ディズニーランドは、世界でも唯一ウォルト・ディズニー・カンパニーが所有していないパークです。
運営はオリエンタルランドという日本の会社。これは1980年代、ディズニー社が財政的に苦しかった時期に、ライセンス契約で妥協した結果でした。
しかし予想に反して大成功。日本人は飲食にはあまりお金を使わない一方で、お土産を「爆買い」するという文化が、ディズニー社にとっては想定外だったのです。
今ではこの契約は「ディズニー史上最大の失策」とまで言われています。
着ぐるみの中の人事情:ミッキーは誰か?
夢を壊すようで恐縮ですが、岡田さんは“中の人”の話にも触れています。たとえば:
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ミッキーマウスの中に入っているのは、現在ほとんどが女性
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身長150〜152cmの女性が条件に合うため、男性はほぼ不在
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ダンスや演技経験があっても不利。ディズニー専用の動きをゼロから叩き込む
しかもこの仕事、時給はたったの1,100円〜1,200円。しかしやりがいと夢の力で、長期で続ける人も多いそうです。
人件費を削りながら「サービス日本一」?
東京ディズニーランドの社員は実は非常に少なく、現場はほぼアルバイトで運営されています。ここにあるのが「セブンイレブン方式」。岡田さんはこう言います:
「アルバイトに判断権限を与えて、自律性を高めることで効率的な経営を実現している」
しかしこれは裏を返せば、ディズニーランドの成功が「やりがい搾取」と紙一重であることも意味しています。
老朽化と限界:ディズニーランドはもう「夢の国」ではない?
シューティングギャラリーのような古いアトラクションでは、電球の消耗に膨大な維持費がかかります。
さらに震災後の保険料上昇、安全基準の厳格化などが追い打ちとなり、施設全体のコストは年々高騰。
その結果、入場制限が緩和されて混雑が常態化し、アトラクションは長蛇の列。もはやディズニーランドは「夢を見る場所」ではなく、「忍耐と待機の現場」になりつつあるのです。
「夢」と「打算」の設計図を描いた男
ディズニーランドを語るとき、私たちはつい「夢と魔法の国」というイメージに引き込まれてしまいます。しかし、岡田斗司夫さんはその背後にあるウォルト・ディズニーのリアルな姿を描き出しました。
1950年代、ウォルト・ディズニーはニューヨークのコニーアイランドを訪れ、その荒れた環境に失望します。売春・麻薬・治安の悪化……子供と訪れるにはとても相応しくない場所でした。そこから生まれたのが、「家族で安心して楽しめる遊園地」というコンセプト。
つまりディズニーランドとは、従来の“腐敗した遊園地”に対するアンチテーゼだったのです。
ウォルト・ディズニーの“建国神話”とTV戦略
ウォルト・ディズニーは、ディズニーランド建設のためにABCテレビに出資を仰ぎ、週に一度、自らテレビに出演して番組を持ちました。
まるで現代のYouTuberのように、「ディズニーの世界」を毎週届けることによって視聴者の関心を高め、資金と人気を両立させていったのです。
さらに彼は、アメリカの宇宙開発を牽引した伝説のロケット科学者フォン・ブラウンと協力し、テレビ番組でロケットの未来を描きます。
これが後にアメリカの宇宙ブームへとつながり、ロケットの夢を子供たちに届ける布石になったのです。
ウォルト・ディズニーとは、ただのアニメ作家でも、遊園地の経営者でもなく、「文化と国家を変える」思想家だったとも言えるでしょう。
なぜフロリダに“ディズニーワールド”を作ったのか?
カリフォルニアのアナハイムに建てた最初のディズニーランドでは、周囲の土地が買収できず、開園後に怪しげなホテルや店が乱立。
ディズニー自身は大きな損失を被りました。
この反省をもとに、次に選ばれたのがフロリダ。
フロリダでは、誰も住んでいないような広大な沼地を先に買収し、その真ん中に「夢の国」を作るという戦略を取りました。森・湖・ゴルフ場・リゾートホテルを一体にして、まるごとディズニーの世界を形成。
さらに住宅や別荘の分譲まで行い、「テーマパークが街を育てる」という不動産ビジネスモデルも確立します。岡田さんはこれを「セガやドワンゴにはできない、国家規模の都市設計」と称しました。
東京ディズニーランドは“唯一の例外”
東京ディズニーランド(TDL)は、ディズニー社が資本を持たない唯一のパーク。
これは、ディズニー本社が「日本で遊園地なんて儲からないだろう」と見誤ったからです。
日本側のオリエンタルランドは、アメリカ本社からライセンスを受けるだけで、経営も利益も独自のもの。結果、東京ディズニーランドだけが“日本の会社によって運営されるディズニー”という特殊な構造となりました。
この契約を交渉したディズニー社員は一時的に出世しますが、後に「ディズニー史上最大の損失を出した男」として批判されることになります。
「偽ディズニー」が奈良にあった!?ドリームランドの伝説
岡田さんが次に語るのは、かつて日本に存在した「奈良ドリームランド」の話です。
奈良にできた“幻のディズニーランド”
1950年代、日本のある実業家がウォルト・ディズニーに接触し、「日本にもディズニーランドを作りたい」と申し出ます。当初は本家ディズニーも興味を持っていたそうですが、契約の途中で頓挫。実業家は「ならば独自に作ろう」と考え、ほぼディズニーランドのコピーのような遊園地を奈良に建設。
名前は「ドリームランド」。外観や構造までディズニーそっくりだったため、当時の来場者は「日本にもディズニーが来た!」と喜びました。
しかしこの施設は、内容もサービスもディズニーに到底及ばず、やがて時代の流れとともに消えていきました。
「夢の模倣」はなぜ失敗するのか?
ドリームランドのような例は、「模倣された夢」の限界を示しています。つまり、ディズニーが成功したのは演出やデザインだけではなく、細部まで整えられたシステムと理念に裏打ちされていたからです。
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計算され尽くした滞在時間と導線設計
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自動化と人件費削減の工夫
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バイト主導のオペレーションと教育体制
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ブランドと感情への投資
岡田さんが強調するのは、「ディズニーは“夢を売るプロの集団”」であるという事実です。模倣ではこの“プロの構造”まで再現できない。それが、日本のドリームランドが長続きしなかった理由です。
現代のディズニーに問われる“持続可能性”
岡田さんは、ディズニーランドをかつての成功モデルとして讃える一方で、現在の問題点にも冷静な目を向けています。
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施設の老朽化(電球だけで毎日100個が切れる)
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バイトの高齢化と時給の限界
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保険料の増大と安全基準の強化
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世界中から来る観光客によるマナー問題
こうした要因によって、ディズニーランドは今や「理想的な夢の国」から、「メンテナンスと調整に追われる実務の現場」へと変わりつつあります。
それでも、夢は続く
それでも私たちは、あの場所に惹かれ続けます。混雑にうんざりし、チケット代に驚き、待ち時間にうんざりしても、それでも「また行きたい」と思ってしまう。
ディズニーランドは、単なる遊園地ではありません。それは「文化的記号」であり、「社会構造のモデル」であり、同時に「私たちの心の中の夢の原型」でもあるのです。
総まとめ
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ディズニーは「反・腐敗遊園地」から始まった
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科学的設計とTV戦略によるブランド創造
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フロリダでは国家規模の都市設計を成功させた
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日本ではオリエンタルランドによる“外注型”が奇跡的に成功
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奈良ドリームランドはその模倣として短命に終わった
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現代では老朽化と人件費の問題が顕在化している
出典
YouTube動画『岡田斗司夫ゼミ#61(2015.2.15)夢と魔法と打算の国ディズニーランドを徹底解説!』
https://youtu.be/e8sxNyIHbC4